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茹でダコ

ある日の休日。

俺は宿題を片付け、特にやることがないので暇をもてあましていた。

とりあえず、散歩にでも出かけようとして玄関に向かったところでインターホンが鳴った。

(ん?誰だろ?)

「はい…え!?」

玄関の扉を開けるとそこにいたのは俺の彼女だった。

「こ、こんにちわ…」

彼女は立っているのもやっとと言う状態だった。体はふらついており、目の下にはクマが出来ている。

「ど、どうしたんだ…っと」

理由を聞こうとしたが、力が抜けたかのように倒れ掛かってきた。俺は何とかして支え、リビングへ運んだ。


「はぅぅ~」

(寝言か…)

とりあえず、リビングのソファーに寝かせたが、このあとはどうしたらいいのかわからなかった。

俺の名は雨宮あまみや 吉男よしお。彼女の名は羽柴はしば めぐみ

俺も恵も高校2年で、俺は陸上部に入っており、惠はマネージャーをやっている。

半年ほど前からの付き合いだが、いまいちわからない部分がある。

彼女は俺にはネコみたいに人懐っこいが、他の男たちには見向きもしない。

そんな一途な部分が俺の気を引いたのだろう。

気がついたら付き合い始めて今に至る。

「にゃお~」

目を覚ました恵はかまって欲しいとでも言うようにしゃがれた声を出した。

「ネコか!?お前は!」

恵がこんな声を出すのは初めてではないが、聞くたびに俺は呆れるのだった。

これを理由に、俺は恵に「子猫」という“ぴったりなあだ名”をつけてやったことがある。

「だって、冷たいんだも~ん」

(失礼な。どこが冷たいってんだ)

とりあえず、恵の親に連絡しておくか…。


『へぇ、急にいなくなったと思ったら、吉男君の家に行ったの』

電話に出たのは恵の母親だった。

「はい。でも目の下にクマを作ってて…昨夜何かあったのですか?」

『さぁ~その辺は恵に聞いてみなさい。しばらく娘を頼むわね。将来の息子君♪』

恵の母親はそう言って電話を切ったが、俺は顔が真っ赤になってることが自分でもわかるほど熱かった。

(あのな…まだ決まったわけじゃないだろ?)


