奮闘する英傑
俺達は程なくして戦場へと――王都北へと辿り着いた。既に騎士達が交戦を開始しており、現状ではひとまず対処できているのだが……後続からさらに魔物が来るとわかったためか、騎士達は号令を掛けて気を引き締め直していた。
そんな状況下で俺は指揮官と思しき騎士へ声を掛ける。相手は俺やニックのことは知っていたようで、こちらの助力を了承。俺達は前線へ向かうことに。
「好きにしてもらって構わないと言っていたけど……」
途中、ミリアが俺へ声を掛けてくる。彼女の言うとおり騎士は「どう動いてもらっても構わない」と言っていたのだが、
「たぶん、自分の隊を制御するだけで手一杯なんだろ」
と、俺は戦場を見て考察する。
「刻一刻と戦況は変化する上に、今回攻撃している魔族はずいぶんと込み入った作戦で聖王国を攻めている……下手に指示するより自由にやらせた方がいいって判断だな。北部を守護する騎士達は、ここが本命なんじゃないかと警戒しているかもしれない」
「……実際、それで正解だしね」
会話をする間に、後続からさらなる魔物が押し寄せてくる。俺は遠視魔法で状況を観察しているが……さらなる魔物が出現するのを見て取った。
「こちらに休息させる暇を与えない、断続的な攻撃だな……魔族によって多数の魔物を一度に命令できるからといって、ここまで複雑に動かすのは相当な技量がなければ無理だな」
「ええ、そうね」
「さて、問題はただ戦うだけでいいのか……敵の作戦が単なる物量による攻撃だけで終わるような雰囲気ではないんだが……」
と、ここで俺はアルザやニックがウズウズしているのを見て取った。そんな様子を見て俺は、
「はあ、とりあえずアルザ、ニック……二人は戦ってこいよ」
「お、いいのか?」
「フォローはしてやるさ……それに、現状を考えると派手に立ち回った方がよさそうだしな」
「了解、それじゃあ――いくか!」
ニックは叫ぶと同時に大剣を構え魔力を高め……足をさらに前へと出す。次の瞬間、ニックの前身から魔力が溢れ、魔物達は明らかにそちらへ視線を集中させた。
同時に襲い掛かる大量の魔物。騎士達へ挑もうとしていた個体すらもニックへと迫り、状況を見た騎士の誰かが声を上げた。いかに英傑であってもあれほど囲まれてしまえばどうなるのか――しかしニックは構わず、大剣を振りかぶった。
「そらっ! 食らいなぁぁっ!」
咆哮のような声と共に放たれた剣から生じたのは、風。剣先に集まっていた魔力が風の刃へと変化して、それが彼を中心に魔物へ向け降り注いだ。
俺が放つような魔法と似たようなものだったが、その規模が明らかに違っていた。剣を振った影響で、突撃してくる魔物……その多くを巻き込むほどであり、騎士達と今まさに交戦しようとしていた魔物の最前線を、刃によってズタズタにした。
騎士達が思わず目を見開き驚くような規模の攻撃だった。さらにニックは大剣を構え直してさらなる一撃を放つ。続けざまの一閃も風をまとったもの。だが先ほどよりもさらに魔力は大きく、振りかざされた一撃によって――多くの魔物が吹き飛び消滅していく。
彼の剣は、ダンジョン攻略に利用するような規模を遙かに超えているものだった。というより、こんな豪快な剣を閉鎖空間でぶちかましたらどうなるかわかったものではない。拡散する風の刃が自分達を巻き込むのならまだマシで、最悪ダンジョンそのものが壊れるかもしれない……そんな攻撃だった。
「しかも、単なる風じゃないな……」
俺は刀身から放たれた風にしかと魔力が乗っているのを理解する。刃は単なる物理攻撃ではなく、魔物達を屠るのに最適な効果を有している。その殺傷能力はこうした戦争規模の戦いでは非常に有効だが……問題は冒険者で日々ダンジョンに潜っているニックがどうしてこんな技法を手にしたのか。
考える間に俺は彼へと近づく。同時、三撃目の風が戦場へ放たれ――突撃しようとしていた魔物の群れが一時いなくなってしまった。
「ふう、いい感じだな」
ニックは一度剣を大地へと突き刺して、肩を軽く回した。
「とりあえず魔物には有効だな」
「どうして、こんな技法を?」
後ろまで近づいてこちらが問い掛けると、ニックは肩越しに振り返りつつ、
「まあ、そんな深い意味はないさ……前の魔王との戦い、俺は確かに暴れたしそれなりに戦功を上げたが……なんというか、もっとやれていた気がしたからな。修行をして技法を色々と開発しただけだ」
「こういう戦いに備えて、か?」
「まさかこんな早く使うことになるとは思わなかったが……ま、何にせよ役に立って何よりだ」
ニックは再び大剣を握り直す……そこで再び彼へ俺は声を掛けた。
「再び魔王と戦うかもしれない、なんて考えていたわけじゃないぞ。魔王との戦い、納得がいかなかったらがむしゃらに剣を振って技を得た……それだけの話だ」
「……そうか」
俺はそれ以上尋ねることはしなかった。冒険者ではあったが……魔王との戦いで、何かを変えようと奮闘する英傑の姿があった。