新たな仕事
魔族を倒して以降、俺とミリアの旅は特段トラブルもなく進んでいく。道中で人助けとしていくらか仕事を請け負ったのだが、半日もあれば終わるくらいの簡単な仕事だった。
また、旅の道中で俺は酒場などで情報を集める。それは魔族達の動向に加えて、聖王国側がどう動いているのか……情報の伝達速度は俺達が旅をするよりもずっと速く、王都の情勢について知ることができた。
「戦士団が……?」
その中で気になる情報を得た。俺が所属していた戦士団『暁の扉』が規模を縮小するとのことだ。
「魔王との戦いの後、脱退者が結構出たらしいぞ」
「大きな戦いが終わった後は得てしてそんなことになるけど……」
「ただライバル関係にあった戦士団『黒の翼』は逆に人数を増やしたらしいぞ? 魔王は倒したけど魔族との戦いは終わっていない……国側も戦士団と結束を強めようって話みたいだし、それを踏まえると『暁の扉』にとっては痛手かもしれないな」
「そっか、ありがとう……セリーナにとっては痛い話かもな」
俺は副団長で『六大英傑』の彼女を思い出す。本来、その実力から国側に認められて宮廷入りしてもおかしくないのだが……色々と理由があってそれは叶わず、彼女は戦士団に入って活動していた。
所属したのは武功を上げて国に認めてもらうため。魔王との戦いでの功績は大きいが、彼女としてはそれでも足らないと考え、これからも戦士団の副団長として活動していく……はずだったが、今回の脱退騒動で彼女の目的は遠のいてしまった、かもしれない。
まあ『六大英傑』に選ばれるほどの実力者だし、なおかつ仕事はきちんとできる人物なので、立て直すとは思うけど……所属していた身だし気にはなったが、今更戻って話をしようにも追い返されるだけだろう。俺はもう部外者だ。彼らの活躍を祈るしかできないな。
「……あなたが脱退したこととか、関係あるかしら?」
そんなことをミリアから告げられる。それに対する俺の見解は、
「俺が脱退したことが呼び水になって、じゃあ俺もと手を上げる人間が増えたかもしれない。ただ、戦士団の中で俺の立場は微妙だったし、俺についていこうなんて考える人はいなかったと思うよ」
「そうかしら……?」
彼女にとって俺の回答は疑問だったのか首を傾げて聞き返す。
「あなたと会話をしていると、なんだか自分は戦士団の中で厄介者扱いされていたくらいにしか聞こえないけれど……実際、あなただって『久遠の英傑』として魔王との戦いで貢献したわけでしょう?」
「……自分の功績を謙遜しているわけじゃないけど、俺は基本仲間を引き立てる役目だからな。直接的に魔王と戦い続けていたのはあくまで『六大英傑』の面々だ。貢献したのは事実だけど、あくまで援護しただけさ」
……ミリアはそれ以上何も語らなかった。完全に納得をしているわけではなさそうだが、俺の言葉を聞いて追求することはやめたらしい。
それからいくらか情報を仕入れた後、俺は酒場を出た足で冒険者ギルドへと向かう。仕事をいくつか確認し、その内の一つを請け負うことにして、その日は宿で休むことに。
「あ、次の仕事だけど深夜に出発するぞ。だから夕食後すぐに眠ること」
「別に構わないけど……夜であることに意味があるの?」
「というより、今回の仕事は明け方じゃないと達成できない」
ミリアは小首を傾げたが、それ以上尋ねることはせず「わかった」と応じたのだった。
そして深夜の時間帯、俺はミリアを伴い仕事をするため町から西にある森に足を踏み入れた。その先には山があり、俺達の移動速度なら、山の中腹くらいには到達できる。
「ねえディアス、仕事の内容は?」
明かりを生み出しながらミリアが問い掛けてくる。それに対し俺は、
「薬草採取……なんだけど、その薬草はかなり特殊なんだ」
「特殊?」
「名前は『白陽草』。花びらは煎じれば薬湯になるし、傷薬に混ぜれば効果が劇的に上がる……ただ一度に採れる量が少ないため、非常に希少性の高い薬草だ」
「それはわかるけど、深夜に出発するのは……?」
「この花の薬としての効果は、開花した直後に採取することで一番高くなるんだけど、その開花するタイミングというのが夜明け前くらいなんだ。しかも人があまり入らないような山とかに生えるから、採る人員的な意味でも希少性が高い」
と、語った直後に真正面から魔物の気配。
「移動魔法を使えば別に深夜に出発しなくてもいいんだけど、仕事とは別に夜にしか手に入らない植物とか入手したいと思って深夜に出発した。それと」
「それと?」
魔物が威嚇のためかうなり始める。それを見ながら俺はミリアに返答。
「ま、他の理由についてはおいおい語るよ。まずは、魔物の掃討から始めよう――」




