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旅の目標

「綺麗、か……」


 ミリアが俺の言葉を反芻する。そんなにおかしいことを言っただろうか。


「見た目以外に……いやまあ、机に突っ伏して痙攣していなければ外見だって綺麗だと思うけど、仕事に打ち込む姿勢とか、戦士としてのあり方とか……そういうのが高潔で、綺麗に映るって感じかな」


 俺の説明に対してアルザやミリアはこちらを凝視しつつ沈黙する。


「まあ、魔王と対峙しクラウス達と共に戦っている姿は格好良かったな」

「なるほど、ね」


 と、アルザは何か悟ったかのように声を上げる。


「どちらかというと、戦士としての活躍の方に目がいっていそうだけど」

「それは否定しない。でもエーナは二つの顔を持っていて、どちらもあるから彼女という存在が成り立っている。本当に、大変な仕事をこなしている……そこについては驚愕するし、何よりすごいとも思ってる。まあ、負担を軽くするために事務員を雇えよと思ったりもするわけだが」


 俺の言葉にアルザとミリアは苦笑。どうやら二人も同じ事を考えているようだった。


「俺がエーナに対し考えていることは以上だけど……他に質問はあるか?」

「ううん、ない。話してくれてありがとう」

「どういたしまして……と返答するのも変な感じがするけど……」


 そんな風に会話をする間にも、俺達はひたすら山道を進んでいく。魔物がいないか気配を探ってみるが、結局見つからない。

 もしかすると調査に入った騎士達の手によって魔物は駆除されたのかもしれない……ミリア達に言及すると「そうかもしれない」と二人は同意してくれた。


 まあ、だからといって警戒を解くつもりはないのだが……ここでアルザとミリアが雑談を始めた。そうした会話を耳に入れつつ、俺達はひたすら進み続けた。






 やがて、大した障害もなく俺達は薬草採取に成功する。とはいえ結構山に登ったし、時間的に町まで戻るのが困難だったので、この日は山の中腹で野宿することとなった。


「明日は日の出から出発するぞ」

「はーい」


 俺の言葉にアルザは答えつつ、パンをかじる。一日野営するだけなので、食料なども問題はない。

 俺達三人は火を囲みつつ、食事を行う。既に日は沈んで空は黒一色。とはいえそれなりに星が見える状況で、月明かりもあるしそれほど不安感とかはない。


「仕事が終わってからは、どうするの?」


 ふいにミリアが尋ねてくる。それに対し俺は、


「エーナ次第かなあ」

「もし仕事を振られたら、受けるつもりではいるようね」

「まあ、な。ない場合は……どうしようかな。自分探しという題目に対してアドバイスをもらって、旅を再開するのもありだけど」

「再開してからどうするか、というのは特に決めていなかったわね」

「そうだな」


 俺は何をしたいのか少し考えてみる。戦士団に所属していた時、この町には何々がある、とか小耳に挟んだ情報だけは持っている。ギルド本部がある町を中心にして、色々と行ける場所を頭の中で思い浮かべてみるのだが……、


「うーん、行きたいところ、と断言できる場所はないかなあ」

「ディアス、そもそも行きたいと思う必要はないのでは?」


 と、さらにミリアが突っ込んだ質問をしてくる。そこで俺は、


「必要が、ない?」

「アルザのように、目指すべきへ突き進んでいくというのも一つのやり方だけれど、それだけじゃなくて目標なんてなくても片っ端から色々と触れてみるとか、そんな手法で旅をしても良いのではないかしら」

「あー、確かにそういうことをしていく中で、自分探しという目標を達成できるかもしれないな」


 なんというか、目標は持っていなければいけないような気がしたのだ……これはきっと、強くなるためだけに費やした人生から来ている弊害なのかもしれない。


「確かにミリアの言うとおりだな、うん……そうだなあ、情報だけは知っているけど直接見たことがない観光名所とか、そういう所に行ってみて色々と体験してみるのが良いかもしれないな」

「その意気ね」


 ミリアは小さく笑う……なんというか、俺のことをフォローしてくれているようだった。

 彼女の場合は俺に対する恩義から先ほどのような言葉が出たのかもしれないが……ともあれ、あんまり思い詰めるのも良くないか。


「町へ戻ったらミリア達はどうする? もし次の仕事を提示されたら、俺一人で対応するとかでも良いけど」

「仕事内容によるかしら。さすがに守秘義務が発生するような危険な仕事ではないでしょう?」

「そうだと思うんだけど、何を言い出すのかわからないのがエーナだから……ま、本当に仕事を押しつけられるかどうかはわからない。まずはこの仕事を片付けてから、だな」


 とはいえ、最悪薬草を手渡した後に突然言われる可能性も考慮はしておかないと……そんな風に俺は考えつつ、食事を終えた。




 ――だけど、話は俺達の予想しない方向へ転がり始めていた。


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