彼の異名
戦いの後、俺達は町へと戻った。魔族の討伐隊が事後処理を終えるまでは報酬が受け取れないため、少しの間町に滞在してから……冒険者ギルドで報酬を受け取った。
「うん、上々だな」
金額はなかなかのもの。しかも本来渡されるはずだった金額からずいぶんと上乗せされていた。
「報酬額については、その戦いぶりから増えていますので」
受付の女性が解説すると俺は頷き、ミリアと共にギルドを後にする。
「当面仕事はしなくていいかもしれないな……ま、何か騒動があれば首を突っ込む気ではいるけど」
「それが魔族に関わることなら、協力するわ」
「ありがたい……ミリアとしても、ああいう魔族は許せないってことでいいのか?」
「私は魔界を逃れて人間が暮らす領域に足を踏み入れたのよ? なら、少しでも印象を良くしようと……魔族の凶行を止めるのは必然ではないかしら?」
「ああ、確かに」
「それに……魔王の侵攻が発端だとはいえ、戦いは終結している。今更人と魔族が戦う理由はないし」
「それも同意する……というわけで、道中色々騒動に関わるかもしれないが、よろしく」
その言葉にミリアは頷いた後、俺へ一つ質問をした。
「あなたの異名だけれど……」
「ん、異名?」
「私は同胞が調べ上げた『六大英傑』の詳細を見たことがある。魔族達にとっても脅威と見なされた面々であるのは当然のこと、特に今選ばれている英傑達を警戒していた」
「実力によって選ばれるような存在で、その強さは年々増していった。二十年戦ってきたからわかるけど、確かに今の『六大英傑』が最強だったのは間違いなく、だからこそ魔王は警戒していたわけか」
「その中で、もう一人……つまり、あなたの存在にも目を向けていた」
俺は彼女を見返す。言葉を待っていると彼女は、
「六人の中に含まれなかったけれど、英傑と並び立つ存在……あるいは七人目と評する同胞もいた」
「それが俺のことか?」
「ええ、異名『久遠の英傑』……久遠とは『六大英傑』が代替わりしてもあなただけは変わらなかったことから」
「まあ、なんというか……人によってはむしろ俺の方を評価するパターンもあったみたいだけど、実際のところ俺が魔王に挑んでもコテンパンにされるだけだ。自分の実力は、自分が一番知っているさ。正直、そこまで評価されるほどのことじゃない」
――二十年という歳月で、色々と評価をもらってきた。その結果異名をもらえるくらいにまでは成長したのは事実だが、だからといって驕るつもりもない。
そもそも俺の能力は、誰かを支援することをメインとしている。自分自身に強化魔法を使うこともあるけれど、本分は他者の援護だ。つまり『六大英傑』のような怪物級の実力者がいなければ、成り立たない話なのだ。
「謙遜、という雰囲気ではなさそうね」
「魔王との戦いだって、仲間を守るために一時魔王と対峙することはあった。でも、俺には時間稼ぎしかできない。英傑の誰かなら、単独で魔王に一太刀当てることくらいはできたが、俺には無理だ。それを考えれば、異名自体も荷が重いかなーと考えているよ」
「……そうかしら」
ミリアはどこまでも納得いっていない様子だったけど、俺は話を切り上げることにして、
「それじゃあ改めて先へ進むわけだけど……ミリアの方は何か要望とかある? 護衛対象だし、クライアントの意向には沿うべきだろうから」
「……現状に不満はないから今のままでいいわよ。ただ、そうねえ。宿のランクとか、食事とか私のことを気遣っている雰囲気だけど、別に安宿とかでも――」
「いや、それは俺の好みで決めてる」
「……そう」
「不満があったら言ってくれ。ただ、場合によっては送り届けて請求する可能性もあるけどな」
そんな発言にミリアは笑う――人間味溢れた、綺麗な笑顔だった。
「なら、特にないわ。先へ進みましょう」
「了解」
というわけで、魔族も討伐して町を離れる。うん、気ままな旅という感じだ。
「あ、ただ一つだけ」
と、ミリアは付け加えるように俺へ告げる。
「あなたは自分探しの旅を……ということらしいけど、私が邪魔になったりはしないの?」
「あー、別にそれを優先しようというわけじゃないしな。ミリアを助けたのは成り行きだけど、これはこれで良いかなと」
「……魔王との戦いが終わり、本当に自由気ままにやるつもりなのね」
「例えば魔族とかが魔王の仇討ちのために陰謀を巡らせている……とかだったら俺もどうしようかと考えるところだけど……」
「今回戦った魔族は単独で動いていたようだし、組織だった動きは低いかしら」
「だろ? なら、相当を解決しつつ適当に旅をすればいいんじゃないかと」
「……あなたの実力を考えれば、頼られる形で仕事が舞い込んでくるかもしれないけれど」
「まあその時はその時さ」
そんな会話をしつつ、俺達は街道を進む。人々の表情は明るく、天気も快晴で絶好の旅日和であった。




