狙いは何か
俺とエーナの考察に、アルザ達やノナは重い表情を示す。
「とはいえ、これはあくまで現状の情報を基にした考察だ」
ここで俺は肩をすくめつつ、エーナへ語る。
「単なる深読みで、実は聖王国も捕捉しきれなかった魔物が入り込んでいた……なんて可能性も十分あり得る」
「今はまだ情報が少なすぎる、ということだね……ただ、相手の目的くらいは把握しないと、さすがに防衛するにも――」
ここでギルド職員が報告へ来た。資料をエーナへ差し出し、彼女はそれに目を通すと、
「……そう、わかった。ありがとう」
職員は立ち去る。そこで俺は、
「その資料は?」
「保管していた物品のリスト。確認したけれど、なくなっている物はなし。ついでに言うと、保管庫に襲撃者は侵入していない」
「被害は免れた、と」
「攻撃された際、こちらは大混乱に陥った。それを踏まえると、保管庫に侵入できる余地はあったと思うけど……」
「ねえ、いいかしら?」
と、今度はミリアが声を上げた。
「敵の狙いは物ではなく人、という可能性は?」
「人?」
「保管庫に目もくれず、エーナさんへ攻撃を仕掛けた……という事実を踏まえると」
「私が狙い、ということかもしれないと」
エーナの言葉にミリアは静かに頷く。
「うーん、可能性としては十分あるね。ただ、やっぱり情報が少なすぎる……仮に敵が人間なら、襲撃者一体だけで仕留められるなんて思わないはず。だとすれば今回はあくまで襲撃者の能力を検証するためで、次に攻撃する場合は二体、三体と数を増やしてくるかもしれない」
「それを言い出したら、いくらでも可能性は考えられるしな」
俺は頭をかきつつ、脳裏に思い浮かべた内容を語る。
「ギルド襲撃は囮で、実際は町中にある何かを狙っている……つまり、襲撃者はあくまで囮だとか、あるいはギルド本部なんていう失態を利用してエーナの地位を脅かそうとしている貴族とか」
「……まあ、一応要職に就いているし狙われる可能性は思い浮かぶね」
はあ、とため息をつくエーナ。彼女なりに色々と大変なことが多数あるらしい。
「敵は魔族か人間か……あえて言うなら、どこかに潜伏していた魔族の仕業なんて候補も考えられる。とにかく情報が少ないね。私達がとれる選択肢としては、森に逃げた敵を倒し情報を得るか、それとも索敵などを試みて敵の首謀者を捜索するか」
「両方やる、というまずいのか?」
「ディアス、こちらが振り向けられるリソースにも限界がある……荒れ放題のギルド本部の片付けも、防備の強化もしなくちゃいけない。それを踏まえると、両方やろうとしても片手落ちになる」
「現状を洗い出した結論ってことか。だが俺達が加われば、事情も変わるんじゃないか?」
「……やってもらうとしたら、敵の討伐だけど」
「ねえ、情報をとるってどうやって?」
ここで問い掛けたのはアルザ。それに対しエーナは肩をすくめつつ、
「今回の戦闘で、能力以外にも保有している魔力の質など……その詳細はわからなかった。でも、もう一度戦闘を行えば……所持している魔力について調べられるはず。そこから、人間の仕業なのか魔族の仕業なのかを判別……他にも、得られる情報があるはず」
「魔力だけで?」
「量産型の魔物であっても、その特性は個体それぞれによって違うの。魔力というのは人の姿に様々あるように、特徴がある……ギルド本部には、今まで冒険者などが収集してきた情報があるし、国とも連携できる。つまり、魔力の特性から容疑者を特定することが可能ってこと」
「目先の脅威でもあるし、まずは襲撃者を倒すところからか」
俺が結論をまとめるとエーナは小さく頷き、
「ならディアス、襲撃者の討伐を頼まれてくれる? ただ、今回はギルドの職員が同行して魔力の質を調査するのを優先したい」
「支援要員が近くにいるとなったら、多少リスクはあるな……優先すべきは魔力調査と、怪我人を出さないこと、でいいか?」
「うん、それで構わない。ディアスの判断で無理はできないと思ったら下がってもらって構わない……そうなったら、魔王と戦った面々であっても苦戦するような存在なわけだし、深追いは厳禁」
「わかった……居所の詳細を教えてくれ」
――そこから俺は情報のやりとりを行った後、ミリアやアルザと共にギルド本部を出た。ひとまず、宿へ戻って戦闘準備だ。
「ミリア、君の方からも何かわかることがあれば……」
「わかったわ。ただ、これは勘だけど魔族の仕業ではない気がする」
「その根拠は?」
「先日の王都襲撃に対する報復なんて可能性も否定はできないけれど……さすがにタイミングが早すぎる。むしろ、襲撃に乗じて魔族に罪をかぶせようと動いている何者か、という気も……」
「だとしたら首謀者は人間かもしれないな……とにかく、まずは情報取得のために調査だ。味方を巻き込むような魔法などは使えないし、アルザの退魔能力が切り札かな。頼むぞ」
「うん」
そうして俺達は大通りを歩み始めた。