表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖神学園  作者: 織優幸灔
二年生
99/201

四十八 皆の集合

 術で辺り一帯の人が目を覚まし、激痛で苦しみ始めた。


 その中で火音と紫月はすぐに立ち上がる。


「月火!」

「痛い……!」



 紫月は腕を押えながら月火を見上げ、満身創痍だった火音は立ち上がったもののすぐに膝から崩れ落ちた。


 水月と火光も痛みに耐えながら火音の傍に集まり、炎夏と玄智も無理やり起き上がった。



 しかし炎夏と玄智はすぐに月火の元を離れ、火音の傍に逃げる。


「な……本当に人間か……?」

「人間だな。それしか有り得ない」


 火音のように半人でもない限り人間だ。


 しかし人間は人間でも、体内で妖力が実体化しかけた後天的半人。

 今までの記録でも見たことがない状態だ。



 火音が傍に寄ると月火の目が紫に染まり、火音から白黒魅刀を受け取った。


「痛みは?」

「治った。無理すんなよ」

「それが無理かも」


 月火は刀を抜くと鞘を捨て、刀身に実体化仕掛けている妖力を込めた。


 元々妖刀なので妖力を込めたからと言って変化はない。ただ切れ味が触らずとも切れるようになり、刀身が自在に変わるだけ。



「バケモンかよ」

「お互い様でしょう」


 全員の呼吸音や血液が流れる音、汗が地面に落ちる音が聞こえ、二人が刀を構えると同時に誰かがやってきた。

 月火は軽く目を見張る。



「遅れてごめんなさい!」

「お久しぶりです月火さん。遅れてしまい申し訳ありません」


 姉妹でやってきた夢和(ゆめな)とその妹の夢望(ゆめみ)は月火の斜め向かいのビルに降り立った。

 本来なら妖心すら出せないはずの妖力量が火光ほどに跳ね上がっている。これも共鳴の効果か。




「……この際誰でもいいです。命令!」


 月火の張り上げた声に空気が一瞬で引き締まった。

 肌を刺すようなピリピリとした雰囲気で動けるようになった全員が構える。



「封が使える者は動きを止めることに全力を注ぎなさい! 動けるものは全員で叩きます。凪担(なぎにな)天忠(てんちゅう)!」


 月火の怒号の声で凪担は真っ赤に泣き腫らした目をこちらに向け、特級は月火を殺そうとこちらに向かってきた。


 しかし月火の真ん前に来た瞬間、片方の頭が落ちた。

 すぐに再生するが確実に弱っている。


「この怪異は貴方とともに死んだ親の怪異です。貴方に親の死を悔やむ気持ちがあるのなら、全てを肯定し、受け入れなさい。一時間で終わらせます」



 こういった未練でこの世にへばりついている怪異は全てを肯定し、全てを受け入れたその先に本来の力を発揮する。

 拒絶がなくなった後に思う存分暴れるのだ。


 これでもまだまだ力の半分も出ていないと思うと嫌になってくるがそう言う怪異も千年に一度ぐらいはいるだろう。それがたまたま月火の代で当たっただけ。

 問題はない。


 月火が刀を凪担に向けると紫月が飛んできた。


「なんですか」


 耳打ちされた紫月の言葉に大きく目を見開くと同時に紫月は得意そうに笑った。


「我が愛し子の役に立って死ねるなら二度目の死も怖くはない。頼んだぞ」

「……神々の名に恥じぬよう努力します」



 紫月は紅揚秘刀太を月火に渡すと笑ったまま白葉の体から抜け、姿を消した。




 白葉は狐の姿に戻る。


『……久しぶりだわ』

「久しぶりですね白葉」

『白葉〜!』


 黒葉は白葉に擦り寄ったが月火は鞘に収まっている紅揚秘刀太で二体の頭を軽く叩く。


「再会を喜ぶのは後です。角を埋めなさい」

『はい』


 九尾は揃って返事をすると夢和達とは反対の月火の斜め向かいに立った。

 これでビルとビルを使って特級を中心に三角形が出来た。



 月火が共鳴をさらに深めようとしていると火音に小さく名前を呼ばれた。

 火音が向いた方を見ると数人の人影が夜闇に紛れてやってくる。


「母様!? 水哉様に……水虎さんと水明(すいめい)さんも……!?」

「ひさ……し……ぶり、ね」


 稜稀は月火の目に躊躇いながらも小さく手を振った。

 正月は帰れていなかったので去年のお盆ぶりだ。



 月火は呆然とする。



「な、なんで……」

「娘達が命懸けで戦ってるのにのうのうとお茶を飲んでるわけにもいかないもの!」

「暒夏は来られなかったので私たちが代わりに」


 こう言っては悪いが暒夏よりもよっぽど頼りになる。


 水虎は三級だが一級相当の実力があるし、水明もかなり病弱体質になってしまったが学生時代の全盛期は最前線で無双していたという。



 火音も流石に驚いたようで黙り込んで内心で混乱している。


