変わらない者
「聖王国としては戦わなくてもいいということだが、どうする?」
――その言葉に対し、最初に答えたのはアルザ。
「さすがに王都まで魔物が来る、なんて事態は大変だし、手を貸してもいいと思うよ」
「まあ、相応の報酬がふんだくれると考えれば俺達にとっておいしい話ではあるな」
返答しつつ俺はミリアへと目を移す。
「そちらは?」
「私も協力すべきだと思う……それに、気になることもある」
「ん、どうした?」
「今回、首謀している魔族が誰なのか……それについて知りたい。もし私が思い描いている相手だとしたら、今回の戦いをきっかけに今後も何かあるかもしれない」
魔族の素性をある程度知っているミリアの言だ。人間としてあーだこーだ言っている俺達と比べて相当重い。
「わかった……ニック達は?」
「ここまで来たんだ。当然付き合うぞ」
「というわけだ、ルード。次の場所は?」
「悪いな……北東へ進路を向けるが、そちらは色々と気になることもあるだろ? なら、独自に調べてもらってもいいぞ」
「わかった……よし、アルザ」
「どうしたの?」
「ダンジョン攻略をしていて、隠し通路を発見しただろ?」
「私の違和感をきっかけに、だね」
「魔力の揺らぎとか流れとかで勘づいたわけだが……その力を利用すれば、聖王国の索敵でも見つからない魔族の存在を捕捉できるかもしれない」
「……具体的にはどうするの?」
聞き返したアルザに対し、俺は頭の中で計画をまとめつつ、
「俺の強化魔法……それを利用して、アルザの能力を一時的に引き上げる。魔力を探る能力……それを広範囲に適用することができれば、もしかしたら見つけられるかもしれない」
ルード達が戦場を離れたタイミングで、俺達もまたその場を離れ一度町へ戻ってくる。そして宿で一泊してから、進路を王都へ向けつつ移動を開始した。
「どこへ行くの?」
「王都周辺に、いくつか魔力が集積する霊脈が存在するんだが、そこで俺の魔法を増幅させて、アルザの気配探知の能力で索敵をする」
「またずいぶんと無茶を……」
「でも、やる価値はあると思うぞ。ただ、突然探知能力が広範囲になったらアルザ自身が戸惑う可能性があるけど」
「何か代償とかあるの?」
「特にないよ。強いて言えば、俺が霊脈を介するわけで、あまり長時間大地とつながり続けると、俺の方がダメージを受ける」
「代償を背負うのはディアスなんだね……」
「基本、魔法を使う側にダメージが跳ね返ってくるからな」
「ディアスはいいの? そんな無茶をして」
「これで王都への被害がなくなるなら、それに越したことはないさ」
俺の言葉にアルザは何も言わなかった……それに対しニックは何故か苦笑する。
「そっちは何か言いたいのか?」
「いやいや、ずいぶんお人好しだと思ってさ」
「そうか? これだけの事態だ。魔王が襲来するのと比べればたいしたことない……と、言いがたい状況だし、全力を尽くすのは当然だろ?」
「ま、確かにそうだが……戦士団として活動していた頃とディアスは変わっていないな」
その言葉に俺は眉をひそめたが……まあいいかと思い直し、
「とにかく、霊脈のある場所へと向かう。王都から見て東側……ここからそう遠くない場所だから、問題なくたどり着けると思う」
そこまで語ると俺はアルザへ目を向けた。
「あとはアルザに強化魔法を使って……ただ、別に敵を見つけられなくてもアルザのせいじゃないからな」
「ん、わかった」
「ニック達はどうする? ついてくるのか?」
「俺達だけで活動する、というのも微妙だからな……ちなみにだがディアス、敵が見つかった場合はどうするんだ?」
「さすがに俺達だけで挑むなんてことはしないよ。冒険者ギルドを介して国へ連絡し、場合によっては手助けする……俺の名前であれば反応してくると思うし、問題は出ないと思うぞ」
「なるほどなあ……加勢する場合は今までと同じように戦闘……だが、さすがに今回の攻撃に関する首謀者なら、一筋縄ではいかなさそうだな」
「魔王へ挑める俺達なら、高位魔族相手でも十分対抗できるとは思うけど、警戒は必要だな……ミリア、そちらは推測している魔族だとすれば、戦闘能力は?」
「弱いわけではないけれど、武力に関して圧倒的に強いというわけでもない」
「魔族基準で弱くとも、人間相手ではかなり強いパターンはあるし、注意しなければいけないけど……さすがに俺達だけで突撃とかしないから、心配はいらないか」
「戦士団と顔を合わせたらどうする?」
さらなるニックからの問い掛け。セリーナのことを言いたいのだと思いつつ、俺は言及する。
「正直、そこは戦士団側の出方次第だな。戦場であるため、面倒なことになる可能性は低いと思う。ただまあ、一応注意はしないといけないかな――」