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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
9/201

9 初日

「初めまして、結月ゆづき麻智まちです」


 結月の転校初日、月火げっかは徹夜明けで眠り、炎夏えんか玄智げんちは興味深そうな目を結月に向ける。

 火光かこうはそんな二人を見て微笑ましそうにしている。


 結月は教室の端、月火の隣で尻尾を振る白九尾が気になるようだ。当たり前か。


「席は玄智の隣でいっか。クラスメイトが少ないと寂しいね」

「あ、新顔ちゃんがいる」


 通りかかった水月すいげつは足を止めると窓から中を覗いた。

 寝ている月火の頭に手を伸ばすと九尾に怒られたのでおとなしく引っ込める。


「神々(みわ)水月だよ、よろしくね」

「よく来るから覚えといたほうがいいよ。授業にも出てくるし」

「教師なんですか?」

「違いますよ」


 眠っていた月火は顔を上げると大きくあくびをした。

 水月が楽しそうな顔でスマホを構えるので九尾で遮る。


「内容に出てくるんです。私の兄なので現代当主の補佐として」

「お兄さん!?」

「そっちもですよ」

「なんか雑くない?」


 拗ねる火光と九尾でほとんど見えない水月を交互に見ていると火光と瓜二つの火音ひおとがやってきた。

 本当に見分けが付かないが少しだけ身長が低いのと声が低かった。


「火光、四時間目の数学代われ」

「任務? さっき行ってたじゃん」

「新しいの入った。あと夜と明け方に」

「働くなぁ!?」


 一度にまとめて行ければいいのだが日の傾きや人通りの関係でこの時間にしか行けないのだ。


「夕食どうします?」

「食べてから出る。朝はいらない」

「帰ってきてから弁当取りに来りに来てくださいね」

「じゃ、四時間目頼んだ」

「あちょっと!……もう、プリント作ろうと思ってたのに」


 そんな会話で朝礼は終わり、結月は火光や火音の説明を受けた。


「み、皆さんいいところの出なんですね……」


 結月がそう呟くと玄智は炎夏に勉強を教える月火を見た。


「いいところって言っても月火がいないと成り立たないけどね」

「私も水月兄さんに頼り切りですからね」

「僕は火光に支えてもらってるからなぁ」

「僕も火音にやってもらうことが多いよ?」


 火音は他人に頼ることがないので結論、火音と火音に指示するつごもりが凄いということになった。


 その日の昼食時、他クラスに用事に行っていた玄智が走って帰ってきた。


「二人とも! 順位出た!」

「マジ!?」

「見に行きましょ!」


 三人が勢いよく教室を出ていくと結月は呆然とした。

 火光を見上げれば平然とパンを咥えて採点している。


「前のテストの順位が貼り出されたんだよ。見に行く?」

「あ、はい!」


 二人が中等部と高等部の間の渡り廊下に行くとすでに受験の合否発表かと言うほど人が集まっていた。


 その中で月火と暒夏せいかが手を振り上げているのが見える。


 月火は高等部、暒夏は大学部のトップで今回の妖輩コースの一位は月火だった。

 珍しく暒夏が三位で初等部の四年生が二位に食い込んでいる。


 暒夏が三位など初めてではないだろうか。

 いつも月火と一争いをしていたというのに。


「お二人さんおめでとう」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます。妖輩はせめて二位になりたかった……! 回答欄がずれてて直しきれなかったんですよね」

