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妖神学園  作者: 織優幸灔
二年生
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四十五 彼のメンタル

 火音が任務でいない夕食後、月火の前には五つのプレゼントが並べられた。


「多くないですか」

「僕からの誕プレとクリプレ」

「誕プレとクリプレと正月用」

「正月?」


 おかしい。

 貯金にお年玉は入金されていたが正月にプレゼントなど聞いたことがない。


 月火が首を傾げると水月は軽く頷いた。


 しかし火光は眉を寄せる。


「正月用とか言いながら自分が欲しかっただけでしょ」

「正確には月火とお揃いが欲しかった」

「一緒じゃん!」


 相変わらずシスコンは止まらない。


 凪担(なぎにな)が目を輝かせているのでプレゼントを一つ渡した。


「あげます」

「え!?」

「せめて月火が開けて?」

「いや、いいです! 月火さんのですし!」


 月火が口を尖らせながら手を引っ込めると水月は少し安心したように肩を下ろした。


 月火は火光の方から開ける。


「凪担さんの誕生日はいつですか」

「えっと……一月……七日……だった気がします!」

「曖昧だね。いつから一人なの?」

「十三で海外に行きました」



 十三歳の誕生日、両親と妹と幼馴染とその両親で誕生日旅行に行った。


 その道中、信号無視で突っ込んできた車のせいで左右から二台の車に突っ込まれ、凪担以外、皆即死だった。

 凪担は車の真ん中に座って、幼馴染とともに幼馴染の両親に庇われたのでまだ重傷で済んだ。


 祖父母もいとこもいなかったので一瞬だけ孤児院に入ったが、両親の遺産を相続することになったのでそれで海外に飛んだ。


「なんでわざわざ海外に」

「フランスに伯父がいるって聞いたことがあって……結局日本にいて、他の家庭にいましたけど」


 日本に帰って伯父の現状聞き、絶望している時に怪異に襲われて何故か守られているのだ。

 ギリシャでまた暴れて収拾がつかなくなっていた時に月火が抑えてくれた。


「祓ってないの?」

「あそこで祓ったらギリシャが壊滅すると思いまして」

「……化け物だったもんね」

「えぇ」


 怪異は全て化け物だ。


 特級怪異と特級妖輩がぶつかれば、確実に壊滅する。

 壊滅しなくとも半壊は確実だ。


 月火はプレゼントの全ての梱包を捨てると順に開けた。

 一つ開けては見向きもせず次を開ける。


「なんか悲しいよ」

「ねぇ」

「何故?」


 これが無自覚なのだから酷い。

 火音と婚約してからは比較対象が出来たのでより傷が深くなってしまう。


「あ、欲しかった財布だ」

「月火が前に言いかけてたから」

「言い切ってないんですね……」


 欲しいのほを言ったところで澪菜が飛んできたので言い切ってはない。

 出国直前に販売され、買えなかったとぼやきながら出発したので買っておいたのだ。



 火光からはピアスとリボンの髪飾り。

 ダブルリボン型で、奥が黒色、手前が赤の和柄になっている。


 水月からはネックレスと塗る人によって色の変わる口紅。透明で中にドライフラワーが入っている。


 それと最後、正月用プレゼント。


「……私の会社のタブレットじゃないですか」

「火音とお揃いだよ」

「わ……」

「僕とも」

「カバー……」


 うずくまった水月には申し訳ないがこの歳になって兄とお揃いはさすがに恥ずかしい。

 婚約者はよし、友達も大丈夫、同性姉妹はギリ平気、兄は嫌、親は断固拒否。


「……大丈夫だよ、色は違うから」

「でもカバー付けないと火音さんと区別付きませんし」


 二人とも、タブレットはアトリエかリビングに置くことが多いが、どっちにしろ二人とも同じ場所なのでごちゃごちゃになってしまう。


「透明でいいなら僕のあげようか? 僕蓋付きの買ったし」

「お願いします」

「取ってくるよ」


