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妖神学園  作者: 織優幸灔
二年生
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四十七 試験の始まり

「結局始業式の前日になりましたねぇ……」



 今回、試験官の月火は受験者の澪菜と見学者の凪担(なぎにな)を連れてビルの屋上のフェンスに立った。

 ポケットに手を入れて魚のように空中を泳ぎ回っている二級怪異を見下ろす。


 この辺り一帯の住民は避難しているらしいのでだいたい暴れても大丈夫だ。

 月火グループの総売上の半分は神々の貯金に入れている。


 今までは神々社だけの売り上げだったが神々より月火社の方が稼いでいたのでまとめて半分にしたのだ。

 おかげで貯金が倍近く膨れ上がった。


「……あの程度なら余裕でしょう。行ってらっしゃい」

「頑張ります」

「え、生身……!?」


 澪菜がビルから飛び降りると凪担は慌てて見下ろした。


 魚が大きく燃え上がり、鱗が弾け飛んだ。

 月火は凪担の顔を庇う。


「うわぁ……!?」

「大丈夫ですか」

「あ、はい」


 月火はフェンスに座ると澪菜を見下ろす。

 前とは全く違う、俊敏な動きと制御された妖心術。玄智の教えか、結月の教えか。


 結月は微妙なので運動面では結月、妖心術は玄智と言ったところだろうか。


 さすが水泳部、体感がブレずに腕や肩の力が強い。



 澪菜は元々才能のない子と言われていたのでどんなものかと思ったが十分だ。高等部前に一級に上がれる。



 要は育て親の問題だ。

 馬鹿両親が何も教えずその才能を潰しかけていた。


 育てるなら七歳からと言われるが澪菜の場合は十三歳から、六歳遅れての教育だったがここまで成長出来ている。

 これは運動面的には兄よりも頼れるのではないだろうか。



 月火がそんな事を考えながら傍観しているとまた怪異が増えた。


「気付けますかねぇ?」

「な、何にですか?」



 この怪異、無限に湧き続けるだろう。

 無限に湧き続けるものにはだいたい源泉がある。


 今回の場合は月火が座っているこのビルの中、たぶん床やら天井を突き破って詰まっているのだろう。


 大きすぎるが故に無数の怪異に気を取られ、強い妖力に気付けない。

 これに気付けなければ二級は無理だ。


 運動面も妖力面も技術面も申し分ないが、頭が悪ければ三級でも難しい。

 三級は合同任務が多いのでカバーされるかもしれないが、それでも個人の判断が重要になってくる。



 澪菜は頭は悪くないらしいがいいわけでもない。

 猛勉強した炎夏と同等だ。



「……こんな小さな女の子でも死ぬ気でやるんですね」

「私は小二からやってましたよ。まぁ御三家はこんなものです」

「八歳!?」


 凪担が八歳の頃と言えば、幼馴染とともに妖神学園の話を聞かされていた頃だ。


 凪担が感心していると突然地響きが響き渡った。

 見下ろすと澪菜の足元がひび割れ、凹んでいた。


 背後に大きな燃えた木の輪が浮かび、ぐるぐると回る。


「輪っか……!?」

「澪菜さんの妖心は火車です。よく見ておきなさい」


 凪担は見てから動いた方がやりやすいのだろう。

 毎日月火と火音の戦いを録画して眺めている。


 段々火音に戦い方が似てきた。

 毎回月火が勝っているので本来なら月火に似た方がいいのだが、志が低い証拠だ。



『妖心術 火蝶風鱗(かちょうふうりん)