「ケアレスミスだな」


 炎夏が暒夏を見下ろすと暒夏は炎夏の両頬をつまんだ。


「いひゃい……」

「真面目に勉強しろって」

「ひへほへなふはほ!」

「何?」


 炎夏に頭を殴られた暒夏は月火の後ろに隠れる。

 この兄弟は頭のよく運動そこそこの兄と頭そこそこで運動神経抜群の弟なのでいつもお互いの得意分野で勝負している。

 仲のいいことだ。


 火光の兄弟と言えば頭脳明晰、運動神経抜群、眉目秀麗の火音、水月、月火しかいないので凡人の火光では勝負にならない。

 そもそも勝負を持ち掛けた時点で白旗を上げられるのでまともに戦ったことはない。


「にしてもこれ、全部の一位かっさらってた火音様ってどんだけ化け物なの?」


 暒夏の言葉に皆が深々と頷いていると月火のおにぎりをほおばっている火音が顔を出した。

 頬とこめかみに傷があるので帰ってきたのだろう。


 周囲の視線が表よりこちらに移るのが嫌と言うほど分かる。


「こっち来ないでよ」

「なんでだよ」

「自分の顔をどうにかして」


 火光が避けていると火音が不可解そうに皆を見下ろした。

 皆から半目で見られるのでさらに謎が深くなる。


 すると何故か晦も出てきた。


「火光先生を美男だと思うでしょう」

「うん」

「二卵性の双子より似ている自分を周りがどう思うか分かりましたね?」

「あぁ、うん。分かりたくなかった」


 火音はおにぎりを頬張ると月火を見下ろした。


「お前よりマシか」

「はぁ?」


 月火が睨むと火音はその奥にいる初めて見る女子に目を向けた。

 今朝もいた気がするが火光しか見ていなかったので気付かなかった。


「誰、あれ」

「転校生です。前に言っていたでしょう」

「あぁ、妖輩で部活入るやつ。物好きもいるもんだな」

「失礼にもほどがある」


 月火に睨まれた火音は肩を竦めるとおにぎりを包んでいたラップを捨てた。

 ふと暒夏を見下ろす。


「出来たらしいな」

「月火ちゃんのおかげで」

「恨まれるぞ~」

「何しに来たんですか本当に!」


 あの火音が、しかも晦を連れてただの雑談をしに来るはずがない。


 からかうような笑みを向けてくる火音に突っ込むとどこからか一枚のプリントを渡された。


 内容を見て怪訝な顔をする。


「何ですかこれ」

「特級への推薦昇格証」

「いりません。売り飛ばしますよ」

「金欠か?」


 何があっても特級には上がらないと決めているのだ。


 級の中では一級が最も鬼畜と言われている。

 火音がいい例だが任務の割に給料が安い。

 二級の二倍の量と質でほぼ同じ金額など誰が望むか。

 だが神々兄妹には都合がいい。


 神々社の売り上げは全額神々当主の貯金行き、月火グループの売り上げも全て水月が管理している。

 そのため三人が自由にできる金は自分が任務で稼いだお金だけ。


 妖輩を引退した両親を賄っているのは三人というわけだ。


 安月給の月火と水月が渡せるお金はそう多くはないし父は血の繋がらない火光を嫌っており、火光からは何があっても受け取らないので特級の火光は母にだけ渡している。


 つまり三人の嫌いな父親にだけ苦労がかかるということだ。

 母と娘の権力に縋って神々の血を引かない男が威張り散らしているのは気分が悪い。

 火光に関しては母の祖母と火音の曽祖父が双子なので多少の繋がりはある。なので本人は父と血の繋がりがなくてよかったと笑っていた。


 月火が断固として断っていると火光が紙を覗き込んだ。


「……いいじゃん、受けたら? 内緒にしておけばいいわけだし。母さんも許してくれるでしょ」

「噂になりますよ?」

「あの人の情報は三年くらい遅れてるよ」


 これは事実だ。

 去年の正月に帰ったら大学を辞めて働けと言われた。当然、高卒の歳で働いていたので流石に笑いが堪えきれず月火が出かけている間に水月と二人で笑い転げていた。

 母の稜稀いづきも顔を逸らしていた。


「もう少し鍛えてからやります」

「それ以上強くなってどうするの……」


 晦と火光で呆れていると月火のスマホに電話がかかってきた。普段は通知音を消しているのだが緊急時しか電話してこない水月と稜稀の通知だけオンにしている。


 月火はあの中から抜けると電話に出る。


「もしもし」

『月火!? ごめん、今休み時間だよね? 火光にかけたんだけど繋がらなくて……』


 珍しく気が動転している水月を落ち着かせる。


「大丈夫ですよ。先生も側にいます。何かありましたか?」

『母さんが倒れたって……!』

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