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妖神学園  作者: 織優幸灔
二年生
74/201

二十四 久しぶりの任務

「お久しぶりです」


 深々と頭を下げる夢和(ゆめな)を見て火光は顔をしかめた。

 階段から落ちて全身包帯の水月に頬をつねられ、無表情に戻る。



 役目の終わった月火が帰ろうとすると水月に掴まれた。

 どうやら帰らせてもらえないらしい。


「今さら何しに来たのさ」

「一言謝りたくて……」

「もういいから早く帰って?」


 火光が追い払う仕草をすると夢和は微かに目を細めた。



 夢和が頭を下げると火光はばつの悪そうな顔をして顔を逸らした。

 月火と火音は興味がないのでそっぽ向いている。


 火音は今日は髪を編んでいない。

 たぶん明日から頼まれる。


「……あぁそう言えば共鳴したらしいですね」

「あ、はい。妹と……」

「良かったじゃん火光」

「水月こっち向いて」



 首を傾げながら火光の方を見た水月はちぎれそうなほど頬を引っ張られたので火音の後ろに逃げた。


「ちょっと!」

「泣き顔の方がモテるんじゃない」

「嫌なんだけど」


 月火は職員室で騒ぐ兄達の足を両方踏み付けて黙らせると夢和の顔を覗いた。


 確か妹は月火と同い歳だったはずだ。

 夢和は深い綺麗な青の目で妹は蜜より濃い黄色だっただろうか。

 親しいというわけではなかったので挨拶をしたことある程度だったがとても誠実な姉妹だった気がする。



 共鳴は白眼でなくとも出現するようだ。

 今回は性別も同じで血も繋がっている。


 雷神が強い絆が必要だと言っていたので仲がいいのだろう。

 電話中に共鳴していたということは常に共鳴状態にあるのか、月火達よりも共鳴の頻度が多いのか。



 妹の目はまだ黄色なのだろうか。月火は一度真紫に染まっているがすぐに戻ったし紫月は相手が亡くなった時に戻ったらしいので目の色がどう関係しているのか分からない。


 そもそもどちらがどちらに染められるという定義はあるのだろうか。

 妖力の場合なら月火達が合わないし歳の場合なら紫月達が合わない。


 妹なら性別も関係なさそうだ。


 何か、また想いやらなんやらだろうか。




 月火が思考に浸っていると火光に引き剥がされた。


「月火、何考えてるの」

「色々と」


 月火は共鳴のためにも仲直りしたいと思ったがすぐに否定した。

 自分のために他人を利用するのは駄目だ。

 ただでさえ火光が嫌がっているのに月火が近付いていくわけにはいかない。



「……もういいよ。今日は帰って」

「後日連絡するそうです」

「高性能翻訳だね」


 夢和は少し肩を下ろすとお辞儀をして職員室を出て行った。




「そう言えば月火、火音。婚約したらしいな」


 気が抜けた麗蘭が二人を見上げると二人は頷いた。

 しかし水月と火光の視線が怖いのでそれ以上は何も言わない。


「……先に失礼する」

「そうして。僕も寮に戻っとくよ」


 麗蘭と水月は先に職員室を出て行ったので三人も職員室を出て後ろに移動した。

 どうやら二人も仕事が終わったので寮に戻るようだ。


「お疲れ様でーす」

「あ、火光先生!? 資料は!?」


 火光は晦の声を無視すると颯爽と消えた。

 月火と火音は半目で逃げて行く火光を見送る。


「……晦先生と火光先生がくっ付いたらハッピーエンドなんじゃ……」

「まぁ遅かれ早かれ気付くだろ。火光の仕事してから戻る」

「頑張って下さいね」


 月火は火音に手を振り返すと階段を登った。



 その途中ですれ違った女子たちに舌打ちされ、小さく笑われた。

