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妖神学園  作者: 織優幸灔
二年生
76/201

二十六 赤城の情報網

「月火」


 第一回文化体育祭会議が終わったその日の夜、火音に呼ばれた月火は振り返った。



 もう夕食も風呂も済ませて後は寝るだけと言う状態だ。


 水月は娘天(こてん)に仕事だと連れて行かれ、火光は晦に残業だと連れて行かれた。


「なんですか?」

「こっち来て」


 火音に呼ばれ、月火がソファの方に行くと火音が月火を膝に座らせた。

 いつも通り肩に顔が来たので頭を撫でる。


「会議室で寝てる時、夢見てた?」

「いえ……」

「誰のこと考えてた」

「……寝てる途中で見た人ですかね」


 月火が説明すると火音は少し羨ましそうな顔で月火を見た。

 羨ましそうと言うか、気持ち的には嫉妬の面が大きいのだろうか。



「なんか嫌」

「火光兄さんもそうですけど火音さんもメンヘラと言うかヤンデレと言うか依存気質がありそうですね」

「……あるかも」


 火光は嫉妬はしないが常に愛されていないと不機嫌になる。火音の溺愛がなくなった時、その状態で常に不機嫌だった。



 火音もまた、月火が他の男の話を嬉々として話すとつまらなさそうな顔をする。

 月火自身、兄以外との男と深く関わることがないので軟禁やらそんなことにはなっていないが火音が知らない人の話をする時は要注意。



 寮内で軟禁は嫌だ。


「あんな感情滅多にないから」

「火音さんといる時はありますよ」

「ならいいけど……」


 月火が頭を撫でると腰に回さていた強ばっていたらしい腕の力が少し抜けた。

 手を重ね、薄く微笑めば安心したように笑った。


「顔面凶器ですねぇ」

「月火も」

「自分では気付かないものですよ」





 数日後、月火が教室で話しているといつも通り水月がやってきた。

 いつもと違うのは補佐が二人ということだろうか。

 今は授業中なので無視しておく。


 妙に弟君が見てくる気がするが無視しておこう。


「じゃあ問六やって終わり」


 火音の声と同時に月火はノートを提出し、サインもないまま返してもらう。


 説明途中である程度終わっているので確認だけで提出できる状態だ。

 確認だけなら指示の間だけで終わる。



 今日の座学は一時間目だけなので筆箱を片付ける。

 髪をまとめて時間を潰していると時空(ときあ)も提出した。


「……妖輩系は出来るんだよなぁ」

「家庭科もできるよ」

「家庭科ないだろ」


 あるのは数、国、理、英、物理、生物、地理、歴史、古文、妖学、妖歴だ。

 妖学に関しては常識しかやらないのでつまらない。



「挨拶して終わるか」


 チャイムと同時に月火の号令で授業は終わる。

 今日は一時間の座学だけなので全員ジャージ姿だ。


「兄さん、何の用ですか」

「麗蘭から呼び出し。麗凪(りな)麗湖(りこ)もいるよ」

「……心当たりがないのですが」


 麗凪は上層部と神々を繋ぐ水月の直属の部下で、麗湖は上層部をまとめる麗凪から部を任されている部下にあたる。


 ややこしいが短く言えば上層部長と人事部長だ。



「結月、少し遅れるかもしれません」

「伝えとくよ〜。頑張ってね」



 四人が園長室に行くと中には水月が言った通りの三人がいた。


「お久しぶりです月火さん、水月さん」

「お久しぶりです」


 麗凪と麗湖はこうして頭を下げてくれるのに三女は何故こうも堂々としているのか。


「よく来た月火、水月」

「なんですか」

「実は相談があってな」



 近々、妖輩一人に補佐官一人と情報係二人、条件次第で医療係も一人つけてグループ分けする予定らしい。


 それを初めは学園の高等部以上の妖輩コース生で試す事にしたらしい。


「で、月火には年齢とかなんやらをまとめてグループ分けを頼みたいのだ。資料はここにある!」



 麗蘭が力強く手を乗せたそれは、三十センチ以上積み重なる紙の束で、麗蘭の素晴らしいほど雑で適当な管理の(もと)、全コース生の資料が全てまとまっているそうだ。


 月火と水月は顔を引きつらせ、娘天(こてん)兄弟は半目になる。



「……パソコン内のデータはないんですか」

「壊れた時に全部飛んだ! もう無理だ!」


 涙目で笑う麗蘭を見ていると段々哀れに見えてきた。

 いくら千歳を超えているとはいえその見た目は十歳ほどの女の子だ。

 同情はする。同情だけは。



 どうやら飛んだことを報告した時、一人の教師から飛ばすぐらいならデータと紙の両方で管理しろと言われたらしい。

 復元が出来なかったので情報部の数人に頼んでデータ化してもらっているがまだまだかかるようだ。


「仕方ありません……。兄さん、ファイル」

「はい」


 月火は十センチほどは挟めるファイルを四つ貰うとそれに無理のない程度に挟んだ。

 重い。


「はぁ……。来月までかかりますよ」

「半月で出来るんですか!?」

「この量なのに!」


 麗凪と麗湖は驚いたが麗蘭は当たり前だとでも言うように首を傾げた。


「この程度なら出来るだろ?」

「麗蘭……貴方頭も良かったのね」



 確かにそうだ。

 園長を誰にするか迷った時、一番面倒臭そうにしていたが一番頭も運動神経も良かった麗蘭に任せた。


 麗凪は人をまとめるカリスマ性が、麗莉(りり)は人を癒す包容力が、麗蘭は逃げ出さない責任感が、麗咲(りさ)は一度始めたら止まらない集中力が、麗湖は臆病ながらも判断を間違えない決断力があるので今の役職に就かせた。


