魔物の生成
ルードの号令を受けた騎士達は、魔族へ殺到して槍を放った。それに対し魔族は俺の魔法が頭に直撃した影響か、大きく体勢をぐらつかせ対応に遅れた。
それが、決定打となった……多数の騎士から繰り出された槍が、幾本も魔族へ突き刺さる。防御する余裕すらなかったのか魔族は咆哮を上げ……どうにか体を後退させて槍を無理矢理引き抜いた。
とはいえ動きは極めて遅く、騎士達のさらなる追撃によって魔法が降り注いだ。雷や炎など、様々な属性の魔法が魔族へ突き刺さり……とうとう耐えきれなくなり、体が塵と化していく。
勝負は決した……が、まだ戦場に魔物が残っている。俺はそれを倒しつつ、ルード達が残党を倒せと命令したのを確認すると、近くにいる魔物へ視線を集中させた――
乱戦という状況下による戦いだったが、どうにか魔族を倒すことにも成功し、魔物も全て倒しきることができた。俺達が一息ついていると、ルードが近寄ってきて俺へ言葉を向けた。
「すまない、助かった」
「無事で良かった。距離はあったけど援護できる位置にはいたからな」
「本来なら、騎士同士で連携して補助すべきところだったんだが」
「そこは次の戦いに活かせればいいさ……問題は次だな。どうするんだ?」
「全力で情報収集をしているところだ。敵の動きから考えても、複数箇所から王都へ向かって同時攻撃……それだけではなく、まだ何かありそうな気配だからな」
ルードはそこまで語ると、周囲に目を向けた。
「この戦場の後処理は先行した騎士団に任せればいい。俺達は転戦するぞ」
「次は順当に行けば北東か?」
「あるいは王都へ接近して別働隊がいる可能性を考慮して動くかどうか」
「その辺りは王都から指示が来るのか?」
「そうだと思うが……おとなしく待っているのもまずいかもしれないな」
……敵の動きから、二重三重に策があるとルードは確信しているようだ。実際、魔物と戦ってみてこの戦力では王都を陥落させるのは難しい、という考えで敵の攻撃はまだまだ終わっていないと推測するのは当然と言える。
「一連の動きを指示する魔族を倒さない限り、戦いは終わらないだろうな」
俺のコメントに対しルードは重々しく頷くと、
「一度騎士達の点呼を取る。それが終わったら町へ戻る」
「わかった」
ルードが一度離れていく……ここで俺は仲間であるミリアへ視線を注いだ。
「今回の魔族も、それほど強くなかった……魔物の生成に特化した存在、と考えればいいか?」
「おそらくはそうね。ただ、似たような魔族を合計四人……魔物を生成する能力に秀でた魔族というのは決して少なくないけれど、統一した軍団を形成するほどの規模となると数はかなり限定されるでしょう」
そこまで語るとミリアは口元に手を当てつつ、
「となると、ダンジョンを作成して大地の魔力を活用して……?」
「いや、その可能性は低いと思う」
ミリアの言葉に対し、俺は否定しつつ言及する。
「魔族達がいつ何時ダンジョンを作成するかわからない……そのため、聖王国は常に警戒している。ダンジョンを作成するだけながら密かにできるとは思うけど、大地の力を利用して魔物を大量に生成する……さすがに、それを聖王国に見咎められず実行に移すのは無理だ。どれだけ生成技術がすごくても、大地から魔力を吸い上げればそれで気付く」
「そう……なら、可能性としては考えられるのは生成能力の強化かしら」
「強化、というのは本来持っている魔族の能力を強化して……?」
「あくまで可能性だけれど……ただ、他者の力を強化できる技術を保有する魔族は確かにいる。もしその魔族が王都に接近してきたら確定かしら」
……ダンジョンを作成し、密かに能力で魔物を生成していたのであれば、露見されるリスクは少なくなる。そうして聖王国側に仕込みを行い、魔王が滅んだタイミングで……次の魔王となるために、仕込んでいた策を実行した、とかなら一応理屈としては成り立つ。
「ミリア、仮に君が考える魔族の仕業だとして、まだまだ敵が押し寄せてくる可能性もあるのか?」
「そうね。単純に力押しではない……何かしら秘策があると考えて良いかも」
「俺達は基本、聖王国の方針に従って戦い続けることしかできないけど……なんとかして裏をかきたいところだな」
「作戦を指揮する総大将を倒せればいいんだが」
と、ニックは腕組みをしながら俺達へ告げた。
「聖王国側に頼んで見つけることとかできないか?」
「さすがに国側も領土内全域を調べるってことだと時間が必要だろう。王都周辺だけでも調べているとは思うけど……」
その時、ルードが戻ってくる。彼の話によると、今度は北東へ赴くらしい。ただ、
「ディアス達はどちらでもいいぞ」
「……それはつまり、参戦しなくてもいいってことか?」
「ああ。騎士団と戦士団が共同で戦っていく。個人の戦いではなく軍団の戦いだ。ディアスの加勢はありがたいが、戦士団を抜けた人間だし国側も気が引けたんじゃないか?」
一応討伐の仕事を受けた上での行動なのだが……ふむ、と俺は少し考えた後、仲間達へ問い掛けた。