技術面
「エーナさんについてだけど……戦士団を離れてギルドの要職に就いたということだけれど、その過程でディアスは交流するようになったの?」
「ああ、まあな……うーん、出会い以降のことはあんまり思い出せないな……あ、でも一つ大きな仕事があって、そこでよく喋ったな」
「それはどういう経緯で?」
「どういう……って……」
ずいぶん根掘り葉掘り聞いてくるな。
「彼女が戦士団を離れたのは、とある魔族との戦いによって実力が知れ渡ったからだけど、その際に俺が補助していたこともあって、大きな仕事ではペアを組んだんだよ。彼女の方も慣れない環境で、見知った人物が補助してくれた方が助かるということで」
「なるほど……」
俺の語った内容にミリアは何故か納得の声を上げた。一体何を考えているんだ……?
「なんだかエーナに興味を持ったみたいだけど」
「それは……『六大英傑』の中でも異色だなと思って。事務方で仕事をしていて……そういえばダンジョン攻略の際にギルドに所属する英傑がいると語っていたけど、それがエーナさんなのよね?」
「ああ、そうだ。冒険者ギルドの運営を行う上で、色々と施策を実行した。その多くが今のギルドを支えているわけだ……まあ彼女の本分は槍術であり、魔法については研究しているくらいで実戦ではあまり使わないから、彼女は案を提示してそれをギルドの面々が開発する、といった感じだな」
「その槍についても、実力はクラウスさんと並び立つと言っていたけれど」
「槍術に特化している故、その面でクラウスと対抗できるくらいには強い……魔王との戦いでは、クラウスと彼女が最前線で戦った。もちろんニックと……もう一人の英傑も魔王に挑んでいたけど、もっとも相対している時間が長かったのは彼女かもしれない」
「それだけ、力があると」
「技量という面で、魔王に対抗できたわけだ」
ミリアはゴクリと唾を飲む。エーナの実力……その一端を知って驚きを隠せない様子だ。
「他に質問はあるか?」
「それじゃあ私から」
と、ミリアではなくアルザが手を上げた。
「単純に戦ってみた場合、私とエーナどっちが強い?」
「うーん……微妙なところだな。ただアルザの方は肝心要の退魔の力がほとんど役に立たないぞ。剣術だけで対抗する必要性がある」
「むー、そっか」
「アルザは退魔の力が評価されていたわけだが、その優位性がなくなると……」
「確かにそうだね……ディアスが戦ったらどう?」
「俺なんか瞬殺だぞ」
「……先日の戦いで見せたあの強化魔法を使えばどう?」
アルザは問い掛ける……と、ミリアもまた興味のありそうな視線を向けてくる。
ふむ、タイミングがあればあの強化魔法について聞きたかったということだろうか。まあ別に答えてもいいんだだけど。
「あれは俺にとって切り札ではあるけど、長くて五分程度しかもたないからな。強化の度合いはそれこそ、高位魔族と戦えるくらいのものだし、エーナにも対抗できるかもしれないけど、魔法発動中逃げに徹するとかされたら、確実に俺の負けだ」
「正面から戦ったら勝つ自信があるんだ?」
「……エーナは武器のやりとりで駆け引きも上手い。虚実を上手く織り交ぜて戦うし、正直一対一で戦うとなったら相当やりにくいと思うぞ。技術戦で勝負するのは、避けたいところだな」
そんな感想を呟くと、アルザは「なるほど」と言い沈黙した。そこで、
「もしかして、決闘とかしたくなったのか?」
「あー、それもいいね」
「おいおい……まあでも、今戦ったらたぶんアルザが勝つぞ」
「仕事で忙殺されているから?」
「ああ、体調を万全にするにしても、数日くらいはしっかり寝かせて食事させないと無理だろ」
むしろ、魔王との戦いでよく万全な状態にもっていけたものだ……そういえば、行軍の最中エーナは馬車移動で眠っていたな。あれは体力を戻すためのものだったのだろうか。
「あー、そういえば言っていたな……魔王との戦い、あれが始まる前はただ目的地へ進めばいいだけだから、仕事しているよりも天国だって」
「……いつか過労で倒れるんじゃない?」
「否定はしない。だから俺は事務員雇えとか、もう少し仕事の割り振りを考えろとか助言しているんだけど、何せ彼女が無茶苦茶な仕事量をこなしてしまうからな。まあだからこそ、彼女に仕事が集中している面もある」
まあ、英傑としての仕事を優先するなら……今後も魔界に注意を向けるなら、彼女は事務方よりも戦士として活動させた方がいいのは事実。国側が今後『六大英傑』の力を借りるというのなら、彼女についてもどうすべきか考える必要性は出てくるだろう。
俺としては頑張っている姿は数え切れないほど見てきているし、もうちょっと報われてもいい気はする……いや、相応の賃金はもらっているはずだけど、プラス何かがあってもよさそうだけど。
そんな考えを持っていると、アルザは俺へ提案した。
「私とミリアでエーナさんと色々話したいんだけど、いいかな?」
「んー、別にいいんじゃないか? 明日くらいに話を通しておくよ」
俺の言葉にミリア達は頷き……その日は終わりを告げたのだった。