王都への侵略者
俺とニックは砦へ戻ると、すぐさま状況を確認して馬に乗って砦を出た。アルザやミリアもまた乗馬はできたので、移動については特に問題はなさそうだった。
ちなみに風を利用した移動魔法とかを使う選択肢もあったのだが、ニックの仲間達を含めるとさすがに人数が多いということで断念した。
そして、最寄りの町に辿り着いた時点で俺達は詳細を得ることができた……現在俺達が迎撃した魔物の軍勢と呼べる存在が、合計で三つ生じていた。それぞれ王都から見て南西、東、北東――南に存在する魔物の軍勢については、俺とミリアが旅をしてきた道と被る部分がある。
しかもその数は俺達が戦ったものと遜色がない……こういった軍勢が王都へ向け同時に進軍したのならば、なるほど確かに脅威になり得るだろう。で、最大の問題は現時点での被害だが……ルードからの情報によると、全ての軍勢が王都へ向け進撃しており、通り道に近しい町や村などを攻撃しているわけではないという状況だ。
「これは息つく暇もなく王都へ攻め寄せるための策略だろう」
と、ルードは語る……俺達は町にある詰め所で話し合いをすることに。メンバーは俺とその仲間に加えてニックとその仲間だ。
「村や町に関わっているとそれだけ足も鈍くなる……速度から考えて、魔物はおよそ五日後には王都に近しい場所へ到達する。俺達が交戦した軍勢も、移動速度を考えれば同じくらいの時間で王都へ辿り着いていたはずだ」
「王都側はどう対処するつもりなんだ?」
俺が問い掛けるとルードは資料を手に取り、
「既に部隊は派遣されている。足りない部分は戦士団から人員を引っ張ってきているらしい……当然『暁の扉』や『黒の翼』についても参戦しているな」
つまりセリーナやシュウラと顔を合わせる可能性が高い、というわけだ。
「戦士団……特に『六大英傑』が率先して動いている。一騎当千の強者揃いだからな」
「クラウスはどうした?」
「あの人はさすがに王都に待機だ。最後の砦として、防衛をやるらしいな」
まあ、それが無難か……これで現在、英傑として動いているのはニックを含めれば四人か。
「残る英傑は?」
さらに問い掛けると、ルードは別の資料を手に取り、
「片方は冒険者ギルドで仕事に忙殺されているらしい。まあ冒険者達の統制をする人間がいないとまずいし、必然的に裏からに回ることになるな」
「だろうな……で、もう一人はさすがに――」
「ああ、いない。魔王との戦いの後に、あっさり姿を消したからな」
まあ聖王国に対し愛着のある人間なので、場合によっては駆けつけてくるかもしれないけど……とりあえず、勘定に入れない方がよさそうか。
「ルード、そうした中で俺達はどう動けばいい?」
「こちらは東側から進軍してくる魔物を迎え撃つ。現時点で既に周辺地域にある駐屯地から騎士が出ているため、後詰めという形で戦うことになるな」
「もし魔物や魔族の能力が似通っているのなら、勝てそうではあるけど……」
「その辺りはより詳しい情報が入るまではわからんな……さて、明日には出発し、昼前には戦場へ到着する。今日のところは休んでくれ」
俺達は国側が借り受けた宿で休むことになっている。ルードはまだ仕事があるらしく部屋を出て行くと……俺は一度伸びをして、
「明日以降は結構キツいかもしれないな……」
「ディアス、今回の襲撃どう思う?」
問い掛けてきたのはニック。俺はそこで一考し、
「……南西部から来る魔物達は、出現位置からすると俺が旅をした経路に近しい場所だった。魔族討伐とかまでやっているわけだし、そうした状況下で見つからなかったということは……相当な隠蔽技術が使われている」
「ああ、違いない」
「魔物の質や指揮する魔族の能力についてはそれほど高くない、という感想ではあるけど……奇襲に成功していたら、王都にそれなりのダメージを与えられたかもしれない。ただ、王都を攻め滅ぼすというレベルには達していないから、本当に敵はこれだけの戦力で滅ぼせると思ったのかどうか……」
千単位の魔物を隠し通せる技術というのは相当高い。反面、魔物の質については微妙なところ。強力な魔法で隠蔽できるのであれば、それに準じるだけの魔物を生成してもおかしくはないと思うのだが……。
「ねえねえ」
と、ここでアルザが俺へ向け口を開いた。
「単純にディアスの目から見て、私達が動かなかったら襲撃は成功すると思った?」
「どうだろうな……王都の情報収集をしているのなら『六大英傑』のうち三人が王都にいることも知っていたはずだ。魔王との決戦で騎士団もそれなりに痛手を被っているにしても……陥落までいく、という可能性は低いと思うな」
そこまで語ると、俺は一つ考察した。
「もしかすると、これだけではないかもしれない……現在王都へ進軍する魔物で傷を負わせて、トドメを刺すべく本命の魔族が……だとするなら、王都へ警告を発した方がいいかもしれないな――」