そういう話
宿へ戻ってくるとエントランスでエーナが待っていた。
「やあ」
「どうしたんだ?」
「これを渡しておこうと思って」
そう言って俺へ差し出した物は……手のひらに収まるくらいの大きさをしたカード。それはどうやらギルド証のようだった。
冒険者として登録した際、差し出される身分証のような物である。特殊な魔法で加工してあるため偽造なども難しく、これを提示することで一定の信用を得られる、というケースもあるくらいには冒険者にとって重要な物だ。
で、彼女が差し出したカードは金色なのだが、
「前々から思っていたんだが、その色って悪趣味じゃないか?」
「別にいいと思うけど」
「……で、その色を渡すというのはどういう理由があって?」
ちなみにギルド証にはランクが存在し、金色は聖王国が認めた勇士、という証明になる。ちなみに『六大英傑』は漏れなく全員金色だったかな?
「ディアスってこの色じゃなかったんだね」
「戦士団として貢献はしてきたけど、団長をやってたロイドが金じゃなかったからな。俺としてはそれを持って団内の関係がこじれると面倒だな、と思って避けたんだよ」
「なるほどね。では戦士団も抜けたことで、渡しておく」
「……面倒な仕事を回すとかないよな?」
「他に持っている人が……例えば英傑がギルドの仕事に忙殺されて、とか聞いたことある?」
まあないな。職員であるエーナを除けばだけど。
「これを提示することで聖王国の管轄である場所とかにも入れるようになる」
「入れるとメリットがあるのか?」
「うーん……調べ物とかする場合、秘匿された情報とかにアクセスできるようにはなるね」
別段必要なさそうだけど……いや、魔界のことを調べるとか、あるいはそれに関連した文献を漁ろうという気になった場合、役に立つかもしれないな。
「ま、もらえるのであればありがたくもらっておくよ」
「はいはい……というわけで用件は終了だけど、ディアスはお昼食べたの?」
「いや、検診が終わったばかりでこれから」
「なら一緒にどう?」
「仕事はいいのか?」
「昼に少し抜け出たからといって、あの量を前にしては何も変わらないよ」
「量が多すぎてどうにもならないってことか……?」
「そうそう。もう開き直って休んだ方がいいかもしれないと思ってギルドを抜け出してきた」
俺にギルド証を渡すという名目で、か……まあさすがに本当にヤバい案件が残っていたらノナが止めるだろうし、いいか。
「わかった。ならどの店にする? 以前色々案内されて大体の店は知っているけど……」
「つい最近オープンしたお店があるんだけど、そこでいい?」
「あんまり格式張った店はやめてくれよ。どう考えても格好的に怪しまれる」
「ちゃんと冒険者もいる店だから安心して」
まあそれなら……というわけで、俺はエーナの案内によって移動を開始したのだった。
エーナが提示した店は、そこそこ通りの中でも良い位置に建てられた場所であり、昼時もあってそこそこ混んでいた。
「お、結構値段が張るな」
「ま、冒険者にとってはそうかもね」
普段利用する店よりもワングレードくらい高い料金であった。俺達はひとまず料理を注文してから、雑談でもすることに。
「ミリアさんとアルザが同行する経緯は聞いたけど」
エーナはまず、俺と一緒に旅をする仲間について言及する。
「二人の目的を考えると、当面は一緒に行動するって感じ?」
「そうなるだろうな。で、その合間に自分探しを……と、考えていたんだけど、見立てが甘かったかな」
「そもそもやり方すらわからないんじゃあ、無理だったよね」
「そうだろうなあ……それに、ミリアの存在がいることもあるから、必然的に魔界関連の騒動に首を突っ込む可能性もあるし」
「ミリアさんは別に、そういう要求はしてないんでしょ?」
「してないけど、彼女の立場から考えると逐一情報はとって魔界の情勢を調べておくべきだとは思う」
「そっか……で、そういう情報を調べていると、結果的に魔族討伐とかに参戦すると」
「報酬が美味ければアルザの目標も近づくからな」
「うん、これまで戦ってきた経緯とかはなんとなく理解できた」
「ただニックが勝負を申し込んできてダンジョン攻略とかしたけど、よほどのことがない限りそういうのはもうしないかな」
「場合によっては足止めされるしね」
「そうだな……」
ここで沈黙が生じる。俺が無言でいるとエーナは少しばかり俺へ視線を向けてくる。
「……気になることがあるなら質問していいぞ?」
「そう? なら……ディアスとしては二人のことをどう思ってる?」
「どう思ってる、とは?」
「だってほら、ミリアさんもアルザも美人だし」
……あー、そういう話か。
「年齢的に釣り合わないだろ」
「恋愛に年齢はあんまり関係ないと思うけどなあ」
「でも、俺としてはなあ……二人と関わった以上は旅の結末が良いものになって欲しいとは願うものの、それ以外の感情はないかな」
「あくまで仲間として、か」
「そうだな……もしかすると、戦士団の感覚を引きずっているのかもしれないな」
団員同士で恋愛とかもあったけど、俺はゼロだったし……と、ここでエーナからさらに質問が飛んできた。