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彼女の様子

 エーナの発言を聞いて、俺は確かに聖王国側はもう騒動を起こさないよう、最大限の警戒をするだろうとは思った。

 魔王との戦い以降、多少なりとも気が緩んでいた面があったかもしれない……実際、魔族はそう思って攻撃を仕掛けた可能性は高い。


 けれど、もうこれからはないだろう……うん、ならこれ以上俺から言うことはないなと感じ、


「そうだな……じゃあ、本題に入るか」


 ここでエーナはビクッとなった。その様子を見て俺は訝しみ、


「どうした? さっきからなんか変だぞ」

「あ、えっと……」


 そして右往左往し始める。その態度を見て……俺はなんとなく、予感がした。

 長い付き合いだからわかる。もしかして、


「お前……まさか、呼んだ理由を忘れたとか言うんじゃないだろうな?」


 彼女の動きが止まる。まさかの図星らしい。

 そこで俺はため息をついた……まあ、こういうケースもあるにはあった。忙殺されて記憶が吹っ飛んだ……というのは、彼女の働きぶりから考えると仕方がないのかもしれない。


「……俺達はどうすればいい?」

「そ、そうだねえ……ここまでご足労願ったのは事実だし、町に滞在して観光でもしてきなよ。ほら、宿代はこっちが持つから」

「単にギルドが管理している宿屋だから代金がいらないってだけだろ……まったく」

「ご、ごめん。ほら、食事とかおごるよ? 休憩がてらディアスの好きな店に――」

「ここへ来る前に食事はしてきた」

「う、そっか……なら、旅しているなら何か必要な物とかある? よければお店でも回って――」

「特段入り用になる物はないかな。王都に滞在している間に一通り物資は補給したし」

「そ、そっか……」


 エーナは頭をかきつつ視線を宙に漂わせる。なんだか言葉を探しているような雰囲気だけど。


「……確認だけど、用事の内容は急ぎなのか? そのくらいは思い出せるのか?」

「え、えっとね……それほどでもないかな」

「もう一つ質問だが、俺が王都にいたから都合よさそう、ということで呼んだとかそういう感じか?」

「それは……その、ディアスじゃないと、と呼ぶ時に思ったはず」


 なんだか曖昧である。もう一度ため息をつくと、エーナはフォローを入れるかのように、


「まあほら、明日になったら思い出すかもしれないから」

「……思い出せるのか?」

「たぶん。どっかにメモがあるかもしれないし」


 書類の山からそれを探し出すのも困難な風に見えるけど……まあいいかと思い直す。別に急ぎの旅というわけじゃないし。


「……ミリアやアルザはそれでいいか?」


 なんとなく問い掛けると両者は頷いた。よって、


「連絡をくれればここへ来るよ」

「わかった」


 というわけで俺達は部屋を出る。結果的にここを訪れ、突っ伏していたエーナを起こして書類を床に置いただけである。まったく。


「ま、気長に待つか……ただあの様子だと大した内容じゃなさそうだし、旅を再開してもよさそうだけど」

「……こういうことは今まであったの?」


 ミリアが尋ねてくる。それにこっちは、


「ゼロではなかったよ。で、その内容というのが別に俺じゃなくてもいいんじゃないかって案件だったりして――」


 と、ここで俺はミリアとアルザの様子に気付いた。彼女達は何やらヒソヒソ話をしている。


「……書類整理をしている時、あの人はずっと――」

「それに、会話をしている様子とか……」


 何だ? 俺は首を傾げ聞き返そうとしたのだが、それよりも先にミリア達は俺へ顔を向け、


「ひとまず宿に案内してもらって……あ、夕食とかはどうするの?」

「それも宿に併設されている酒場で食べればタダだよ。味は……まあ、そこそこかな」


 俺の言葉にミリアは「そう」と相づちを打ちつつ、


「周辺に観光名所とかは?」

「あるよ。フィールドワークとか言ってエーナがついてきてくれと同行したことあるし、大体紹介できるけど」

「……彼女と一緒に見て回ったの?」

「ああ」


 それがどうかしたのだろうか……と思っているとミリアとアルザは再度互いに目を合わせた。

 だが今回は話をすることはなく……俺に案内を急かす。こちらは困惑しつつも、ひとまずギルド本部から出ようと先導を始めたのだった。






 その後、宿に入って夕刻の時間帯に食事をすることにした。その際ミリアは、


「エーナという人のことが知りたいのだけど」


 そう言われたので、俺が知り合った経緯とかは簡単に説明した。まあ正直、出会いはごくごく普通だし特別なものもない。


「あ、ちなみに年齢は本人に聞いてくれ。俺から言ったら槍が飛んでくる」

「わかったわ……彼女も戦士としては長いのね」

「十年だからな。ギルドの仕事をしているとはいえ、現役で武器を握って戦っているのは……とんでもないことかもしれないな」


 彼女の槍術は、たゆまぬ努力によって維持されているに違いない……そんなことを考えていると、さらにミリアから質問が飛んできた。


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