 年を重ねて麗蘭はさらに頭を良くしたのか。


「ただの頑固者ですよ。それじゃあ失礼します」

「誰が頑固者だ問題児!」

「経費削るぞ?」


 月火は麗蘭を脅すと呆気を取られる麗凪と麗湖ににこりと笑って園長室を出た。



 娘天兄弟が水月とともに寮に運んでおいてくれるそうなのでお言葉に甘えて任せた。



 急いで体育館に向かう。

 月火が靴を履き替えて中に入った途端、ダンっという大きな音が聞こえた。


 月火がそちらを見ると澪菜(みおな)が跳び箱に敷かれている。


「うぅ〜……」

「澪菜ちゃん!?」

「澪菜!?」


 玄智と結月が駆け寄り、何故かいる火音もそちらに向かう。


「またか」

「跳び箱が動くんだもん!」

「跳び箱が動くんじゃなくて跳び箱を動かしてんだよ」



 何せ毎回下敷きになるのでもう慣れた。


 手を突く位置が器用すぎて跳び箱が浮いてひっくり返るのだ。

 跳び箱を退けてもらった澪菜は半泣きで跳び箱を睨んだ。


「生きてるよこれ」

「生きてたら世界が注目するぞ」


 玄智は澪菜の頭を撫でようとしたが澪菜は結月の方に逃げた。



 内心思春期だなと思いながらおとなしく手を下ろす。


「あ、月火ちゃん! この前のケーキありがとう!」

「こんにちは澪菜さん。美味しかったですか?」

「凄く美味しかった! また作って!」


 澪菜は月火に抱きつき、月火は澪菜の頭を撫でる。



 先日、フルーツとナッツ入りのパウンドケーキを作ってあげたのだ。

 今度はチョコチップも入れようか。


「あの跳び箱生きてるんだよ。本当に」

「え、怪異?」


 わけの分かっていない月火が首を傾げていると火光に呼ばれた。


 澪菜に手を振って玄智と結月とともに火光の元に行く。


「話って何だったの?」

「まだ企業秘密です」

「えぇ〜」


 いつか赤城(あかぎ)妹が火音にペラペラと話していた気がする。

 あれから何も動いていなかったので単なる噂かと思ったが今になって動き出すとは。


 行動が遅れたのか、赤城の情報が早すぎるのか。

 火音を担当するぐらいなのだから相当の腕の持ち主なのだろうか。



 今度会えたら聞いてみよう。


 月火が平均台を使って落ちないようにバク転や片手側転をやっていると体育館の扉が開いた。

 高等部の一年が晦とともに入ってくる。


「こんにちは火音先生。火光先生も」

「被ってたっけ」

「三時間目から被ってたろ」


 氷麗(つらら)は居心地の悪そうな、苛立たしそうな顔をして晦の指示通りに動いている。

 どうやら停学期間で反省したようだ。



 月火が氷麗を見ながらロンダードをやろうとした時、見事に足を踏み外して顔面から落ちた。

 マットがなかったので思わず受け身を取って顔は無事だが指が摩擦で痛い。



 体育で事故は付き物だよなと思いながら顔を上げると真上に氷麗がいた。


「……何か……?」

「その顔嫌い」


 いきなり顔を蹴られ、皆がギョッとする。

 どうやら反省はしていなかったらしい。



 月火は足を退けると立ち上がって氷麗の肩に手を置いた。

