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強化魔法

 その日、俺とミリアはテントで休息をとり――翌日、騎士達が戦闘準備をしている中、目覚めた。


「さて……」


 俺はまず隊長へ挨拶に向かう。彼は顔を合わせる一礼し、


「私達は準備次第、進軍を開始します」

「それについてですけど、いくらか強化魔法を使いたいと思います」


 と、俺が言うと隊長は目を丸くした。


「強化魔法、ですか?」

「一定時間、体の奥にある魔力を引き出して自身を強化する魔法です。魔力を付与したりするのではなく、魔法を受けた当人の力を活性化させるタイプのものなので、持続時間も長く魔法を付与するのも簡単です」

「そのような強化が……それはどなたに?」

「討伐に加わる兵と騎士、全員に」


 事もなげに言った俺に対し、隊長やミリアは絶句した。


「ああ、そんなに大変なものではないのでご安心を」

「……負担でなければ、お願いします」

「はい」


 俺達は一度天幕から出て、隊長立ち会いの下、魔法を使った。直後、杖先から光の粒子が生まれ、杖を振ると周囲に舞って拠点全体を駆け巡る。


「はい、これで」

「終わりですか?」

「粒子に触れれば効果を発揮します」


 隊長が光の粒子を手のひらにのせる。それと同時、彼の身の内から魔力が溢れ始めた。


「なるほど……これが魔力の活性化ですか」

「半日くらいはもつと思いますので、よろしくお願いします。あ、ただあくまで自らの魔力により強化しているため、通常の強化魔法と比べ効果は劣っているので注意してください」


 解説を行っていると、騎士は光の粒子を呆然と眺め、何事か呟いた。


「これが久遠の――」

「……どうしました?」


 こちらからの言葉で、騎士は我に返る。


「ああ、すみません……強化魔法、ありがとうございます。魔物については観測できているので、これでひとまず十分だと思います」


 彼は礼を述べてから騎士や兵士に指示を出し始める。その一方で俺は、


「よし、それじゃあ行こうか」

「ずいぶんと軽いわねえ……」


 と、なんだか呆れ気味のミリアが言う。


「拠点の規模を考えれば無茶苦茶な気もするけど……」

「そうか?」


 首を傾げる俺に対し、ミリアはじっと俺を見据えた後、


「……まあいいわ。それで私達はどうするの?」

「魔族が逃げる可能性を排除する」

「……拠点に先回りをして退路を断つと?」

「正解」

「ここで確実に仕留める、というわけね」

「そうだ。というわけでミリアにも一緒についてきてもらって、協力してくれると助かる。同胞を手に掛けることに抵抗がなければ、の話だけど」

「私としては構わないわ」


 と、彼女はあっさりと応じた。


「魔王に与していた者であるなら、それを止めるのも同胞としての役目だと思うから」

「……覚悟は既にできているか。なら俺から言うことは何もないな」

「それで、作戦はどうするの?」

「魔族を発見したら、俺が敵の退路を断つ。で、その間にミリアが倒す……確認だけど、ミリアは今回の魔族と顔を合わせたことは?」

「ないけれど、向こうは私のことを知っている可能性が高いわね」

「わかった。とりあえず、強化魔法を付与しておく」


 杖を振る。光の粒子とは異なり、俺の魔力が一気にミリアへと注がれる。直後、彼女は驚いた顔を示した。


「これは……」

「いけそうか?」

「体が軽いわね。高揚感もある……今なら魔王軍の幹部とだって戦えそう」

「自信がつくのは良いことだけど、ちゃんと敵の力量とかを判断して動いてくれよ。さて、それじゃあ行こうか」


 俺の言葉によって進み始める。ミリアは俺の一歩後方に立って黙ってついてくる。

 やがて、先行した騎士達が魔物との戦闘を開始し始めたようで、砦へと続く森から声が聞こえ始めた。俺は彼らの動向を気配で探りつつ、森を突っ切るのではなく迂回するような形で砦へと近づくべく歩みを進める。


「ミリア、魔族の気配は感じ取れるか?」

「ええ、大丈夫よ」

「ならこっちは敵に気取られないように注意しつつ、砦の裏側に回ろう。侵入は……まあなんとかなるだろ」

「ずいぶんと行き当たりばったりに思えるけど……」


 そんなコメントに俺は笑みを浮かべた。こちらの表情にミリアは驚いたようだったが……何も言わず、俺に付き従う。


 少しして――魔物と騎士達が戦う間に俺達は何の障害もなく砦へと辿り着いた。


「城壁は木製だから破壊はできるな。問題は砦に侵入されたと思ったらどういう風に動くのか」

「魔王の仇討ちなら、迎え撃つ可能性もあるけど」

「そうだな……と」


 俺は杖の先端でコン、と地面を叩く。それを幾度となく繰り返した後、一つ頷いた。


「いけそうだな」

「……どうするの?」

「敵は動いていないし……少し準備をする。それが完了したら踏み込もう」


 こちらの言葉にミリアは小さく頷き――俺は作業を始めた。

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