彼女に対し――
旅そのものは順調に進み、俺達は障害泣くノルビア山へと辿り着いた。元々人が出入りしている山であるため山道が整備されており、目的の薬草を採取することはそれほど難しくなさそうだった。
「仕事としては結構簡単かな?」
そんな感想がアルザからもたらされる。俺は「そうだな」と同意しつつも、周囲に目を向ける。
「平常から魔物はいるみたいだし、警戒はしてくれよ」
「わかってるって」
「仕事自体は油断しなければ大丈夫そうだが……エーナがここから怒濤のごとく仕事を押しつけてくる可能性もゼロじゃないからな」
「え、そうなの?」
「ああ、何かにつけてついでにこれも、あとそういえばこれも……みたいな感じで仕事を後出ししてくるパターンがあった」
まあ、今回の仕事は忙殺されて飛んでいた記憶を引っ張り出してきたくらいだし、たぶんないとは思うけど。
「なんというか、呼ぶのは別に構わないんだけどもうちょっと仕事内容をまとめてから呼んでくれって感じなんだよな」
「……たぶん、その場しのぎで仕事を提供しているからじゃない?」
「何か言ったか?」
小さく呟いたアルザの言葉に俺は首を傾げる。しかし、彼女は「何でもない」と応じると、
「さて、それじゃあさっさと仕事をこなして戻ろうか」
「……思うんだが、なんか最近言動が変じゃないか?」
俺はなんとなくアルザへ尋ねる。それに対し彼女は、
「ん、どうして?」
「どうやらエーナと親交を深めた……みたいな感じだし、女性同士で色々と話をすることだってあるだろうけど、なんというか……露骨に俺をのけ者にしているというか」
……アルザは表情を変えていないのだが、横で話を聞いているミリアは微妙な顔つきが変わっていた。やっぱり何かありそうな雰囲気だ。
「いや、のけ者という表現も違うな。なんというか、俺を嵌めるために密談をしているというか」
「うーん、そういうつもりはないんだけどね」
「じゃあ説明とかできるのか?」
なんとなく訊いてみると、アルザは肩をすくめつつ、
「残念ながら、教えない」
「……まあ、アルザ達が悪巧みをしようなんて考えてはいないだろうし、そこは信用しておくけど、ほどほどにしておけよ」
「というかディアス、のけ者にされているような気がするとか考えるなら、何か心当たりとかはないの?」
む、話の矛先をこちらに向けてきた……俺は一考し、
「まさかサプライズパーティーでもするわけじゃないだろ?」
「そういうことについて、思い当たることはある?」
「誕生日も遠いし、そもそも祝われても嬉しくないなあ……他は……他は……」
首を傾げる。そういえば記念日の類いも戦士として活動していて何かやったことはないな。
「うん、何もないな」
「そういう答えもこっちとしては微妙な心境だけど……」
「本当に何もないんだから仕方がないだろ……まあ、二人がエーナと接触して何かをやるにしても、交流を深めるのは良いことだ。彼女は顔も広いし、コネを作って損はない」
と、そこまで言うと俺はアルザとミリアの顔を見据え、
「どういう経緯で仲が良くなったのかはわからないけど、多少なりとも打算ありきで接触したんだろ?」
「ま、そこはさすがに気付くか」
「とはいえ、アルザ。楽に稼げる仕事なんてものは転がっていないし、いくらエーナでも出てこないからな」
「それ、エーナにも言われた」
「要求したのかよ……まったく」
俺は苦笑しつつ、山道へ目を移す。
「アルザの方は目的が目的だから仕方がないけどな……アルザとしては現状でいいのか? 俺は自分の目的を優先させたら、仕事をしなくなるけど」
「改めて訊かなくても大丈夫。焦ってどうにかなるものでもないし、現時点で受け取った報酬だって満足しているし」
「そうか……」
「もし不満が出たらそれはそれで言うよ……と、ディアス。一つ訊きたいことが」
「ん、どうした?」
ここでアルザは間を置いた。当の彼女は雑談の体で話をする雰囲気だが、なんだか発する気配に緊張が混ざっている気がする。
そしてミリアの方もそれを感じ取ったのか俺達へ視線を集中させる――と、
「ディアスは、エーナのことをどう考えているの?」
「ん……エーナのこと?」
聞き返してから……俺は何が訊きたいのかを察した。
「つまりあれか、仲間とか戦友とかではなくて、女性としてどう考えているのか、か」
「二人が結構付き合いが長いし、なんとなーく気になって……嫌だったら別に答えなくてもいいけど」
「んー、別に喋ってもいいんだが……なんというか、俺が行く度に机に突っ伏している様子を見ると、大変そうだなーという感情が先立ってそれ以外のことはあんまり感じないというか……それに、あんな姿を見せるってことはエーナとしても俺のことは眼中にないだろうし」
「あー、うん、そうかな……?」
「まあとにかくだ……俺自身、女性云々のことについて考えずひたすら強くなるために意識を集中させてきた人間だからな。男女の関係に発展するかと言われると首を傾げるけど……言えることは一つ」
「一つ?」
「なんだかんだで仕事をこなし、時に槍を振るうエーナのことは……色んな意味で綺麗だと思ってるよ」
――その言葉に、アルザ達は目を丸くした。