ギルド本部
俺達が次に目標と定めたのは王都から東に位置する町。名はベルーンといい、聖王国に存在する冒険者ギルド本部がある場所だ。
町の規模も重要な交易路が存在しているため大きく、王都と並ぶ聖王国北部の町として重要な地位を占めている。
その町のギルド本部にいるのが『六大英傑』の一人であり、ギルドにおいて重要な役職を務める――
「名は確か、エーナ=ファルディだったかしら?」
ミリアが資料で見た記憶を引っ張り出して俺へ問い掛けてきた。
「ああ、そうだよ。エーナ……彼女はギルドにおいては事務方のトップだけど、戦場に出る場合は槍を振るう戦士だ」
「女だてらに強いということね」
「実力があるからギルドの役職に就いているんだけど……まあなんというか、本当にあれで良かったのかと思うところだな」
こちらの言葉にミリアは首を傾げる。
「それは、どういうこと?」
「まあ……実際に会ってみればわかるよ」
――俺達は街道を歩み、ベルーンの町並みが見える所まで到達した。王都と同様に城壁のある町であり、多数の馬車などが往来している。
「ふむ、魔物の襲来によって多少なりとも物流とかに混乱が生じていたはずだけど……その影響はもう解消されたかな?」
そんな感想を述べつつ、ミリアやアルザと共に町へ近づいていく……この町は、俺にとって比較的馴染みのある場所だ。まあその理由の大半がエーナに呼ばれたため、なのだが。
「……私」
ふいに、アルザが俺へ向け発言する。
「エーナとはあんまり関わりなかったんだよね」
「アルザは一匹狼で活動していたからな。冒険者ギルドの仕事を率先して請け負い、なおかつ本部へ顔出すようになって初めて、エーナと話すことができるからな」
「ディアスはよく話をしたの?」
「戦士団所属ということで交流は多かったよ。ただ、この町に呼ばれる場合は私的な内容が多かったけどな」
「私的なんだ」
「俺を含め、懇意のある人間に個人的な頼み事をするんだよ。ギルドを通した仕事には入らないけど、なかなかに面倒なもの……そういうのを、押しつけてくるわけだ」
「あんまり良い思い出なさそうだね」
「まあなあ……特に俺は呼ばれる回数が多かったんだよな」
「え、どうして?」
「エーナによれば能力が高く、かといって役職に就いているわけでもないから気軽に呼べるとか言っていたな」
「……それ、体の良い使いっ走りにされてない?」
「そうとも言う。まあ、相応の報酬はもらえてたし、決して悪い仕事ではなかったぞ」
コメントをする間に、とうとう城門に到達。門番は俺のことを知っており、問題なく中へ入ることができた。
城壁の内側は活況で、大通りには露店が建ち並んでいる。宿屋の呼び込みなんかもずいぶんと多く、人混みの多さもあって気をつけていないとはぐれてしまいそうだ。
「時間は昼前……まずは食事からだな。よく通っていた店があるんだけど、そこでいいか? 一本路地に入る店で、そんなに混んでいないだろうし」
「私はいいよー」
アルザが先んじて答える。ミリアも賛同するように頷いたので、俺は二人を先導する形で歩き出す。
「問題は宿を先に探すか、それとも用件を済ませるかだな。アルザ、意見はあるか?」
「先にギルド本部へ行った方がいいと思うな」
「その理由は?」
「もし仕事の依頼だったら、ギルド側が宿を用意してくれるかもしれないでしょ?」
「……個人的な要件だったらその可能性はゼロだけど、今回は魔物の騒動直後だからな。その関連だとしたらギルドの正式な依頼かもしれないよな。わかった、ならまずは腹ごしらえをしてから、ギルドへ向かうか」
さて、俺は魔族との戦いを経てここに来たのだが……果たしてエーナは俺に対し何を要求してくるのか。
ちなみに絶対できないであろう仕事とか、そういうのはまったくない。精々「エーナ自身が本部を離れられないので、代わりに遠出して何かしらやってきて欲しい」とか、あるいは「仕事としては一人でやるのが難しいから手を貸してくれ」とか、そういう面倒な案件がいくらかあったくらいである。
英傑として評価される六人の中では一番顔を見ない存在なので、本当に英傑クラスの評価で正しいのかと疑問に思う人が出るくらいなのだが……俺は魔王との戦いを思い起こす。その勇猛っぷりは、戦場に立っていた戦士や冒険者、果ては騎士さえも驚愕したに違いない、というくらいだった。
彼女の英傑としての真価はその槍術。槍の先端に魔力を込めた刺突は、上級クラスの悪魔でさえ一撃で仕留めるほどだった。それに加え、技量面において右に出る者はいない槍さばき……と、戦いぶりについては信頼できるまさしく英傑なのだが――
「……魔物の出現で、冒険者ギルドはてんてこ舞いだろうな」
俺は何気なく呟く。するとミリアが反応して、
「軍の援護として、冒険者が駆り出されたでしょうね。実際、ディアスやニックさんが動いたし」
「だよなあ……ああ、二人とも」
俺はフォローしておいた方がいいな、と思って口を開く。
「仕事をする姿を見てたぶん驚くと思うけど……まあその、なんだ。彼女も大変なんだと理解してあげてくれ――」