 水月は立ち上がると部屋に戻って行った。


 月火は時間を見ると少し予定を考える。


「……今週末に凪担さんのスマホを買いに行きましょう」




 翌日の朝、月火が起きてリビングに行くと額に包帯を巻いた火音がソファで眠っていた。

 向かいのソファには凪担が寝ている。


 二級の任務で怪我とは珍しい。

 月火が朝食を作り、弁当を詰めていると火音と水月のスマホのアラームが同時に鳴った。


 気付けばもう六時だ。


「おはようございます」

「ん……」


 火音はゆっくりと起き上がるとまだ眠たかったのか、再度寝転がって眠り始めた。


 水月はジャージ姿で起きてくる。


「おはよう〜……」

「おはようございます。凪担さん起こして下さい」


 六時に起こしてほしいと頼まれていたのだ。


 水月が軽く声を掛けると凪担はハッとして飛び起きた。

 さすが野宿をしていただけある。

 小さな声でもすぐに起きた。


「お、おはようございます……」

「おはよう」

「おはようございます。朝食出来ましたよ」


 三人で朝食を取り、六時半になると火光も起きた。

 が、リビングに来る前に洗面所でヘアーセットをしている。


「おはよう……」

「おはようございます。……大丈夫ですか」

「絶不調」


 顔が真っ青だ。

 熱はないし脈も正常だが顔だけ白い。


 朝食を半強制的に取らせるとグミを食べさせて飴を舐めさせた。


 グミは案外栄養が取れるし飴は低血糖予防だ。


 七時頃に火音に声を掛ける。


「火音さん、部活があるんでしょう。七時ですよ」

「……面倒臭い……」

「遅刻しますよ」


 月火は自分の髪をまとめると軽くアイロンをかけた。

 内側に違和感があったのだ。


「……火音さん本当に遅刻しますよ?」

「ヤバい」


 火音は飛び起きると盛大な溜め息を吐いて準備を始めた。

 八時からのはずだが七時半まで机に突っ伏し、十五分で用意して出掛けた。


「準備早すぎるでしょ」

「ヘアセットがありませんからね」

「いいなぁ」


 元々柔らかい髪質なので軽く手で整えるだけで寝癖も直る。


「……なんか、大丈夫かな」


 火光のそんな呟きに月火は目を瞬いた。


「何がですか?」

「鳥肌が立ったから」

「……一応見に行きますか。凪担さん、体力作りです」

「は、はい!」


 火光の鳥肌は時に特級参上を報せてくれる。

 本人よりよっぽど役立つ肌だ。


 月火はすぐに着替えると凪担を連れて寮を出た。


 寮の前にチョコの入った紙袋が五、六個置いてあった気がするが気のせいだ。

 早く行かないと火音が苛立っている。



「火音先生」

「月火!」


 安心したように振り返った火音は月火を前に立たせると首に手を回し、頭に顔を乗せた。


 やはりこれが落ち着く。


 凪担はせっせと準備運動をすると皆に混じって走り始めた。


「どうしたんですか」

「任務でアレっぽいのとすれ違ったから」


 火音の脳内に浮かんだ人物像が伝わってきたので火音の腕をさする手を思わず握り締めた。

 ハッとしてすぐ離す。


「本当ですか? だって……愛知のはずでは……」

「本当に、なんでだろ」


 火音が小さく溜め息を吐いているとまた精神をえぐるものがやってきた。

 それも三人とも。


「火音様!」

「火音先生」

「火神火音!」


 神崎、氷麗、波南(はなみ)。暒夏がいないだけマシか。


 五月蝿い。

 本当に迷惑だ。二度と来ないでほしい。


 月火に腕をさすられ、意識を月火に集中させるが無理やり引き剥がされた。


「離れなさいよ!?」

「触らないでもらえます?」

「火神火音! 俺と勝負しろ」

「ウッザい……」


 今日は火光とともに絶不調の日なのだ。

 放っておいてほしいのに何故今日に限ってこんなに来るのか。


 意味が分からない。

 火音は神崎から少々乱暴に月火を取り返すと神崎を睨んだ。


「触んな」

「え……」

「落ち着いて下さい。大丈夫ですから」


 月火は腰に回された火音の手をさすると火音を見上げた。