 これは火音ファンクラブに目の敵にされるななどと悟りを開きながら寮に帰った。





 その翌日、授業中に月火に電話が鳴った。

 晦に許可を貰って見るとやはり上層部からだ。


「はい。……分かりました。すぐに向かいます」

「任務ですか?」

「一級らしいです。ちょっと行ってきます」


 かなり久しぶりなので鈍っていないだろうか。

 月火は一瞬でジャージに着替えると学校前に停まっている車に乗った。


「あ、娘天(こてん)さん。弟さんも」

「月火様。特級妖輩は月火様だったんですね」

「兄さんは仕事です」


 しばらく走っていい加減都市部に入るという直前、月火はシードベルトを外した。



「そのまま走ってください」

「え!?」

「何を……!」


 月火は窓を開けて天井に手をかけると車の上に乗った。

 周囲の視線が痛いほど刺さるので黒葉を出して妖輩だと言うことをアピールしておく。



「黒葉、行きますよ」

『はい』


 月火は指を組むと妖力を集中させた。


『妖心術 狐鬼封縛(こんきふうばく)


 白葉が実体化したことで分かったことは妖心に注いでいた妖力は実体化と同時に戻ってくる。


 元々、月火は幼少期から二体を作っていたので妖力を二つに分けていた。が、今の黒葉は白葉の妖力をも引き継いでいるので月火が知る黒葉よりも遥かに強くなっているはずだ。


 十八個の青い狐火が辺りに浮かび、道路の上に向かって鎖を伸ばした。

 何重の輪になった鎖で縛られた瞬間、姿を消していた怪異が姿を現す。



 蜘蛛のような怪異がビルやマンションに巣を張り、新たに糸を伸ばしている。


 辺りから大きな悲鳴が上がり、各箇所で事故が起きた。

 また上層部に叱られる。



 月火は周囲を見ると眉を寄せた。


 月火社ゾーンのすぐ側だ。

 せめて自分の会社に被害は出したくない。



「娘天さん、兄への連絡をお願いします。もしもの時は避難させろ、と」

「分かりました」


 月火が娘天に声を掛けているとまた一角から悲鳴が上がった。


 見れば蜘蛛の糸が一般人を地面に張りつけている。

 これは厄介。



 動きは縛れたが口元を塞がないと無理なのだろうか。


「黒葉、出来ますね?」

『頑張ります』

「よろしい」


『妖心術 狐鬼封縛』


 十八個の狐火が周囲に浮かぶと蜘蛛の糸が出る口元を塞ぎ、一本の鎖が口元に引き寄せられていた糸を断ち切った。



 月火は車から飛び降りると落ちていく市民を抱き留めた。


「大丈夫ですか。もうすぐ医療係が到着するので少し待ってくださいね」

「は、はい……!」


 どうやら断ち切られた糸の先は祓われ消えるようだ。

 つまりあの蜘蛛を巣から引き剥がしたらいいということだろうか。


 ここで雷を使うと絶対に避雷針の方に行くので無難に蜘蛛の足を切り落とすか。


 ちなみに狐は雑食なので蜘蛛も食べる。


『妖心術 切時瞬刹(きじしゅんせつ)


 妖力が二本の鋭い刀へと変わり、交差して足を切り落とした。

 支えのなくなった蜘蛛は巣を破りながら地面に落ちる。


 どうやら実体化はしていないようだ。

 これなら一人でも大丈夫。


 蜘蛛の巣が消え、それと同時に足が瞬時に再生した。

 今は十時前。上手く行けば昼食に遅れずに済みそうだ。



 月火は髪をまとめると妖力を実体化して刀を作った。

 悠羽(ゆう)の水族館の時に見た刀が役に立つ。


 完全に実体化するのは神通力並に妖力が取られるので芯はあるが周りは雲のような感じだ。

 これなら妖力も最低限に、普通の刀並にはよく切れる。


『妖刀術 貮舞刀狐(にぶとうこん)


