どこにもない
「悲しみ」そう呼ばれている感情を、何度経験したか分からない。
一々、数えてなどいない。
そう思うと「時間が解決してくれる」とよく言われるが、本当かもしれない。
けれど、その悲しみの中で苦しくもがき悲しんでいる最中は、助かる方法はないのだろうか。
想像しきれない未来に期待しどこかで未来の自分に問題を放り投げている。
苦しみを乗り越えたのは、過去から現在まで生きてきた自分自信だ。
だが、それではどうにも今の自分が納得いかないのだ。
今できない事が、これから先できるようになるのだろうか。
私はいつしか、自分自身を随分嫌いになり
信頼できなくなっていた。
人に嫌われたくなくて、本音が言えない小心者
なのに自分には嫌われてもいいような行動をしてしまう。
明確な目標や、夢もないのに
何かを諦めて泣いている私は
桜を見て思う
周りからどんなふうに見られているか
どう見られたいかばかりを気にしていたら
随分と、つまらない人間になったなぁ、と。
春が来たということは分かるのに
今から何をしていいのかが分からない
桜色の景色には似合わない、グレーの何かで
濁してしまっているというのに
私という存在を今日も、ここに置いてしまう
「死のうかな」
頭の中にはずっとあった
口にはしないけれどずっとあった
初めて声にしてしまった
人目も憚らずに
「死にたいんじゃなくて、消えたいんじゃないかな?」
突然話しかけられたと言うこともあるが
どこかピンときてしまった自分に驚いた
でも、それより先に
「誰ですか?」
という言葉が先に出ていた。
だって知らない人に急に話しかけられたんだから。
その彼は、トイプードルを散歩させていた
偏見だけれど、トイプードル飼ってる男はチャラい
「ひっどいな〜俺は君のこと知ってるけど…
よくここで1人で座ってるよね」
そしてこの彼、私の偏見通り話し方もチャラい
私は今公園にいて、確かによくこのベンチに座っている
家から徒歩3分ほどで着いてしまうこの場所は
私にとって、1人でとことんいろんなことを考えられる安心する場所なのだ。
誰に何を否定されるわけでもない
かといって答えが出るわけでも無いのだけれど
特別な時間を過ごせる、特別な場所
「私はあなたの事しりません」
絡まれたら困る。
ここは私にとって特別な場所
誰も立ち入れたくないデッドラインを敷いている
でも、今日は何故かいつもと違かった
「私、あんまりいい人生じゃないんです」
知りませんとかで会話を終わらせようとしたはずなのに、この見ず知らずの彼にかなり重い言葉を吐いてしまった
「そっか」
とだけ彼は言って私に犬のリードを渡してきた。
犬は私を見てなんだか嬉しそうに尻尾を振ってくれた
「そいつはさ、ペットショップで売れ残っててトイプードルのくせして値引きされてたんだよ。
トイプードルって言ったら犬界のアイドル的存在だろ?しかもこいつの価値を人間が勝手に数値化して、大きくなったから価値が下がった。そんな風に決めつけて、嫌味だよな
俺、それ見た時になんで?ってそれだけ思って、気づいた時には家族になってた。」
「そうだったんだね。こんなに可愛いのに」
「犬だってさ、自分が値引きされたら自信無くすと思うんだよ。人に勝手に決められた価値を自分の物にしちゃうと思うんだよ.
だから俺がこいつといる事で、証明してやりたいんだ。
出会って一緒にいて、俺はこんなに幸せなんだって
お前には俺を幸せに出来るほどの価値があるって」
「もし私が値引きされたら確かに落ち込むと思う」
「いや、君はもうそれと同じことを自分自身にしてる」
どう言う事だろう?
「あんまりいい人生じゃないから。私がこんなんだから。そんな風に決めつけてる。どんなことが君に起きたのかも、どんな気持ちで過ごしていたのかも俺には分からない
でもきっと、決めちゃダメなんだよ
決まってていいのは明日も君が生きてるってことだよ」
そう言って、彼は黙った。
私は言葉にはしなかったが、いつものように頭の中でたくさん考えた。
もっと順調に人生を進められていたら
私はもっと笑っていたのかもしれない。
ずっとそう思っていた。
笑う理由を探しもせずに
笑えない理由ばっかり見ていた。
「どこにあるんだろ…」
気づいたらまた、泣いていた。
悲しくて泣いたんじゃなかった。
なのに、何で泣いているか聞かれたらきっと
私は答えることはできなかった。
「トイプードル飼ってる男の人はチャラい」
「何それ?偏見?」
彼は笑っていた
「そう。でも違かったな
人と話すって大切なことなんだね
これも私が決めつけていたから偏見に繋がってたけど、貴方と話して話さなきゃ分からないことあるんだなって」
そっかそっかとまた彼は笑っていた。
「私は、何かあった時に誰にも話さないの。
自分の事を誰かに話しちゃうと、人に自分の事を知って欲しいです!って言ってるみたいな気がして
知ってもらうほど価値のある中身でもないのに、って
だからいつも人の話を聞く側の人間になって、友達の相談とかに乗るの。
私何も話さないから周りにはきっとつまらない人間だと思われてると思う。
でも自分を曝け出してつまらないって思われるより全然いいなって思ったの。」
頷きながら彼は
「君はずっと誰かに聞いて欲しかったんだね」
と言った。
自分でも分からなかった自分自身のことが
彼と話すことで見えてきた。
私は自分が思ってる以上に
寂しかったんだな