わかった事
戦いはアルザと襲撃者がしばらくの間、一進一退の攻防を続けた。敵の能力は、アルザの技量についていけるほどであり、驚嘆に値するが……やがて変化が。徐々にアルザが押し始める。
彼女が敵の動きを読み始め、わずかな隙を突いて攻撃する。襲撃者は対応にほんのわずか遅れ、それが積み重なり……とうとう、アルザの剣が届いた。
ザシュ――と、衣服でも斬るような音が聞こえた。しかし襲撃者の体に変化はない……いや、魔力が多少減っている。とはいえ変化はそのくらいだ。
そこで俺は一つ気付く……というか、斬られたことで襲撃者が抱える魔力……その中身をある程度推察することができた。どうやら――
「アルザ!」
声を上げた直後だった。襲撃者は強引にアルザの剣を弾き返すと大きく後退した。すかさず彼女は追撃を仕掛けようとしたが……それよりも速く敵は退き、森の奥へと逃げていった。
「見た目上変化はなかったけど、負傷したため逃げたって感じか」
俺は目に収束させていた魔力を閉じる。そしてアルザへ、
「あのまま戦っていたら勝てると思うか?」
「微妙なところだね。確かに傷を負わせることはできたと思うけど……あの魔力量だと、強引に逃げた後に再生されて勝負がつかないと思う」
――アルザもどうやら気付いたらしい。先ほどの黒い襲撃者……その内に抱える魔力。それが魔族と比較しても莫大な量であった。
ミリアへ視線を移すと彼女もまた気付いている様子だった。なおかつギルド職員の方も、
「調査はどうにか……相当接近できたので詳細も把握できるかと思います。ただ、あの魔力の多さは……」
「あれだけ多量の魔力を抱えていながら傷をつけてようやく気付けるレベル……雰囲気的に魔族ではなさそうだし、やっぱり不明な点が多すぎるな」
「魔物とか魔族、という感じではなさそう」
それはミリアの発言だった。
「正直、感じ取れる気配からすると……人間が製造した使い魔のようにも感じられた」
「ああ、俺も同じ事を考えた……となると、今回の犯人は魔族ではなく人間ということになるんだが……」
俺は小さく息をついた後、ギルド職員へ告げる。
「敵は引っ込んでしまった。森の奥へ進んで追撃を仕掛けるという手もあるが……」
「ひとまず戻りましょう。ディアスさん達でも厄介だとする敵であれば、相応の対策を立て確実に倒せる手段を得ることが何より優先かと」
「そうだな……後は冒険者ギルド本部の研究能力に託すか」
俺はそう呟いて、一度戻るよう仲間へ指示。そして森を離れるべく歩き出したのだが……俺は最後に一度だけ、森へ視線を向けた。
襲撃者の姿は見られない。しかし発する魔力を感じ取ることはできる。
「……何の目的で、生み出された存在なんだろうな」
一つ呟いた後、俺は歩き出す。奇妙な存在――それと共に俺は一つ直感する。
この事件はどうやら……相当厄介なものであると。
俺達が得た情報を基に、ギルド本部は急ピッチで解析を始めた。その間にも町やギルド本部に騎士達が集まってくる。森に潜伏している襲撃者に対し監視の目をさらに増やしつつ、ギルドだけでなく町全体を守るべく駐屯地から続々と騎士がやってくる。
その中で俺達はギルド本部で解析を結果を待つことにした。数少ない無事な客室を借りて待っていると……夕方に差し掛かる時刻で結果が出た。
「想定よりも早かったな」
「それだけ今回の事態を重く見て、仕事をしたからね」
エーナの部屋に呼ばれて話をする。ミリアやアルザもまた俺の背後にいて……エーナの横にもノナがいる形で、茜色の光が窓から差し込む中で、分析結果が語られる。
「まず、今回の敵……襲撃者の能力について。戦ってわかったと思うけど、あの敵は相当な魔力を抱えている。下手すると、高位魔族レベル……それだけの力を持てるだけの器を、保有している」
「とはいえ高位魔族と比べると厄介度は低いか?」
「敵の攻撃手段はかぎ爪で、爪先から魔力か風を飛ばして攻撃する……くらいだけど、能力がシンプルだからこそ、強いのかもしれない」
「なるほど、魔法攻撃など余計なことをせず、一点強化しているというわけか」
「現時点で攻撃手段がかぎ爪しかないから、推測したけれど……もちろん、敵が奥の手を持っている可能性は十分ある。交戦する場合は警戒が必要だと思う」
「ああ、それはもちろんだ……で、次の問題は襲撃者が何者であるのかだが、出自とかはわかったのか?」
「さすがに特定にまでは至っていない。そこについてはより精査する必要があるけど……ミリアさんが推測した通り、魔族の仕業じゃない可能性が高そう」
「人間が生み出した存在、ってことか」
「これほどの力を有している存在であることを踏まえると、驚嘆するけれど……まあ、魔族から技術を得て開発したなんて可能性もある。ひとまず、技術力については置いておきましょう」
「わかった……それで、これからどうするんだ?」
こちらの問い掛けに対しエーナは答えを用意していたらしく、俺へすかさず口を開いた。