彼への問い掛け
――翌日、ミリア達は予定通りエーナに会うつもりだったようなのだが……それよりも先に彼女の方から連絡があった。仕事の内容を思い出したらしい。
で、俺達は三人揃って昨日と同じ部屋へと赴く……ちなみに今日は横にノナがいて、当のエーナはキリッとした様子である。普段からこうなら何も問題はないはずなのだが。
「それで、仕事の内容は?」
「ある場所まで行って薬草採取を頼みたいの」
そう前置きをして告げられた場所は……ここから北へ進むとある、ノルビア山という場所に自生している薬草だ。
「研究資材の一つで、いつもなら商人から購入しているのだけれど」
「魔族が出現した騒動で、購入できなくなった?」
先読みして問い掛けるとエーナは深々と頷いた。
「魔族が出現した場所を考えると、ノルビア山にも何かしら魔物が潜伏している可能性があるでしょ? 現在ここから北は魔界との距離が近しいこともあって、警戒区域に指定されている」
「なるほどな、迂闊に立ち入ることができないってわけか……でも、それなら俺達も同じじゃないのか?」
「魔族との騒動が落ち着いたから、そう遠くない内に警戒態勢は解かれると思う。その後、薬草を採取して欲しいの」
「……今じゃなくていいのか? なら――」
「言いたいことはわかる。時間が掛かるのであれば、少し待って商人から購入しろって話でしょ? でもよく考えてみて。現在ノルビア山には入れない。その状況下で在庫がないということは、商人から購入できるまでどのくらい時間が掛かると思う?」
なるほどと、俺は納得した。商人も直接山に入り込むわけではなく、冒険者などに依頼をしているはずだ。彼らが依頼を行い、さらに採取できるまで……時間がかなり掛かるだろうな。
「物流の混乱がここまで影響しているというわけか」
「そういうこと。そもそもノルビア山は魔物もいるし、相応に危険度も高いから金額も高い……その上遅いとなったら、やってられないの」
「そこで俺の出番というわけか」
「ディアスなら、確実に仕事をこなしてくれるからね。あ、もちろんタダとは言わない。商人から購入する代金と比較して、相応の報酬は支払うから」
そう告げて提示された額は……まあそこそこであった。
「うん、薬草採取だし、魔物と遭遇する可能性があるのなら妥当な金額か」
「受けてくれる?」
「ちなみにだが、その薬草というのはすぐにでも入り用なのか?」
「あくまで研究用だから、そう急いでいるわけでもないけど……研究そのものがストップするというのは嫌。しかもそれが忙しいとかじゃなくて、物がないというのは納得いかない」
……まあ、その感情は理解できないでもない。おそらく現在の仕事が一段落したら研究しようと思っていたのだろう。問題は、溜まっている仕事を終えるのにどのくらい掛かるのか、だけど。
「ああ、わかったよ。報酬的にも問題ないし、仕事は受ける」
「うん、これで一つ目の要件はいいね」
「……まだあるのか?」
「といっても二つ目の要件は私に関わるものじゃない。ディアス、あなたの問題」
俺の……? 訝しげな視線を投げた時、彼女は話し始めた。
「山に入るまでには少々時間が必要だし……その間、周辺の観光でもしたら?」
「エーナに誘われて色々と行っているし……」
「それで全てじゃないよ。そんな風に過ごしていると、目標は達成できないよ」
と、言われ俺は眉をひそめた。
「……エーナ、俺が旅をしている目的って話したっけ?」
「騒動の合間に、情報が舞い込んだの。シュウラというお節介な人から」
ああ、彼ならエーナに情報を伝えてもおかしくはないか。
「で、話を聞いて私は疑問に思ったの。ディアス、戦士団を抜けてからあなたがやってきたこと、振り返ってもらっていい?」
「……ダンジョン攻略としてミリアと出会い護衛依頼を受けた。で、魔族討伐とか魔物討伐とかやって……アルザを仲間にして――」
「加えてニックとダンジョン攻略の競争に、魔族との戦い」
続けて語ったエーナは、どこか呆れ顔になった。
「ディアス、やってることが戦士団と変わってないじゃない」
「まあ、そこは認めるけど……旅費も稼がないといけないし、アルザにも目的があるし――」
「重要なのは、あなたが自分探しの旅をしているという点よ。にもかかわらず、やっていることは戦いに次ぐ戦いばかり」
何が言いたいのか……とこちらが沈黙していると、エーナはさらに続けた。
「この際、ミリアさんとアルザのことは置いておきましょう。それぞれに目的があるし、関わった以上ディアスが目を掛けるのもわかる。でも、私が言いたいのは根本的な話だよ」
「……それは?」
そこでエーナは、俺を指さしながら、
「ディアス――あなた、自分探しの旅とか言っているけど、肝心のやり方が何もわかっていないんじゃない?」