やり方
自分探しのやり方がわからない――と、エーナに言われ俺は少し考えてみた。腕を組み、エーナに加え横にいるノナも、背後にいるミリアやアルザも沈黙し俺の言葉を待つ構えだった。
俺はこれまでの人生を振り返ってみる。戦士団に入ってからは戦い一筋だった。まあエーナとかから色々と仕事を請け負う最中に観光名所なんかを回ってみたが、戦士団に戻ればほぼ忘れて戦いに打ち込む日々であった。
そして魔王との戦いを経て、俺は戦士団を追い出されたわけだが……そこで自分探しでもやろうと思って――
「……そうだな、やり方がわからない」
「今頃気付くのもおかしいけどね!?」
エーナからのツッコミに俺は頷きながら同意する。
思えば、自分探しの旅というのもどういう意図で出た考えなのか……と思いを巡らせてみたのだが、言葉が先行して実態が伴っていなかった面もある。では、具体的にどうするべきなのか……と、今考えたところで結局わからない。
「はあ、シュウラから話を聞いてもしやと思ったんだよね。やっていることが普段と何も変わっていないし」
「最初はミリアと出会って目的があったし、それでも途中で観光とかしているし……」
「やってはいるけど、自分探しのためとか、そういう要素は薄いでしょ?」
「んー、そうだな……」
ではどうすべきなのか、と考えたところでエーナからさらなる言及が。
「だからといって私とかに聞かれても答えられないけど」
「おい」
「だって自分探しだよ? 抽象的かつ、非常に曖昧な話題だし……ただ、わかっていることは一つある。それはディアスが、戦士としての自分以外の何かを得たい、ということ」
それは……俺は神妙な顔つきになりながら頷いた。
ひたすら戦い続ける人生とかどうなんだと思うところはあった。だから、魔王を倒したというのを契機にして新たな人生を……と、考えたところで俺は戦士として活動する人生しか知らないので、必然的にそういう物事に関わっている。
「……答えはないにしても」
と、俺はエーナへ向け口を開く。
「何か助言とかくれるのか?」
「少なくとも、一時でもいいから戦いから離れた方がいいと思うんだけど」
「うーん、そっか」
「なんだか煮え切らない態度だね」
「正直ピンときていない」
さて、どうしたものか……などと思案している間に、エーナはこちらに視線を送りつつ、
「ま、自分探しの旅という行為に対する答えは持ち合わせていないけど、それを得られるように協力することはできる」
「お、それは何だ?」
「そうだね、なら私が提示した仕事が終わった後に色々話をしようか」
「お、わかった」
俺は同意して話は終了……なのだが、ではこれからどうしようかという話になる。
「とりあえずディアスは、戦い続きだっただろうから今は体を休めた方がいいよ」
そこでエーナからさらにアドバイスが飛んでくる。
「話によると、先日の戦いでも魔族相手に相当強力な強化魔法を使ったんでしょ? なら、その負担は大きいはずだし」
「どうだろうな……体の方に異常とかはないんだけど」
「これまで戦い続きで、ロクに自分の体の面倒とかも見ていないでしょ? ギルドを通して紹介するから、一度診てもらったらいいよ」
あー、確かに体のどこかにガタがきていてもおかしくはないよな……と、思ったので、
「わかった。ならそうさせてもらう……ありがとう、エーナ」
その言葉に対し――なぜか彼女は固まった。
「おい、俺が礼を言うのがそんなに変か?」
「え、っと……まあ、そうね。確かに珍しいね」
「俺だってちゃんと礼くらいは言えるぞ……なあ、一つ訊いてもいいか?」
「私が答えられるのなら」
「俺を呼んで仕事を頼む、という意味もあってそれなりに助言とかするんだろうけど……俺は戦士団を抜けた身だ。例えば手を貸してくれと言われても限界があるし、これまでのようには――」
「――勘違いしないでくれる?」
俺の言葉を遮るように、エーナは話し出す。
「今まで仕事をお願いしていたのは『暁の扉』に所属する七人目の英傑だからじゃない」
「それは……」
「そりゃあ、多少なりとも下心はあったよ。一緒に戦っていた人が英傑に並び立つ人になったわけだし、ギルドの職員としては懇意にした方が得になるだろうと思った。でも、お節介を焼いているのはそれだけじゃない……何より、共に戦った同志として、気になった。それだけ」
「……そうか」
様々な場所で共に戦ったからこそ、一時でも仲間であったから……というわけかな。
「なら、まずは体を診てもらうことにするかな」
「ギルドの紹介状を書くから。今日の昼にでも宿に届けさせる」
「わかった。それじゃあ――」
「ディアス、先に戻っていて」
と、ミリアが俺へ発言した。
「私とアルザは、少し話をするから」
「わかった」
同意し、俺は一人で部屋を出た。中から話し声が聞こえる中でギルドを出るべく歩き出す。
「自分探し、か……」
旅を始めれば何かしら見つかるものと思っていたが、甘かったかもしれないな……そんな風に思いながら、俺は宿へ戻ることにしたのだった。