「ところで、一つ聞きたいんだけどいいか?」

俺が聞くと、恵は小さく頷いた。

「昨夜、何やってんだ?目の下にクマを作るってことは、一睡もしてないだろ」

「うん…」

「…一晩中寝ずに何をやってたんだ?」

「実はね、吉男君とのこれからのことを考えてたの」

「俺とのこれからのこと?」

「うん…近い将来、吉男君と夫婦になれたらなぁって…きゃっ♪」

恵は顔を赤くしてかけてあった布団を頭までかぶった。

俺も顔が少し火照った。

「あら、恵ちゃんじゃない」

俺の後ろから3つ年上の姉の声が聞こえた。

「あ、姉貴。悪いんだけどさ、恵を姉貴の部屋で寝かせてやってくれないかな?ここはちょっと寒いから風邪引くかもれないし」

「それなら、彼氏のあんたの部屋でいいじゃない」

「それが、ちょっとな…」

「どうしたの?…あ、さてはHな本を見られるのが怖いんだな?」

姉貴は俺が自分の部屋に恵を寝かせることを渋っているのを見てからかうように聞いた。

「そんなんじゃねぇよ。今の俺の部屋は、都合が悪すぎるんだ」

これは本当のことだ。なぜなら…。

「渋ってないで説明しなさいよ。んもう」

姉貴は膨れて俺の部屋に行った。俺も後をついていく。


「何も見られたら困るものなんてないじゃない。なのにどうして渋ってたのよ?」

「い、いや…その理由は、布団の臭いをかいでくれれば…でも、やめたほうがいい」

俺が頭を掻きながら言うと、姉貴は俺の布団に近づいた。

「?…くんくん…◎♀×♂□▽☆」

頭に?を浮かべながら俺の布団に鼻を近づけ、臭いをかいでしばらくした後、意味不明な声を出してひっくり返った。

「だから言ったのに…」

「…め、メチャ汗臭い…あんた昨日何してたの!?」

「い、いや…実は…」

俺は昨日、部活を終えて遅くに帰ってきて、あまりの疲労感に布団に寝転がって、その状態で晩飯も食わずに今朝まで寝ていたのだった。

朝になって伸びをしたあと、何気なく布団の臭いをかいだとき、余りの悪臭にひっくり返りかけた。

「さっさと干してきなさいよ!んもう!」

「わかったよ。だから姉貴の部屋で恵を寝かせてもいいだろ?」

「私の部屋も駄目。私も昨夜遅かったから」

(?)

俺は姉貴の言ってることが意味不明だった。

真相を確かめるため、自分の布団を干した後、姉貴に許可をもらって部屋に入った。

「…う…」

「だから言ったでしょ?」

さっきの姉貴と同じ状態になりかけた。なぜなら、部屋中が…。

「酒くっせぇ~!!」

そう言えば、朝飯のときいなかったと思ったら、二日酔いだったのか…。

「だからね、恵ちゃんの布団にはあんたがなってあげたら?」

俺は顔を真っ赤にし、頭から湯気を出してるのが自分でもわかった。

(彼女とはいえ、年頃の女にそんなことできるか!?)


何とか気を取り直してリビングに行くと、恵の姿がなかった。

「あれ?どこ行った?」

「恵ちゃんなら、私の部屋で寝かせたわよ」

母親がやってきて説明した。

「行ってあげたら?あんたにかまって欲しがってるよ」

「…そうする」


部屋に入り、布団を見ると、恵が横になっていた。

「にしても、わざわざうちに来ることなんてないんじゃないのか?」

「私も家で寝てたはずだったの。でも、気がついたら吉男君の家の前にいたの」

「ふ~ん…ん?うわ!」

入ってきた母親が恵の布団をめくったと思うと、急に背中を押されて倒れてしまった。ということは…。

「きゃっ!」

恵に覆いかぶさるような姿勢になってしまった。

『ふふ♪どうぞごゆっくり~♪』

俺の背中を押したと思われる姉貴と母親が一言言って部屋を出て行った。

母親は手際よく俺が倒れこんだ瞬間に布団をかけたのは余談だ。

とりあえず、姿勢が姿勢なので離れようとしたが、恵がしがみついて離れなかった。

「お、おい」

「ごろにゃ~♪」

(本当に、ネコかこいつは)

よく見たらいつの間にか寝てる…。それなのに離れてくれなかった。

はぁ…しょうがねぇ。目を覚ますまでこのままでいるか…。

と思ったら、恵は寝ぼけながら俺の唇を自分の唇で塞いだ。

「!!」

恵とこんなことをするのは初めてではないが、いきなりの行動に戸惑うばかりであった。


しばらくして唇が離れる。何とか違う世界に吹っ飛ぶことなく済んだみたいだ。

「ほぇ?」

恵が目を覚まし、寝ぼけた表情で俺を見た。

「いつまでしがみついてるんだ?」

「だって暖かいんだもん♪あれ?吉男君、顔がタコさんみたいに真っ赤だよ?」

(え!?)

どうやらさっきの恵の行動が原因だろう。火照ってることはわかったが、まさか真っ赤になってるとは…。

ま、こういうのも悪くないかと思いながら俺は心地よい眠りに誘われた。


夕方。目を覚ますと、恵は俺の頭を膝枕しており、俺が目覚めたのを確認すると、一言言って帰っていった。

こういうところは、妙にさっぱりしてるから、嫌味がなかったりする。


翌日。学校に行くと、昨日のことが噂になっていた。

その噂をばら撒いた犯人は大体わかっていた。

教室に入ると、思ったとおりだった。

恵が昨日のことを友人たちに話していた。それも思いっきり惚気丸出しで…。

俺と交際を始めたときも同じように惚気話をしてたからなぁ…。


この日、俺に「茹でダコ」というあだ名がついたのは余談だ。

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