 振り払われる前に膝で腹を蹴り上げる。


「顔洗ってきまーす」



 氷麗は腹を抱え、月火はトイレに入っていく。


 みぞおちと肋に直撃したのでかなり痛いし吐きそうだ。


「氷麗さん!? 大丈夫!?」

「なんで……」

「そりゃ月火さんだもの! やり返されるのは仕方ないわよ……」


 氷麗は立ち上がるとトイレから出てきて火音に心配されている月火を睨んだ。

 婚約したぐらいでなんだ。

 結婚しているわけではないならまだやりようはある。


 火音は完璧を求める。

 月火に欠点があれば興味をなくすはずだ。


 氷麗は振り向いてもらえるとは思っていない。

 ただ、一生誰のものにもならず高嶺の花でいてほしいだけ。

 飽きっぽい氷麗が唯一夢中になれたのだからそれを奪わないでほしいだけだ。



「……男慣れしてないんですかね」

「うーん、確かに友達はいるでしょうけど彼氏とかは聞いたことないわね……。どうして?」

「別に」


 氷麗はこの性格なので男友達など腐るほどいる。

 どうせ顔でちやほやされているだけなのだからその顔を傷物にしてしまえば孤立するはず。


 見た目が傷だらけになればきっと火音も嫌がるだろう。

 月火の火音通いもなくなる。


 そうと決まれば善は急げだ。



「先生、気持ち悪いので保健室に行ってきます」

「一人で大丈夫?」

「はい」


 月火は氷麗が出ていくのを見て微かに眉を動かした。

 変なことを企んでいなければいいが。


「愛される人も辛いですね」

「自分のこと?」

「あなたの事です」





 その日の放課後、月火が一人で歩いているといきなり後ろから殴られた。


「いっ……!?」


 そのまま腹の横に打撃が入り、壁に寄りかかる。

 誰かと思って見ようとした瞬間、顔を殴られて意識を失った。





「火音〜、月火知らない?」

「知らん」

「おかしいな……」


 件の仕事をさっさと片付けるため、すぐに寮に帰ってくると連絡が来てから一時間近くが経つ。

 火音も知らないとなると火光に聞くしかないか。



 水月が心配していると火光がやってきた。


「水月、どうしたの?」

「火光! 月火がどっか行っちゃって……連絡が付かないんだよね」

「火音、なんか分かんないの?」

「……不味いことになった」


 火音は立ち上がるとジャージのポケットに手を入れて少し小走りで走り出した。


 黒葉が怒り狂っている。

 また殺戮現場にならないといいが。



「火音! どうしたの!?」

「月火が危険ってことしか分からない。ただ気絶してる可能性が高い」


 何も思考が伝わってこない。

 あの思考の渦の中心に立つ月火が何も考えていない時は寝ている時か放心状態の時だ。


 黒葉が激昂しているということは気絶しているのだろう。


 三人が月火を探し回っていると綾奈と出会した。



「見付けた。早く来い。大事にはならなかったから」

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