「さぁ二人とも! 神々当主とその伴侶としてしっかり活躍してもらうわよ」


 稜稀が手を二度叩くと二人はハッとした。



 月火は一度深呼吸とも言えない軽い呼吸を入れると当主の顔に切り替わった。


「封が使える者は制止に専念を。無理な者は戦いに重きを置いてください。一時間で片付けます」

「兄さん、大丈夫ですか」

「最近は調子がいいからね。仕事の量が減ったからかもしれない」



 そう言うと水明は刃が変わった形の長巻の、鞘代わりに巻いていた布を解いた。

 月火は軽く目を見張る。


波紋龍導野太刀(はもんりゅうどうのだち)……!? 火事でなくなったはずじゃ……!」


 百年ほど前、水神の屋敷は一度全焼している。

 その時に初代から継いできた波紋龍導野太刀も焼失されていたはずだ。




 月火が口を開閉して興奮していると水明は誇らしそうに笑った。


「火音から月火様が全部屋の記録を覚えていると聞いて私も読んでみたんです。そしたら謎ときで見付けました」

「畳の下を掘ったのは炎夏ですよ」

「グッズは買ってあげたよ」


 結局それに釣られたらしい。


 下から無垢な表情で嬉しそうに二人を見上げている炎夏を見てなんとも思わないのか。




 月火はにやけが収まらない顔を叱咤すると人数を数えて配置をつき直した。


 月火と火音で南北に、夢和と夢望で東西に、黒葉と白葉で東北と南西に、水明と水虎で北西と東南に別れ、八方向から狙う。



 それから神通力で弓矢を出し、炎夏には隙を狙って超高層ビルの中から弓矢で狙ってもらうことにした。

 ちなみに月火グループのビルだ。


 避難区域になって、かなりの被害を受けているので今更窓一枚割れたところで問題ない。



 下には水月と火光を中心とした高等部以上の一級妖輩をかき集め、他のビルから稜稀と水哉を中心に封を使ってもらうことにした。



 凪担は自分を罵倒し、特級に心配されている。


「……天忠さん」


 月火が声を掛けると凪担は涙と鼻水で汚れた顔を上げた。


「御両親は亡き後も貴方を守り続けていたんです」



 天忠の親はとても優しい方々なのだろう。


 月火が出会った時はあの鳥だったが、左右の翼を使って攻撃していた。

 左右で父と母の怪異がくっ付いたものだ。元は仲良し夫婦だったので怪異になったあとも問題なく共存出来た。


 今の双頭もそうだ。

 左右で父と母、月火が片方を跳ねると片方がもう片方を心配して弱った。



 とても仲のいい家族で、とても仲のいい夫婦が愛する子供を一人残してこの世を去った。


 怪異とは言わば人の未練が形になったもので、気持ちが爆発しやすくなる。

 だから怒った妖心は手がつけられなくなるしその気持ちや未練の強さで級が変わってくる。



 先日調べたことだが、天忠が頼った伯父に追い払われた後、その伯父は変死遺体で見つかった。

 両親が子供を守ってもらえず怒り狂った結果だ。


 調べるまでもなく検索したらすぐに出てきた。

 路地裏で殺されていたそうだが肉片がそこら中に飛び散り、辺りは血の海。ゴミ袋や壁には骨が刺さっていたそうだ。



 本当ならちょっと文句を言うだけで収まることがここまで大変なことになってしまう。


 怪異の本当の姿だ。




 しかしそんな姿になってでも御両親は天忠に指一本触れず、傷もなければ嫌なことからも全て守っている。

 最後の時、座る列が違ったので天忠を守れなかったらしい。それも関係あるのだろう。


 人生で最も怖く、危なかった時に庇ってあげることもその後に手当してあげることも叶わなかった。

 本人達も自分が人間ではないと理解している。


 人間ではないから手当は出来ない。それなら肉体的にも精神的にも全てを守り囲い、我が子を大切に育てようとしたのだろう。



 しかしそこも人間と怪異。上手く意思の疎通が出来ずに天忠は怯え、両親は相手に怯えていると思い込んでさらに凶暴化する。ここで負のループの完成だ。



 後は四、五年間それを続ければ気持ちは成長し続け、ここまで暴走する怪異に育ってしまった。

 育てようとする親を子が育ててしまい、それを制御出来ずに野放しにしてしまった。



 たぶん怪異が月火に怯えるのは圧もあるかもしれないが、天忠が月火を頼っているからだろう。

 我が子の大切な人を取らぬよう、自身の制御出来ない力を理解して月火からは逃げていたのかもしれない。



「全ては貴方を守るためですよ」


 月火が薄く笑うと天忠は大粒の涙を流し始めた。

 瞬間、怪異は月火よりも数倍の妖力を誇る怪異へと膨れ上がり、幼い子はその圧で気を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