体調の確認
俺はギルドを出て一度宿に戻り、紹介状を受け取って早速魔法医院へ向かった。この町はギルド本部があることを含め規模の大きい町であるため、こうした福祉関係の施設も充実している。
「どうも」
そう述べて応対したのは初老の男性。既に話はいっているようで、
「七人目の英傑と呼ばれていた人物か……話には聞いているよ。紹介状でここを訪れる冒険者も多いため、必然的に英傑のことなど耳に入ってくる」
「それはどうも」
「強化魔法を主軸とする使い手だったか。基本、魔法で体を補強しているのであればそれほど心配はいらないかもしれないが……まずは調べてみよう」
そう述べ、医者は魔法を使って色々と調べ始めた……と、一言で表現されるわけだが、実際は二時間ぐらい掛かった。というのも最初は簡易検査から始めたのに、だんだん興が乗ってきたのかわからないが「もう少し調べよう」と言って、結局ズルズルと調べることとなった。
ただ、なんとなくだけど七人目の英傑とか呼ばれている人間のことを調べたいという欲求があったのかもしれない……まあ口には出さないけど。
「ふむふむ、なるほどな」
と、検診が終わり彼は結果が記された資料を見て呟いた。
「まず、体の方は概ね問題はない。冒険者勢だとよく酒の飲み過ぎで体を壊しているケースもあるが、血液などに異常は見受けられなかったし、臓器の方もまあ大丈夫だろう」
「概ねってことは、何か気になる所見が?」
「自覚がないレベルではあるが、腕や足に小さな炎症がある。自然と治まっていくとは思うが」
「あー、それはたぶん……」
俺は先日の戦いで使用した切り札の強化魔法のことを思い出す。そのことを口にすると医者は、
「どういう術式なのか事細かに見ていないので判然としたことは言えないが……どうやら相当体に負担を掛ける魔法のようだな」
「自分の体を度外視した魔法なので」
「魔族との戦いからそれなりに時間が経過しているにもかかわらず、まだ影響が残っている……とはいえ、自覚はないだろう?」
「そうですね」
「無理をしなければ大丈夫だろう。ただあまり連用すると体にダメージが残る可能性がある。それと、その強化魔法の使用時間などは君自身が把握しているようだが……限界を超えて使用し続けると、間違いなく後遺症になるだろうな」
「後遺症……具体的には?」
「筋組織が壊れるなど。場合によって臓器にも影響が出るかもしれない」
「無茶や連用しなければ問題ないんですよね?」
「ああ、そうだな」
「わかりました」
切り札についてはかなり無謀なことをやっている自覚はあったので、今後も使用することはあまりない……と、思う。
ただ、医者がここまで言う以上、魔王との戦いにおいて切り札を使って無事なのは結構奇跡かもしれない。あの時は体調や装備が万全だったこともあるだろうけど……使用する際は注意することにしよう。
「あと、魔力についてだが、こちらも問題ない。体に変調が出れば魔力の流れも変わってしまうため、その辺りは注意した方がいいとは思うが」
「ありがとうございます」
「年齢的に何かしら体にガタが来ていてもおかしくないのだが、君は健康だな」
「戦士はやっぱり、何かしらダメージを負っていたりします?」
「そういう人物が多いな。怪我による後遺症に苦しむ者や、剣の振りすぎなどで骨が歪んでいる人間もいる」
「それは……また……」
「本来人間が相手にすることが困難な魔物や魔族を相手取る以上、相応の無茶はしなければならない、ということなのだろう。君の場合は支援系かつ強化魔法を軸とした魔法使いであるため、他の人と比べてダメージが少ないようだ」
……とりあえず、今後旅を続けても問題なさそうだな。
「とはいえ、年齢を重ねれば何かをきっかけにして病巣が現れる可能性は十分ある。それを肝に銘じて、活動を続けるといい」
それで話は終了し、俺は病院を出た。うん、切り札を使った反動はあるけど、それ以外は特になし……ちょっと心が楽になった。
「さて、どうするかな」
そして今から何をしようか……と、思いつつもひとまず宿へ戻るかと足を向けた時だった。
「あ、ディアス」
アルザの声だった。視線を転じると彼女が近寄ってくる姿が。
「検診は終わったの?」
「ああ、今丁度……と、もう昼か。宿へ戻る前に昼食をとるかな」
「結果はどうだった?」
「概ね問題ないって。前回の戦いで強力な魔法を使った影響が残っているけど、それ以外は大丈夫」
「まだダメージが?」
「それだけ強力かつ、年齢もあって治りにくくなっているんじゃないか? ちなみにアルザは何をしていたんだ?」
「ギルドを出てミリアと一緒に買い物をしていたんだけど、お昼は自由行動になった」
「一緒に食べないのか」
「私は狙いのものがあって。でもミリアはあんまりってことで」
ああ、なるほどな……さすがに食事の好みが一致しているわけではないってことか。
「そういえば、エーナが宿に来ていたけど」
そしてアルザがさらなる言及。それに対し俺は、
「エーナが? 何の用で?」
「ディアスに渡しそびれた物があるって」
物? 何だろう……と思いつつも俺はひとまず宿へ向かうことにした。