月火のいない日
短編です。
「元の人数に戻ったねぇ。月火が結月になったけど」
「なんかごめんなさい」
「いやいや。仲間が増えたんだから」
月火は昨日、卒業しない班の人たちと共に韓国へと飛び立ち、時空はイギリスに帰った。と言うが強制送還された。
元々期限付きの登校だったので別に驚かないしむしろラッキーぐらいだ。
月曜日の朝、炎夏はだるそうな顔をしている。
「火音先生ってどうするの?」
「絶食って言うのかな。月火が帰ってくるまで冷凍の栄養バーとサプリだけだって。もちろん手作り」
三人は半目になり、羨ましそうに天井を眺める火光を注目する。
十二月も始まったばかりで冷え込んできたが、何故インナーに半袖なのだろうか。
月火がいないので寮は火音だけらしいが、まさか家事ができないわけでもあるまい。
「なんで半袖なの……?」
「職員室に長袖置いてたら水月に取られた」
「仲良いね」
「まーね。仲良くても勝手に取るなや」
放課後、火音がウィンドブレーカーを着ながら部活のため校庭に降りると神崎が飛び付いてきた。
神崎は大丈夫だ。気持ち悪いが。
「火音様! 月火がいなくなったんですね! ご飯はどうするんですか? 作りに行きましょうか!?」
「離れろ気持ち悪い」
火音は神崎を振り払うとポケットに手を入れて部員を集めた。
第一に氷麗が駆け寄ってくるがなるべく避けて近付かない。
色々と試してみたが、何が危険なのか結局のところ分からなかったのでとりあえず避けるしかない。
月火が高等部を卒業するまでは教師でいる気なのでここで逃げては駄目だ。
死ぬ気で耐えるしかない。
火音がのらりくらりと避けていると氷麗と神崎が同時に飛び付いてきた。
もう終わりの挨拶もして帰る途中だったと言うのに。
「火音先生、私がご飯作りに行きます!」
「火音様! 私の方が歴が上です」
「火音〜、仕事残ってるけど」
「今日は残業か」
火光が助けてくれたので二人から腕を抜いてそちらに駆け寄った。
「……なんで半袖」
「玄智にも聞かれた。水月に取られたんだよ」
「仲良いな」
「同じことしか言わないし」
職員室に帰った火音がバーを食べながら仕事をしていると水月が顔を出した。
「火光〜……」
「やぁ泥棒君」
「ごめんて」
よく他人が脱いだばかりのジャージを着れる。
火音なら絶対無理だ。
妖力どうこうの話ではなく、他人の生温かい体温が移ったものはあまり触りたくはない。
抵抗がある。
「……どったの」
「別に」
頬を突いてくる火光の手を叩き落とすと仕事を確認してパソコンを閉じる。
「早くない?」
「サボってないからな」
「僕もサボってないんだけど」
水月は火光の仕事を後ろから覗き込み、まだ勤務時間中の火音は適当に火光や晦を手伝う。
「氷麗ってあんな積極的だっけ」
「月火がいなくなったからでしょ。帰ってきたら顔面変形してるんじゃない? 元々あんまり良くないけど」
「本人いるぞ」
「事実だよ。ねぇ火光」
「僕に振らないで」
神々は兄妹揃って毒舌だ。
特に水月は会社の交流や罪人の捕縛なども任されているので毒舌で罵倒や嘲笑の言葉をよく知っている。
本人は月火から学んだと言っているがそうは思わない。
月火の方が水月から学んだのだろう。
もしかしたら父親の罵詈雑言を聞いていたせいかもしれない。
話数にはカウントされません。