 飛び上がると蜘蛛の眉間に向かって刀を交差するように二度振り、蜘蛛を切り刻んだ。

 驚くほど刀身が伸び、顔に傷付けられたらいいな程度の気持ちだったのが一刀両断出来た。


 驚いて刀を見ると黒葉が寄ってくる。


『刀身が伸びたんじゃなくて妖力の覇気で切れたのよ』



 なんと便利な。

 紅揚秘刀太より便利なのではないだろうか。


 月火がもう終わったかと思い、刀を消した途端。

 蜘蛛の切れた胴体がくっ付いて背の色が黒から青に変わった。



「セアオゴケグモ……」

『あれは赤よ』


 狐でも食べれるのだろうか。

 毒ありなら食べさせたくない。



 月火がそんなことを考えていると蜘蛛が黒葉の鎖をちぎってこちらに毒のようなものを吐いてきた。

 月火は微かに目を見張ると軽く手を動かして妖力で防ぐ。



 何か吐いたことよりも先に黒葉の鎖をちぎったことに驚いている。

 黒葉より妖力が多いと月火の勝率がかなり下がる。

 いきなり不安になってきた。



 月火はまた刀を出すと真正面から突っ込んだ。


 避けた液体が道路に当たるとそこが蜘蛛の繭のようになる。

 蜘蛛で繭と言えば。



「黒葉! 古い繭から順に燃やしなさい」

『はい』


『妖心術 九火凍溶(きゅうびとうよう)


 九つの繭が燃え上がり、その炎が凍り、溶けた。

 ずいぶん芸術的な事を。


 月火は横目で一般人に被害が出ていないかを確認しながら向かってきた液体はなるべく切るようにした。



 液体と言うより、片栗粉と水を混ぜた掴めそうで掴めない不思議なやつに似ている。

 過去に友人が風船に入れて遊んでいたのを思い出した。


 なんと言う液体だっただろうか。確か


「ダイ……ダイ……ダ……ダイラタンシー流体! 思い出した……」



 ダイラタンシー流体は非ニュートン流体の一種で加える力によって固形か液体かが変わる液体だった。

 友達がハンバーグの空気抜きのように固形を作って手に乗せた瞬間溶けたので、気になって図書室の本を漁ったのを覚えている。



『妖刀術 流虎風楼(りゅうこふうろう)



 確か初等部で成長期が来る前に探しに行ったので高さが足りず、白葉の上に乗って取っていたのを水月に見付かってそのまま落ちて本棚で頭をぶつけ気絶した気がする。



 と言うか何故こうもこの思考に至ったのだろうか。

 これが全て火音に流れていると思うとなんだか嫌だ。



 この思考が漏れるのも流れの勢いなのでダイラタンシー流体のように考える方法を変えたら伝わらなくなるのだろうか。

 頭の隅っこで無意識に考えていることは伝わらないが思考の主とでも言うのか、こうして考えているものは筒抜けだ。


 何も思わず考える事が出来るなら思考がバレることもない。

 バレるとまずいことはないが夏祭りの時のようにお互いが知らない事を深く考えたら不快感が半端ないのでどうにかしたいのだ。



 たぶん方法が分かったら慣れなのでどうにかなるのだろうが何せ方法すら分からないので対処のしようがない。


 考えず思考に浸ることなど出来るのだろうか。最早人間の領域ではない。



『妖刀術 紅凪之舞妖(あかなぎのぶよう)


 地面を飛び上がって蜘蛛の心臓部を大きく切り付けると赤紫の心臓が見えた。

 重力に逆らわずそのまま落ちる。


『妖刀術 紅揚秘刀太』



 途端、妖力が勢いよく刀に吸われて心臓どころか貫通して地面まで切り付けた。

 下に生活パイプが通っていなくてよかった。



 心臓からほぼ水の血が噴き出し、蜘蛛は姿を消した、が。


『主様、繭が!』

「ですよねぇ……?」



 蜘蛛で繭と言えば子供だ。

 とある種の蜘蛛は子供を守るため天井や壁に白い繭を張る。


 今はそれが車やらビルやら道路に張られた状態だ。それも人並みサイズが。




 海外のファンタジー映画に人並みの大きな蜘蛛が大量に出てきて車で逃げるシーンがあった気がする。

 あれも人より大きな蜘蛛が親玉だったはずだ。



『妖心術 九火凍結(きゅうびとうけつ)


 月火が地面に手を突いて妖心術を使えば、逃げ遅れた人々に襲いかかっていた子蜘蛛が燃えて凍り、そのまま固まった。


 九火と言うより三十火ぐらいあるが気にしない。



「さてと、任務完了」


 月火は刀を消すと腕を大きく上に伸ばした。

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