 今日はメンタルが豆腐以下の日だ。


「今日は休みましょう。部活は自主練でいいでしょう」

「帰る」

「はい」


 月火は火音の背をさすりながら追いかけようとしてくる三人を睨み、黒葉を出して邪魔させた。



 寮前に着いた月火は火音と手を繋ぐ。


「こういう日は絶対に言ってください。無理しないで」

「……うん」

「次黙ったら口をききませんからね」

「えっ……」


 それぐらい本気で心配なのだ。


 月火は火音の頬を両手で包むとニコリと笑った。


「今日は休んで下さいね」

「うん」


 火音が寮に入ったのを確認すると鍵を閉めてまた校庭に降りた。



 校庭に降りると案の定三人が駆け寄ってくる。


「ねぇ! 火音様にベタベタしないでってば!」

「お前だけのもんじゃねぇだろ!?」

「なんで仕事中に帰らすんだよ!?」


 月火はポケットに手を入れると叫んでくる三人を睨み上げた。


「五月蝿い。いい加減理解しろ。お前らのせいでストレスかかって悪化してんだよ。気安く話しかけんな」


 火光の鳥肌は収まっただろうか。


 月火が歩きながら連絡するとまだだと返信が来た。

 もしかしたら来るのかもしれない。




 その日の翌日、夜中に月火に散々甘えてメンタルを回復させ、絶好調の火音が月火とともに凪担に指導をしていると火光と水月がやってきた。


「どうしたんですか」

「様子見」

「……暇でしょう。二人にも教えます」


 水月と火光は顔を見合わせるとすぐに凪担の隣に立った。


 月火が刃物の性質を説明し、その性質から攻撃の方法や役立ち場面を教えているといきなり炎夏が降ってきた。


 凪担は肩を震わせ水月の後ろに隠れ、月火は少し火音の方に寄る。


「な、何してるんですか……」

「鬼ごっこ。中等部に巻き込まれた」

「人気者ですね」


 月火が少し落ち着くと炎夏は水月の後ろから顔を覗かせている凪担に目をつけた。


「玄智が言ってた転校生? えーっと……凪担だっけ」

「あ、はい……」

「……根暗」


 炎夏はそう言うと火光に捕まる前に逃げ始めた。


「内申点落とすからな〜!?」

「根暗……」

「酷いですね。どうでもいいので説明続けますよ」

「お前もまぁまぁだぞ」


 凪担は少し凹みながらまた説明を聞き始めた。


 説明が終わり、実践だと言って月火の元を離れた瞬間、怪異が出てきた。


 校庭にいた生徒が悲鳴を上げ、怪異が近くにいたバトン部の生徒に襲いかかろうとするとまた息苦しくなるほどの圧がかかって怪異が小さくなる。


 月火の方を見ると黒葉を傍に出し、怪異を睨んでいた。

 人のものとは思えないほど禍々しく、重い圧だ。


 怪異は謝りながらまた消えた。


 同時に月火の圧も消える。


「ご……ごめんなさい……」

「大丈夫ですよ〜。被害はありませんから」


 月火はにこりと笑うと警戒している黒葉の背を撫でた。


「彼の怪異について分かりますか」

「間違いなく元は人間だろうな」

『相当強い想いが篭ってるわ。過去の話が原因かもしれないわね』


 自然発生した怪異と、人や生き物から生まれた怪異では強さや妖力の質が雲泥の差だ。

 妖心の黒葉はそれが分かるらしい。

 妖力の色と形だ。


「祓うとしたら厄介だぞ」

「自ら成仏させるのって出来ますっけ」

「さぁ……」

『ごく稀よ。そもそも成仏出来ないから怪異になって取り憑いてるわけであって……』


 その未練がなくなれば成仏出来るがそれならとうに成仏出来ているだろう。

 ここまで悩む必要はない。


 二人と黒葉が悩んでいると凪担が手を振り上げ、月火を呼ぶ。


「月火さん! 武器の使い方教えて下さい……!」

「はいはーい」


 月火は黒葉を消すと地面に突いていた棒を掴む。


 月火が凪担の方に行こうと足を踏み出した瞬間。消えていた黒葉が現れ、怯えていた特級怪異も牙を向いた。

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