失敗作
エーナの主張に対し俺は納得しつつも……非常に大変な戦いになることは理解できたし、それは彼女も理解している様子だった。
「問題はどうやって解析するのか……魔力の痕跡を発見できるまで、というレベルに至るには最低でも一時間くらいは拘束したいところだけど」
「ずいぶん難易度が高いな」
「調べられないよう、副会長はディアスやアルザでも強いとわかるくらいの個体で襲撃を仕掛けた」
まあそうだな……簡単に捕まえられるようなレベルであったら、そもそもこんな事態には陥っていない。
「たぶん私が容易に捕まえられないようなくらいの能力を持たせているんだと思う」
「ああそういうことか……会長を追い落とすだけなら、あんな能力にする必要はないもんな」
つまり今回の敵は元々英傑と戦うのを想定して作られている……そんな能力を持たせること自体が異例だし、何より実現可能というのが驚愕なのだが。
「……騒動は起きてしまっている」
ここで俺はエーナへ言及する。
「なおかつ襲撃者は動かないし、騎士達が監視している。ここはじっくり時間を掛けて森に魔法陣でも構築すれば調べられるんじゃないか?」
「さすがにそんなことをしたら副会長も気付くし、たぶん敵だって襲い掛かってくる……というか自滅して証拠隠滅、って感じじゃないかな?」
「そう考えると、倒したらあっさりと消えそうだな、今回の敵」
「うん、そうだね……なおかつ、時間もあまりない」
「時間? どういうことだ?」
「魔力を調べたところ、驚異的な能力を持っているのは確かだけど、それは内に抱える大量の魔力によって裏打ちされたもの」
「まあ、そうだろうな」
「襲撃者はその魔力によって体と強さを維持している……つまり」
「時間が経てば能力が落ちて、最終的に自壊するということか」
エーナは頷く……なんというか、嫌がらせのような特性である。
「だから今日明日……そのくらいまでに証拠を見つけないと、たぶん襲撃者は勝手に消え去ると思う」
「それまで待てば一応事件は解決するけど……副会長の目論見通りか」
「そうだね。外部から操っている場合、私達が察知する可能性があるから襲撃者は自立して動いているのは間違いない。よって滅び去るまでに数日……その間に証拠を手に入れる」
「他に襲撃者がいる可能性は?」
「証拠に残るかもしれない個体をさらに増やすと思う?」
問い掛けに俺は「ないな」と返答した。
「うーん、かなり面倒な仕事だな……で、その中で俺はどうする?」
「策から考えると、敵の動きを止めるための拘束魔法……それの補助かな?」
「エーナは使えるのか?」
「正直微妙。英傑クラスの敵に対しても互角に渡り合える能力を持っているし、本来魔法使いではない私がやる拘束魔法は、さすがに防がれてしまうと思う」
ここでエーナは腕組みをして、
「幸い調査は進んでいるし、朝までには襲撃者の動きを止められるくらいの魔法は作れると思う。ただ」
「一時間とかいうレベルでの拘束はしんどいよな」
「魔法の維持は職員で行うしかないけど……長時間魔法を使うというのは、果たしてどれだけの力が必要なのか」
「……そういうことなら、俺の出番ではあるけどな」
「強化魔法の?」
「ああ。魔力を増幅させ、高める効果……そういった魔法も使えるぞ」
「でも一時間だよ?」
「当然俺の魔力だけでは足りないから、大地から魔力を吸い上げるとか、そういう方法を使う必要はありそうだな」
「……できるの?」
「一応な。確認だけど拘束魔法を使用する職員は、動かないよな?」
「え、うん。そうだね」
「ならできるぞ。大地と密接に魔力を繋げて強化する……ただし、一つ難点がある。身じろぎ程度なら問題ないけど、横に一歩でも動いてしまうと効果が切れる。ただし今回の場合は、エーナの言うように動かないならいけるだろ」
「その魔法、どういうところで役に立つの?」
「実際使ったことはないんだよな。大地から魔力を取りだして強化できれば最高だろ、ということで開発したまでは良かったけど、横に自分の体くらいの幅動いたら効果が切れるという……言わば失敗作ができあがったわけだ」
「それが完成したらディアスも英傑入りしていただろうねえ。世の中そんなに甘くないと」
「この魔法を考えついたのは二十手前だったんだが、そんな年齢の青二才が考えているようなことは、とっくに誰か試しているんだよな。で、活用できないから誰もやっていない」
うんうんとエーナは同意するように頷く。そこで俺は、
「ま、欠陥魔法ではあるけど今回は役に立てるかもしれないな……俺が開発したのも無駄じゃなかったというわけだ。いや、人生というのはわからないものだな」
「そこまで大層なものかわからないけどね……ともあれ、作戦は決まったかな」
「それでやるのか?」
「うん、正直時間もあまりないし、可能な限り準備に時間を使いたい……明日の朝には行動を開始する。ディアスはその間、しっかり休んで――」