幕間:騎士からの依頼
相次ぐ魔物の軍勢――その出現に対し、王都側の行動は明確であり、特に『六大英傑』の一人、騎士クラウスの行動は早かった。すぐさま対応できる騎士団へと連絡し、事態の収拾を図っている。そして現場が混乱しないよう、城にある執務室で命令を下しながら、同時に情報の整理も行っている。
問題は魔物とそれらを率いる魔族の能力――だが、これは騎士ルードからの報告によりある程度把握することができた。どうやら他の場所から王都へ向かおうとする魔物の能力は同一……ただ戦略が異なっており、王都から東の軍勢は乱戦に陥ったらしかった。
その情報を知り、クラウスは一つの可能性を考える。
「時間稼ぎをしているのか……?」
クラウスはそう呟くと秘書を担当する女性騎士へと声を掛ける。
「北東、南西の戦況は?」
「共に交戦を開始しており、同様に乱戦に近い状況のようです。ただ、周辺からさらなる増援が駆けつけており、対処は可能かと」
「そうか……逆に言えば、王都周辺にいた部隊はそちらへ注力してしまったというわけだ」
クラウスがそこまで言うと、テーブルの上に広げられた地図に目を落とす。
秘書が状況を地図に記していく。ひとまず最初、聖王国中央部から現れた魔族と魔物はルード達が対処。話によれば『六大英傑』の一人、ニックとディアスの力があったらしい。
「まったく……ニックはともかく、ディアスは戦士団を抜けても首を突っ込んでいるのか」
自分探しの旅をするのなら、こういうことは騎士団や戦士団に任せておけばいいものを――内心でクラウスは呟きつつも、その助力をありがたく思った。
「もし時間稼ぎ……かつ、王都周辺の戦力を減らすことが目的ならば、どこかに本軍がいるはずだ。それを捜索する者を編成する必要があるな」
そこまで言った時、伝令の騎士が部屋へとやってきた。報告書を受け取ったクラウスは内容を一読し、
「……まったく、八面六臂の活躍だな」
書かれていたのは、騎士ルードと共に転戦したディアスやニックによって、魔族を打倒することができた、というもの。
「ルードは北東へ転戦か。報告書によればディアス達は同行しなかったらしいが……ふむ」
クラウスは秘書へ何事か伝える。それに従い女性騎士は部屋を出て行った。
と、そこへ入れ替わるようにしてノックの音。クラウスが返事をすると扉が開き、現れたのは、
「どうも」
「ああ」
――戦士団『暁の扉』団長である、ロイドであった。
「要件があると聞いて」
「ああ……ちなみにセリーナはどうしている?」
「現在は団員のとりまとめを」
「ピリピリしているだろう?」
問い掛けに対しロイドは苦笑する。
「そうですね……なぜ自分達は指示が出ていないのか、と」
――王都に残っていた戦士団。その中で魔王との戦いに貢献した者達にも、今回援護して欲しいと依頼を行い、既に王都を立っていた。特に『黒の翼』についてはシュウラという英傑が所属していることもあり、重要な依頼を任せている。
けれどそうした中、同じ英傑がいるはずの『暁の扉』については何もなく、王都に残っている状態だった。
「団員が減っていることが要因なのではと団内では推測していますが」
「人数的なものを考慮しているのは事実だよ。今回の戦いは集団と集団のぶつかり合いだ。君達が個々に素晴らしい実力を持っていたとしても、魔物の数を考えればやはり構成員の多い戦士団へ依頼するのが良いと考える」
「……魔王との戦いの後、僕らはガタガタですからね」
「セリーナが原因の一端ではないか?」
「それは認めますが、彼女は英傑であり副団長です」
ロイドの答えはそれだけだった。そこでクラウスは深々と頷き、
「そうだな……さて、王都に残ってもらった『暁の扉』だが、人数が少なくなったため、というのは理由の一つでありもっと大きな理由がある」
「それは?」
「セリーナの力だ。彼女の魔法ならば大軍勢で押し寄せてきても対処することができる」
「広範囲系の魔法によって、ですね」
「そうだ……が、その力が発揮されるより前に、もう一つやってもらいたいことがある。索敵だ」
「まだ他に、潜伏している敵がいると?」
「むしろ、現在暴れている魔物達は囮の可能性がある……情報は逐一伝わっていると思うが、出現した魔物だけで王都を陥落できると思うか?」
「難しい、と僕は思います」
「そうだな、私も同意見だ。その考察に加えて、敵は乱戦に持ち込んでいる……王都へ襲撃するなら、一も二もなく真っ直ぐ進軍するべきだが、騎士団のかみ合った瞬間その場に留まって交戦している……これは長時間騎士団の動きを止めるためだろう」
「つまり陽動で、本命の軍がどこかにあると」
「そうだ。セリーナの魔法を活用すれば、隠れている敵の居所を見つけ出せる可能性はある。よって彼女に、魔族捜索を頼みたい――」