主力部隊
俺が使用したのは強化魔法だが、先ほど味方に付与したものとは大きく違う……直後、騎士がさらに勢いづいて魔物を押し込み始めた。
「ディアス、どういう魔法を使ったんだ?」
ニックから質問が飛んできた。それに対し俺は……まずは呼吸を整える。対象範囲が大きかったため、相応に疲労したし魔力も消費した。
「高揚感の上昇と、魔力制御の向上だ」
「……魔力制御?」
「戦場を見回してみて、目前にいる魔物に対し体が固まっている騎士が相当数いたみたいだから、まずはそれを解きほぐすための高揚感の与える。そしてもう一つが武器へ込める魔力の制御能力を引き上げた」
コメントしている間に戦況はどんどんと良くなっていく。騎士達の攻撃によって魔物がどんどんと倒れる……しかもそれは今まで以上の速度で。
「大きな戦いとか、あるいは決闘とか……そういう状況下で人というのはどうしたって力を出せなくなる。緊張とかそういうので。それは体の動かし方だけじゃなくて、魔力制御もそうだ」
「つまり、肉体面と魔力面で本来の動きができるようにしたってことか」
「ああ……戦場全体を見て動きをよくすれば状況が良くなる……という推測でやったわけだけど、見事成功したな」
俺は息をつく。魔法を使用した代償として相応の魔力を消費した。正直、このまま戦い続ければいつかぶっ倒れそうだ。
「ただ、さすがに休憩する余裕はなさそうだな……」
「別に休んでもいいんじゃないか? 魔物はさらに来ているみたいだが、騎士の動きを見れば援軍が来るまで時間を稼ぐことができそうな気配だ」
……問題は、果たしてどこまで時間を稼げばいいのか、なのだが――と、俺はここである存在を捉えた。
「……遠視魔法で魔族を発見した」
「お、前線指揮官か?」
「いや、違うな……俺はミリアとアルザのいる所へ戻るが、いいか?」
「ああ」
ニックは答えながら剣を振り魔物を消し飛ばす。それに対し俺は一度ミリア達のいる所まで後退し、
「ミリア、魔族を発見したんだが……」
その姿について伝えると、ミリアは息をのんだ。
「変装魔法とかを使用していなければ、その魔族こそ私がいると考えていた……」
「本命か。たぶん俺達の戦いっぷりを見て、主力部隊で当たらないとまずいと判断したんだろうな」
俺はここで呼吸を整え、
「俺は急いで指揮官へ連絡を取る。ミリア達はどうする?」
「私も前線に回るよ」
と、アルザがここで明言した。
「勘だけど、最前線で戦った方が良いと思う」
「その感覚は重要だ。アルザの方も主力と聞いて思うところがあったみたいだな……わかった、ひとまずニック達と合流してくれ」
「うん」
「ミリアも同行するってことでいいか?」
「ええ、その魔族とも……顔を合わせても構わない」
倒そう、という気概を含んだ言動だった。それで俺は何も言わず二人とは分かれて指揮官の下へ。
状況を伝えると騎士は小さく頷きつつ、
「先ほど伝令がありました。直に北部へ援軍が来ます」
「それまで時間を稼げれば……」
「はい、援軍が来るまでに戦線が崩壊してしまったら王都内に侵入される可能性が高くなりますが、耐えられれば……それとディアス様、ご助力ありがとうございます」
「この戦いに勝つためにやったことだし、気にするな……俺も前線に立つ。間違いなく正念場だ、気を引き締めて欲しい」
指揮官が頷くのを見た後、俺はアルザ達と合流する。その時、襲い掛かってくる魔物の質が、明らかに変わっていた。
先ほどまで戦っていた個体と比べ、まとう魔力量が明らかに多い。やはり主力部隊……なのだが、ニックの豪快な一閃とアルザの退魔により、魔物を一蹴されていく。
ただ、ニックの方は倒せる数が明らかに減っている……このまま強引に押し切られてしまうのは避けたいため、俺は魔法で援護を開始する。
「ディアス、そっちは大丈夫なのか?」
ニックが尋ねてくると、俺は小さく肩をすくめ、
「なんとかするさ。それに、魔王との戦いと比べれば何てことない」
「はは、まあそうか……修羅場をくぐってきたからな。ただ、こっちとしてもさすがに疲労が出始めた。この辺りでディアスの強化魔法に加えもう一つ大きな手がないと、キツいぞ」
「それについては、向こうから来ている」
「ん、どういうことだ?」
「本命の魔族だよ。俺達の始末は自分でつけなければならない……そんな風に思っているみたいだし、こちらへ接近してきている」
「都合がいいな。ならその魔族を倒せば……」
「進軍自体を止めることは難しくとも、この戦いを終わらせる大きなきっかけにはなる。指揮している前線の魔族も動揺するだろうし……状況から考えても、この辺りで仕留めたいところだ」
そうこうする内に俺達の近くにいよいよ魔族の姿が。その視線は明らかに俺達を射抜いており、警戒している様子だった。
それに対しニックは挨拶代わりに風の刃を放った――が、魔族に届くより先に結界によって防がれた。まあこれは想定内だ。
よって俺達は距離を置いて――戦場のまっただ中で、対峙した。