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彼女の出自

 ――エーナがなぜこうまで多忙を極めているのかについてだが、簡単に言えば彼女自身が仕事を抱え込みすぎているためだ。

 元々、彼女は槍の使い手として知られていたのだが、同時にとある戦士団の事務方として仕事をしていた。というより、リーダーに代わって実質取りしきっていたと言っていい。それはまだ彼女が『六大英傑』に選ばれるよりずっと前、今から十年くらい前の話である。


 彼女が所属していた戦士団は、外から見ても結構ブラックな環境であり、その中で彼女は相当大変だったはずだ。その団長は実力はあるし報酬なんかをもらったその日にどんちゃん騒ぎに使ってしまうというくらい豪快な性格だったのだが、酒癖は悪いしすぐ怒鳴るしで団員の入れ替わりが激しかった。

 そうした中で実質切り盛りしていたのがエーナであった。俺が知り合った当時は裏方がメインで団長に怒鳴られながら仕事をしていたのを憶えている。


「……何で、そこまでしてやっているんだ?」


 間借りしているギルドハウスを訪れた際、やたら叱責されている彼女を見て俺はそんな風に声を掛けた。すると彼女はボサボサの頭をかきながら、


「だって……誰もやってくれないし」


 後に聞いた話によると、彼女の師匠に当たる紹介で戦士団に入ったらしく、そのためか抜けにくかったようだ。

 やがて、俺は彼女が所属していた戦士団と組んで魔物討伐の仕事を行った。魔族が出しゃばってくる戦いで、共に戦った騎士に犠牲者が出てしまうくらい激しい戦いだったのだが……最も活躍したのがエーナだった。魔物を瞬殺する洗練された槍術は目を見張るほどで、圧倒的な武力でとうとう敵の大将と交戦。俺の強化魔法もあって彼女がトドメを刺した。


 その時、彼女の実力がようやく日の目を見た……のだが、ここから少し騒動になった。俺の補助があったという点を考慮しても、彼女の槍術は圧倒的だった。だから国やギルドが動いた。元々彼女が所属していた戦士団は評判もよくなかったし、彼女の実力を口実に引き抜こうと画策したわけだ。

 そうやって動く様子を見て、俺は多少なりとも驚いた……のだが、国もギルドも武勇からすぐに決断したようだった。ただ、肝心の団長がそれを阻止してしまった。看板になりそうな戦士なわけだから当然だけど……そこからすったもんだがあったようだ。


 結果として、彼女は戦士団を抜けた。ただ騎士になりたいとは思わなかったらしく、戦士団に所属していた際にやっていた事務仕事をやるという形で、冒険者ギルド直轄の戦士として雇われた。ちなみに元いた戦士団は彼女がいなくなって二ヶ月で解散した。団長も都落ちして、その後の姿は見ていない。


 で、事務方としても有能ぶりを発揮して、エーナは冒険者ギルドにおいて事務方のトップに近しい場所にいる。そして有事の際にはギルド側の代表として、英傑の一人として動く……十年経過したがその腕は衰えていない。机の上で倒れ伏すくらい忙しいのにどこで訓練をやっているのか……ともあれ、彼女は魔王との戦いでも相応の活躍を見せた――


「はい、終わったぞ」


 ドン、と書類を床に置いて俺が告げると、エーナは「ありがとう」と言いつつ椅子に座り直した。


「はあ、落ち着いた……」

「いや、仕事の量は減ってないからな?」

「わかってるよ……はあ、魔王との戦いが終わったというのに、何でまた魔族が……」

「……そのことについて呼んだわけじゃないのか?」


 タイミング的に、話としてはそれかなと思ったのだが……と、エーナは突然俺を凝視した。


「どうした?」

「あ、うん。えっと」


 何だか慌てた様子。こちらは首を傾げ、問い返そうとした時、


「まあ、そのことについても話をしようかなー、とは思ってた」

「本題は別にあるみたいだが……まあいい。なら、エーナは今回の魔族の動き、何かつかんでいるのか?」


 質問に対しエーナは沈黙し……視線を俺の横にいるミリアへ向けた。


 ――さすがに彼女には事情を説明せねばなるまいと俺はミリアの正体については作業の合間に語った。まあクラウスなんかが認めているので、彼女に話しても問題は出ないと判断してのことだ。


「あー、ごめん。さすがに魔界側の情勢はわからない。むしろミリアさんの話が新鮮だったくらい」

「そうか……」

「でも、魔王が滅んだ直後から変な動きをしていた、という情報はキャッチしていた。ただあそこまで大規模だったとは思わなかったけど」

「……今後、似たような事例が出てくると思うか?」


 エーナは何も答えなかった。まあ、返答できる内容ではないよな。ただ、


「……今回の騒動、国側も重く見ている」


 少ししてエーナは語り始めた。


「だから、他に敵がいないか調査は始めると思う。今後、同様の事例は……さすがに、聖王国の威信を賭けて許さないんじゃないかなと私は思うよ」


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