猛攻
状況は明らかに人間側が優勢……かつ、魔物は反撃の糸口をつかめていない状況。このまま押し切ることができればおそらくは――と思ったところで騎士は包囲を狭めて中央にいる魔族へ迫ろうとする。
ここで最大の問題は、魔族が追い込まれた状況下で何をするのか、ということだ。さすがに魔物を散らして好き放題させるという選択をとることはないだろう。ただ、動き方次第では厄介なことになりかねないのも事実。
一方で、今の段階で魔族を倒したらまだまだ数の多い魔物がバラバラになってしまう。さすがにこの状況で散り散りになったら逃げ延びる個体が生まれる可能性もある。現段階で魔族を倒すことも時期尚早だろうか?
「おーい、ルード」
俺は現状をどう思っているのか指揮官に尋ねたのだが……その時、騎馬隊が近づくのが見えた。
「あ、方角からするとルード達だな」
「好機だと悟って仕掛けるのかしら?」
疑問を発したのはミリア。俺は「だろうな」と応じつつ、
「この調子だと一気に魔物の数を減らしつつ、魔族が手をこまねいている間に仕留める、という方向性だろう」
――俺の予想は的中していた。ルードから連絡が来て、騎士達が攻めて魔物達の動きを鈍くした時、魔族を倒して欲しいとのことだった。
『総大将を討つのはそちらに任せてもいいか?』
「ああ、構わないぞ」
俺は承諾するとニックへ目を向ける。
「そっちの調子は?」
「問題ない」
「なら、タイミングを見計らって魔族に接近するぞ」
そう告げた数分後――とうとうルード達騎士団の主力が魔物と激突した。次の瞬間、魔物は吹き飛び隊列が大きく乱れた。
それに乗じてルード達はさらに攻め立てる。魔物側はこれまで散々蹴散らされてきた影響もあって統制が上手くとれていないため、反撃する個体が少ないくらいだった。
これは他ならぬ魔族がどうすべきか迷っているためだろう――これだけの魔物を作成したのであれば、その技術については目を見張るものがあるが、戦略を立てる能力はない、といったところか。
騎士団に包囲された時点で、魔族の趨勢は決まっていたのかもしれない……やがてルード達が敵の中軍へと入り込もうとする。その段に至り、魔族はルード達が攻める側に魔物を振り向けた。それによって魔物達が大移動を開始。包囲されている状況下だが、まずはルード達を対処しなければ……という考えなのだろう。
それに対し俺達は動かず魔物の動きを観察し……ルード達が攻撃し始めてから少しおとなしかったためだろう――明らかに俺達へ攻撃する魔物の数が少なくなった。
ここで俺は遠視魔法により魔族の動きを捕捉する……よって、
「ニック、仕掛けるぞ」
「了解、っと」
「アルザ、前衛は頼んだ」
「うん」
声と同時に彼女とニックが駆けだした。俺は後方にいるミリアに目を向ける。彼女が頷くのを見ると、アルザ達に続き走り出した。
魔物達は反応を示したが、魔族の命令を優先とする個体が多いのか、こちらを阻んだ魔物の数は少なかった。魔法により結構敵を倒しているはずで、本来なら警戒されてもおかしくはないのだが……騎士達に猛攻を仕掛けられことにより、余裕がなくなっていると見るべきか。
ならば、容赦なく攻め寄せて終わらせよう……アルザとニックの二人が、魔物を蹴散らし魔物の群れへと入り込む。そうなればさすがに敵側も反応したのだが――俺やニックの仲間による魔法が、向かってこようとした魔物達を一掃した。
途端、魔族の顔がこちらを向いた。そして明らかに警戒の目を向ける……どうやらルードを始めとした騎士ではなく、自分の首は俺達が狙っている……というのを察したらしい。即座に魔物達は魔族を阻む壁を形成する。
「思った以上に行動が素早いな」
「とはいえ、この状況下で対応しても遅いけどな」
俺の言葉にニックは言うと、迫る魔物を薙ぎ払っていく。帯同する騎士の人数からしても俺達は少数なのだが、人数の少なさをニックの斬撃が補っている……いや、それどころか騎士達よりも殲滅速度が早いかもしれない。
俺達へ魔物が迫ろうとするのだが、その全てを魔法によって迎撃していく。加え、こちらに注意を向けた魔物達は背後から騎士が迫り槍に貫かれ滅んでいく……魔物の軍勢はさらに数を減らし、逃げ場もない。いよいよ決着の時だ。
「いけそうだな……このまま攻めるぞ!」
俺が声を上げると、ニックが呼応するように剣を振り進行方向の魔物を吹き飛ばした。続けざまにアルザが放つ退魔の力が魔物を的確に滅し……勢いを維持しながら、俺達は中軍にいる魔族へ接近していく。
そして――ルードが率いる騎士団もまた中軍へ迫る。魔族はどう判断するのか……魔物の隙間から見えるその表情は、明らかに焦りがある。そしてどうすべきか決めあぐねている。
俺はここで好機だと悟った。遠視の魔法で魔物の数がさらに減っているのを見て……杖へ、魔力を収束させた。