混沌とした戦場
翌日、俺達はルードの指示に従い東へ向かい……予定通り昼頃、戦場に到着した。
それを一目見た瞬間、厄介な事態に陥っていることがわかった。戦況を一目見て、ミリアは一つ呟く。
「苦戦……というよりもこれは――」
「ああ、非常に面倒な形に陥っているな」
戦場は街道近くの平原。周囲に旅人などの姿はなく、魔物が襲来するということで避難などは済ませているとみて間違いない。
ただ……迎撃に来た騎士団と魔物の軍勢は、乱戦の様相を呈していた。陣形などが完全に存在せず、とにかく魔物達は場をかき回して騎士達が団結して突撃してこないように処置をしている。
「戦略的には有効だな」
そこで、近くに来たルードが俺へ告げた。
「乱戦に持ち込むということは、魔物側もそれなりに兵力を減らすことに繋がるが……魔法などによって攻撃するのが難しい」
「確かに、あの状況だと俺が遠方から魔法を使って、というのは無理だな」
味方に当たる可能性があるので、広範囲に渡る魔法は使えない。よって白兵戦で魔物を倒していくしかないのだが――状況的に騎士団の方が押されているようにも見受けられる。
「両軍かみ合っているような段階であるため、時間が掛かりそうだな……ルード、俺やニックはどうすればいい?」
「騎士団は救援に向かう。ディアス達は自由にして構わない」
「自由に……いいのか?」
「さすがに乱戦である以上は、事細かに説明は難しいからな。ディアスやニックの思うように動いてもらった方が、おそらく良い」
そこまで語ったルードは、周囲にいる配下を一瞥し、
「こちらは先行する。ディアス、ニック、頼むぞ」
「ああ」
俺が返事をするとルードは号令を掛けて突撃を開始した。その一方で俺は戦場から距離を置いて状況を観察する。
「ディアス、どうする?」
ニックが尋ねてくる。すぐにでも動こうとしているみたいだが……俺はそれを手で制しつつ、
「まずは魔族がどこにいるのかを確認したい」
「総大将を狙うのか?」
「位置を把握したら、魔族から遠い騎士達を助けていく」
ルード達は真正面から突撃し、魔物を倒し始めた。そして戦場の中へ踏み込むと分散し始め、敵の数を減らしていく。
「乱戦で敵味方入り乱れているからな。こういう場合はまず確実に助けられるところから態勢を整えた方がいいと思う」
「魔族から遠い場所、というのは意味があるのか?」
「前回と魔物へ指示を送るプロセスが同じだとしたら、魔族は戦況を見て即座に魔物を動かすことができる……が、さすがに遠くの場所より近くの場所を優先はするだろう。乱戦であっても俺達なら戦場にある一局面を打開できるくらいは可能だ。まずは魔族のマークが薄い場所から助けて、乱戦の状況を覆す……そして魔族が状況を察し退くか体勢を立て直すか動けば、魔物を結集させるはず」
「そこを魔法で狙う、というわけか」
「そう都合良くいくかどうかはわからないけどな……まあ無策で攻撃を仕掛けるよりはいいと思う」
俺はミリアやアルザへ目を向ける。二人は小さく頷いて俺の意見に同意を示した。
やがてニックも賛同し、俺は遠視の魔法で戦場を観察する。少しして魔族のいる所を確認して、
「よし、まずは――」
方角を指定し、俺達は移動を開始。そして魔族から距離のある場所に到達し、その場にいた騎士の援護に入った。
「あ……ありがとうございます!」
礼を述べられつつ、俺達は瞬く間に魔物を倒していく。その能力は数日前に戦ったものとほとんど変わらない。俺やアルザ、ニックであれば瞬殺だし、ミリアだって楽勝だろう。
程なくして周囲にいる魔物を倒しきると、騎士達は即座に体勢を立て直して他の場所へと向かった。そこに俺達は追随し、乱戦を繰り広げる戦場を駆け抜ける。
戦場全体が結構広がっているので、時間は掛かりそうだが……俺は雷撃を放ち、大型の魔物を撃ち抜いた。周囲にいた騎士からどよめきが上がりつつ、俺とニックはさらに魔物を倒していく。
そうした中で、ニックは剣を振りつつ俺へ問い掛けた。
「ディアス、魔族の様子はどうだ?」
「……俺達が打開した場所は戦場において端っこだし、魔物がこちらへ向かってくることもないな。むしろルード達へ注目し、そちらへ魔物を差し向けている」
混沌とした戦場の中で魔族の周囲だけは魔物で固められており、隊列も整っている。そして、魔族はルード達へ戦力を振り分けている。
「俺達のことも注意はしているだろうけど……少数だから、反応は薄いな」
「なら好機だな」
「ああ……アルザ、ミリア」
俺は仲間へと呼び掛ける。
「魔物を倒すペースを速める。今ならこちらの動きに気付いてもルード達へ魔物を差し向けた後だから、対応するのは遅れるはずだ」
「わかった」
アルザはあっさりと同意。一方でミリアはやや不安げな表情を見せつつも、
「やってみるわ」
「その意気だ……よし、ニック。このまま気合いを入れ直して、魔物を倒し始めるぞ――」