警戒網
「何より問題は、敵がギルド本部を襲撃した一体だけなのかどうか」
「……敵の目論見はわからないけど、あれだけで終わりとは思えないな」
こちらの言葉にエーナは同意するように頷いた。
「うん、私もそう思う」
「次に調べるべきは、敵の数と正体か」
「騎士が町へ入ってきているし、防備についてはある程度整い始めていると思うけど、ああいった魔物が複数体いるとしたら、かなり面倒なことになる」
「というより、ギルド本部でも対応できないんじゃないか?」
問い掛けにエーナは……難しい顔をしつつも、自身の胸に手を当てた。
「これまで得てきた情報により、ギルドの技術と私の存在……それがあれば、十分対抗はできると思う」
「自信あり、といった感じか……なら、お手並み拝見といこうか。で、俺達は?」
「夜までギルド本部に滞在してもらって敵の警戒をする……時間が来れば宿に戻ってもらっていいよ」
「深夜まではいいと?」
「そっちだって仕事から戻ってきたばっかりでしょ? さすがに無理はさせられないし……今後、首謀者が判明して戦う場合はディアス達の力を借りることになると思うから、体調は万全にしておいて」
「なるほど。そういうエーナはどうだ? 戦えそうなのか?」
「緊急事態ということで事務仕事は後回しにできるし、ひとまず仮眠でもとって体力回復できる薬を飲んで……夜までにはベストな状態にしておく」
……薬に頼るというのはあまりオススメできないけど、まあ状況が状況だし仕方がないか。
「わかった。なら俺達はギルド内にいる……が、騎士が相当町へ来ているし、俺達の存在もいる。これ以上攻撃してくるかと言うと……微妙なところだけど」
「この状況下でも攻撃してくるのなら、敵は性急に動いている可能性がある」
……まあ、何かしら制約があって、さらなる攻撃を、ということになるだろうな。
「謎が多いのは確かだけど、情報は少しずつ集まりつつある……引き続き調査しつつ、目先の敵を倒すべく対策を立てる……魔法の研究をする職員には、襲撃者に関する検証を続けるよう指示を出している。それと同時に対抗魔法の策定も……明日になれば、なんとか迎撃できる態勢を整える」
「明日、か……逆に言うと、今日のところは難しいと」
「敵はそうした事情をわかった上で、攻撃してくるかもしれない……ディアス達の存在と、対抗魔法の作成。それらを天秤に掛けて、いつ襲撃するのか……それについて、特に注意しないといけないでしょうね――」
エーナとの話し合いを終えた俺達は、一度冒険者ギルドの客室で待機し、襲撃者が再び来ることを警戒した。
けれど、結果から言えば何もなかった……日が沈んだ時間になっても、さらなる攻撃はなく、森にいる襲撃者についても動きはなしだった。
俺達がいるため警戒している可能性もゼロではないが……町へやってきた騎士達は交替して夜通し警戒するつもりらしく、夜を迎えてもギルド本部周辺は魔法の明かりによって煌々と照らされていた。
もちろん、他の場所にも警戒の目は向けており……当然、森に潜伏する襲撃者も同様だ。つまり、現時点で得られている情報を基に、可能な限りの防備と警戒網を整えた……とはいえ、襲撃者が複数いたり、あるいは敵の狙いがギルド本部以外にあるのならば話は変わってしまうのだが――
「ありがとうございました」
夜が更け始めた頃、俺達はギルド本部の入口でノナが頭を下げる姿を見る。ようやく俺達は宿へ戻ることになったのだが、
「本当に大丈夫か?」
「……不安ではありますが、皆様に無理をさせるわけにもいきませんから。とはいえ重要な局面では頼ることになるでしょうし、今のうちに体力を回復させてください」
……はっきりとした疲労はないけど、確かに襲撃者の実力を考えれば命取りになるかもしれない。
「わかった。それじゃあ」
俺とミリア、そしてアルザの三人はギルド本部から離れた。ただ、俺はここで、
「二人は先に戻ってもらってていいか?」
「何かするの?」
問い掛けたのはアルザ。それに対し俺は、
「あー、エーナはああ見えて何かあると思い詰める性格があるからな。宿へ戻る前に差し入れでも買って励ましてこようかと」
「……夜になっているけどお店って開いてるのかな?」
「そこは問題ない。この町のことは結構知っていて、夜でも開いている店があるからな」
「へえ、そうなんだ……うん、いいんじゃない?」
アルザはあっさりと同意。ミリアもまた同じように……というか、大げさなくらい何度も首を縦に振っている。
やっぱり何か隠している雰囲気が……まあ、ここで喋るのはよそう。会話を打ち切り、俺達は宿へ戻る。そして俺は酒場を訪れ……一人、ギルド本部へ舞い戻るべく歩き始めたのだった。