 火の蝶が舞い、その蝶と蝶の鱗粉が触れたところが燃え一瞬にして辺りが火の海になった。


 修復費用が大変なことになりそうだ。


「燃えた!」

「さぁどうなりますかね」


 月火がフェンスの上に寝転がり、欠伸をしていると凪担が叫んだ。


「あぁ!?」


見下ろすと澪菜が先程よりも少し大きな魚に喰われかけていた。


「喰うんだ……」

「たたた食べられますよ!?」

「胃酸は存在しないので大丈夫ですよ。胃酸はありませんが体内には怪異がうじゃうじゃと……」

「食べられた!?」


 澪菜が完全に喰われ、姿が見えなくなった。



 澪菜の実力なら五分か。

 数や中の怪異の強さが正確には分からないのでどういう状態で助け出せるか分からないが瀕死になったら妖力が薄くなるので大丈夫だろう。





 月火が座って見下ろしていると火光から電話が来た。


「もしもし」

『月火、今は澪菜の試験中?』

「そうです。何かありましたか」

『気を付けて。嫌な予感がする』


 またか。最近は多いが外れることは滅多にない。

 ここには特級怪異を憑けた化け物がいるのでいつ暴走するか分からない。


 月火が眉を寄せていると奥から火音の声が聞こえてきた。


『……何〜?』

『月火? 電話が繋がらなかった』

『そだよ。代わろうか? 嫌だけど』


 少しの口論が聞こえてきたので火光の電話を切って火音に電話を掛けた。


「どうかしましたか」

『澪菜が当たってる任務が一級に跳ね上がった。新しい怪異が……』


 火音の思考が伝わって新しい怪異が現れたと言われかけたとき、凪担と月火がいる屋上がひび割れた。



 瞬間、屋上を突き破ってきた褪せた赤色の腕が凪担の足を掴み、中に引きずり込んだ。


 月火は軽く見下ろして魚と、魚の中にいた怪異を祓う。


「えっ……!?」

「試験は中止です。一級に跳ね上がりました」

「一級……!?」


 月火は澪菜を抱き上げると黒葉を出しながら向かいのビルに移った。


 凪担が引きずり込まれたビルが爆発するように崩壊し、月火は澪菜を庇う。


「最悪だ……!」


 月火はもう一体の妖心を出すと金色の方を人間に変える。


「九尾! 澪菜を死守しろ」

「はい」


 特級が暴れ出した。

 凪担に危害が及んだからだ。これは月火でも抑えられるか分からない。


 月火はスマホを出すと火音に電話をかけた。


『も……』

「特級! 全員連れて来い!」


 月火はそう叫ぶとスマホの電源を切った。


『妖心術 狐鬼封縛(こんきふうばく)


 ありったけの妖力で数百の狐火を出し、鎖で封じようとしたが無理だ。

 蜘蛛の糸のごとく容易く断ち切られた。


 特級の鳴き声の波動で月火と黒葉は吹き飛ばされ、反射的に澪菜に妖力の壁を作る。それと同時に気を失った。







 どれだけ寝ていたか。

 起きると傍で黒葉が瀕死になり、首が折れたせいか体が動かなかった。


 黒葉を叩き起し、神通力で無理やり治した。



 飛び起きると周囲には虫の息の玄智と氷麗、炎夏や澪菜などはほぼ息をしていない。

 他にも数人の妖輩が倒れている。


 水月や火光は周囲にはおらず、火音も見当たらない。




 誰も起きておらず、特級は怯えて自分を責めている凪担を心配している。


 巨大な鳥の姿ではなくなり、双頭の蛇になっている。




「あぁ、ウザい……」


 無理やり治したせいで体が麻痺して言うことを聞かない。

 歩きたいのに足が出ない。バランスを取るので精一杯だ。


「黒葉! 早く治せ」

『でも主様……!』

「早くしろ」


 月火が睨むと黒葉は怯えた様子で月火の麻痺を治した。

 激痛が走り、膝から崩れ落ちる。


 黒葉が駆け寄って来たので支えにして立ち上がった。




 自分を奮い立たせろ。この現状を招いたのは凪担を守れなかった自分のせいだ。

 全身が痙攣する程度の痛みが襲ったぐらいで意識を飛ばしていては二度と顔向け出来ない。火音にも会えなくなってしまう。




 月火は傍に落ちていた小石を拾い上げた。


 軽く妖力をまとわせて指で飛ばすと凪担の立っていたビルが破壊され、崩れ落ちる。


 特級はこちらを向くと牙を剥いた。

 凪担はハッとすると特級の胴に抱き着いて無理やり引き留めようとする。


 大号泣しながら震えて止めようとしている。




 特級が凪担と話している間に月火はビルのそばを見下ろした。


 紫月(しづき)のそばには紅揚秘刀太が落ちている。

 その瓦礫の奥には火音が倒れ、その傍には白黒魅刀と妖楼紫刀が落ちている。


「……黒葉、大丈夫ですか」

『は、はい……』

「この場にいる妖輩者を全員治します。数対質、どっちが勝つと思いますか?」

『……数の暴力には何も敵わないんですよね』


 月火はにこりと笑うと黒葉の頭を撫でた。



『妖神術 狐治源(こんちげん)・進』

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