消耗戦
俺達は魔族がいる場所から遠い位置で騎士達の援護を行い、少しずつ状況をよくしていく。一方でルード達は魔族へ迫る勢いで攻撃を加えていた。それによって魔族は対応に迫られ、自らの周辺にいる精鋭と呼べる魔物を差し向けている。
魔族は完全にルード達の動きに気を取られているような状況であり、俺達のところまで手が回っていない……ちなみにルードは、俺達の動き方をみて何をやろうか察したのだろう。乱戦を繰り広げる戦場から入り少ししてから魔族へ狙いを定めたので、俺達の作戦も考慮に入れた動きだと考えていいだろう。
完全に戦場の注目はルード達騎士団に集まっている。乱戦による苦戦していた先行部隊も彼らの動きに合わせて少しずつ態勢を整えていく。それを見て取った魔族は魔物を差し向けて場をかき回そうとする。
「……魔族は狙ってこの戦場を作っているな」
乱戦により消耗戦を望んでいるかのような動き。ただこんな攻撃では例え勝利したとしても魔物の数は相当減っているはずだ。にも関わらずこうした策を実行している真意は一体何だ?
「この魔物達で王都へ攻め寄ろうとしているわけじゃないのか?」
「むしろ、囮のようにも見えるな」
と、俺の言葉に反応したのはニック。彼は剣を魔物へ叩き込みながら続ける。
「最初に交戦した魔族を含め、全部で四ヶ所魔物の軍勢が出現しているんだよな?」
「ああ、そうだな……他の場所における戦いも乱戦になっているとしたら……」
「敵の狙いは王都周辺にいる騎士団の動きを縫い止めること……まだ別働隊がいるのかもしれないぞ」
「だとするなら、王都の北……魔界へ繋がる方角から、本命の軍が来るかもしれないな」
あるいは、もう既に敵がいるのだろうか? そうであれば騎士団は術中にはまっていることになるのだが……と懸念していた時、横にいたアルザが声を掛けてきた。
「もし本命の軍がいるとなったら、魔王クラスの敵が出てくるかもしれない?」
「どうだろうな……ミリア、魔王候補の実力とかはわかるか?」
「さすがに私も全てを把握できているわけではないけれど、好戦的かつ実力がある……そういう魔族も当然いる。けれど魔王ほどの実力ではないと思うし、なおかつここまで用意周到に準備をして……というやり方で攻めるのは首を傾げるわね」
「そういう魔族が用いる手ではない、と?」
「いえ、単純にここまで準備をするほどの能力がないだけよ」
なかなか辛辣なミリアの発言……なるほど、好戦的な魔族は脳筋、と言いたいのかな?
「策略に長けた魔王候補もいるにはいるけれど……その場合、本命となる軍団は王都を陥落できるほどの戦力を用意している……? 魔界側も魔王による一大決戦の後だから、英傑すらいる王都を攻められるだけの戦力を用意できるかしら……?」
「疑問はあるけど……どちらにせよ、援護するべく早急に向かう必要性があるな」
まあ俺達が王都へ向かってどこまで貢献できるかわかったものではないけど……会話の間に俺達はさらに魔物の数を減らしていく。そして戦場の一角の騎士達を援護した時、魔族は俺達のいる方角へ魔物を差し向けるのが遠視魔法で把握できた。
「あ、俺達のやっていることに気付いたな」
俺の言葉を受けて、仲間やニック達が視線を向けてくる。
「ルード達は徐々に魔族へ接近しているけど、俺達を放置しておくのもまずいとして魔物が近づいてくる……無視してもいいし、迎撃してもいいけど……」
「迎撃する方がいいのではないかしら」
と、ミリアが俺へ提言する。
「魔物は乱戦するよう指示を受けているでしょうから、どうにか態勢を整えた騎士団がまた混乱するかもしれないし」
「そうだな……幸い数はそれなりといったところだし、大規模な魔法を使えなくとも騎士達と連携すれば対処は可能かな」
魔族も魔物を減らして余裕がなくなっている……魔物の作成はできないようなので、このまま迎撃し続ければ数を減らし楽になる。よって、
「なら、近づく魔物を撃破するぞ!」
俺の号令に従い、仲間やニック達は動き出す。そしてこちらに追随するように騎士達も動き始める……そして、俺達は差し向けられた魔物達と激突する。
「はっ――!」
気合いを入れた声と共に、俺は雷撃を魔物へと放った。破裂音が生じ、閃光と共に魔物を数体貫き……先頭にいた魔物に加えて複数体消滅した。
「魔族周辺の魔物についても問題はなさそうだな」
俺は感想を述べつつ……交戦開始。とはいえ、俺達の敵ではなかった。俺やミリアの魔法に加え、アルザとニックの猛攻によって、魔物はどんどんと数を減らしていく。魔族側はそれを察したようで視線を明らかにこちらへ向けたのだが……ルード達が近づいているのもあって、結局何もできなかった。
よって俺達は一片の容赦なく魔物を倒していく……やがて差し向けられた魔物を倒した頃にはルード達がいよいよ魔族へ肉薄し、戦いの大勢が決まろうとしていた。