大地を伝う剣
ニックが派手に攻撃を仕掛けたことで、魔物の軍勢の動きが一時止まった。それだけの威力があったという証左であり……英傑ここにありと、魔物を動かす魔族に示すことができただろう。
「多少なりとも時間稼ぎはできそうだな」
ニックが言う……俺は頷きつつ改めて戦況を確認。
押し寄せる魔物の最前線の動きを食い止めることはできているが、さすがに数は多くその全てをニックの風で対処できるほど甘くはない。彼の剣に加えて俺の魔法……さらにミリアの援護などが加われば維持的に敵の進軍を止められる可能性はあるのだが……、
「ここからどうするか、だな」
「なら次は私が」
そこで進み出たのがアルザ。彼女が握る刀身には既に退魔の力が備わっている。
「ニックみたいに魔物を食い止めればいいんだよね?」
「……できるのか?」
彼女の剣は洗練されているし、魔物に対して圧倒的に有効ではあるが……ニックのような広範囲攻撃、というのはあまり見ない。というより、
「退魔の能力って、魔力を集中させないと上手く効果を発揮できない、って以前言っていなかったか?」
それは戦士団として活動していた時のこと。アルザと顔を合わせて能力の話をしていた時、そんなことを言っていたような気がする。
「うん、ディアスの言うとおり退魔の力は、魔力を剣に集めないと有効に働かなかった」
そうアルザは返す……過去形、ということは――
「今は違うと?」
「まあ見てて」
自信ありげなアルザの様子に俺は見守ることに……と、さすがに接近する魔物の迎撃準備はしないと。
俺が杖を構えた直後、アルザの剣が発光を始めた。退魔の力であることは間違いないが、光を発してどうするのか?
するとアルザは剣を逆手に持つ。そこで動きを止めていた魔物達が動き出す……その直後、彼女は輝く剣を地面へ突き立てた。
それにより、退魔の力が地面へと注がれ――それが地面を伝い魔物のいる場所へと突き進んでいく。刹那、敵の足下まで到達すると退魔の力が爆発したように地上へ膨れ上がりながら四散した。同時に生じたのは閃光と轟音。ただそれは爆発音というよりは破裂音に近いものであり、俺は雷撃魔法を想起した。
結果は……退魔の力が弾けた周囲から魔物が消え失せた。しかもその数はかなり多く、一度に十数体は巻き込んだだろうか。さらにアルザは魔力を剣に注ぐ。すると、地面へ退魔の力が流れた瞬間、恐るべき速度で白い光が大地を駆け抜けた。
どうやらある程度光の動きは操作できるようで、次に炸裂した場所は魔物の最前線とやや後方。魔物は退魔の力に触れた瞬間に滅びていき、アルザの攻撃が相当効果的なのだと、改めて理解できた。
「ん、上等だね」
アルザが声を発する。彼女としても納得がいく内容らしい。
「退魔は剣先から離れるとすぐに弱くなってしまうけど、大地を介せば威力を留めることができる。でも、私が直接剣で叩き込むよりも威力は落ちるけど」
「魔物相手には十分すぎる威力だけど」
俺はそう応じつつ、再び魔物が動きを止めるのを目に留めた。風の刃に退魔の力……指揮している魔族が強力な攻撃であるため足を止めるよう指示を出したのだろう。とはいえ、急がないと王都の南側で戦っている騎士がここへ来てしまう。そうなったら作戦は失敗……よって、再び進撃を開始した。
「うん、アルザとニックの攻撃方法は理解できた……が、さすがにそれで敵を食い止められるほど、数は少なくない」
騎士達が態勢を整え迎撃しようと動く。それに対し俺は仲間を見回し、
「アルザ、ニック、まだやれるのか?」
「ああ、でも俺の攻撃は味方を巻き込む可能性があるぞ?」
「なら最前線で使用するしかないな……アルザの方は、剣を刺したら身動きがとれなくなるし、後方にいた方がいいかな?」
「前線に立つのとどっちが良いかな?」
「魔物を効率的に倒せるのはどっちだ?」
「数を言うのなら、たぶん今の攻撃の方が」
「わかった……ミリア、アルザの護衛を頼む」
「それでいいの?」
「ああ、それとアルザ、最前線じゃなくて敵の中核を狙うようにしてくれ。それで魔族を倒せたら万々歳だけど」
「一応それらしい気配は感じ取れるけど……大地を利用するからこちらの攻撃する位置は寸前にバレるよ。魔物なら反応できないだろうけど、さすがに魔族は……」
「魔物を減らすことを優先してくれればいい……ニック、あとどのくらいさっきの技は使える?」
「正直自分でもわからん……が、まだ余裕はあるぞ」
「なら、可能な限りあれで敵を攪乱してくれ……その過程で魔族の総大将が現れる可能性もある。その場合……臨機応変に対応だな」
「了解、っと」
ニックが動き出す。それに合わせるように彼の仲間が追随。そこで俺はアルザやミリアへ視線を送る。
彼女達は小さく頷き……俺はまず彼女達へ強化魔法を仕様。そしてニックを追って走り出した。