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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
7/201

7 プール

「……やっぱり成長期に入ったみたいね」


 月火(げっか)は主治医である知衣(ちい)に話を聞きながら新しく渡された吸収具を触る。


 いつも通り、鉄のブレスレットにピンポン玉ほどの球体がついただけだ。

 何が変わっているのか分からない。


「成長期ってことはいつか終わるってことですよね」

「……成長期ならね」


 ただ、一時的に妖力が増えているだけならいいがそれがいつまで続くのか、本当に一時的なものなのかは分からない。


「もしかしたら……」

「分かりました。失礼します」


 月火は最後まで聞かず立ち上がると部屋を出て教室に向かう。


 今日は休み時間中に行かなければならなかったので授業を抜け出してきたのだ。


 教室に帰っている途中でチャイムがなってしまい、見つからないように走って帰ると既に教室は無人だった。


 この後は水泳三時間なので移動したようだ。


 月火は水着を持って吸収具を外しながらプールに向かう。


 突然出てきた九尾二体も慌ててついてきて何とか授業には間に合った。


「ギリギリだったね。検査どうだった?」

「一時的なものらしいです。いつか戻るって」

「そっか、良かった」


 月火は火光(かこう)に一部を隠した事実を伝え、スタート台に立った。


 普通では飛び込みは禁止されているのだが妖輩コースだけは中等部からは飛び込みの練習が始まる。


 人並み以上の運動神経と感覚を持った妖輩者はどんな状況下でも戦わなければならないので色々な練習をするのだ。


 大学部になれば斜め奥に見える飛び込み台から飛ぶらしい。

 飛び級三人組は中二、中三で飛んだらしいが。


 化け物を目標にしても挫折するだけなので今は言われたことをおとなしくやるだけだ。


「飛び込みからバタフライね。滑らないように気を付けて」

「ターンは?」

「体力ある?」

「ないな」


 休憩を挟むにしてもこのあと三時間、水泳をやり続けると考えたら体力の配分には気を付けなければならない。


 三人が泳いでいると入口の方が騒がしくなってきた。


 すると何故か大学部の四年が入ってくる。

 火光より一つ歳上の六人組だ。


「あれ、火光せんせーじゃん。授業中?」

「そうだけど」

「若いのに偉いね〜。えっと、二十一だっけ?」

「だから何?」


 そろそろ三人が上がるのでさっさと済ませたいが何の用だろうか。


 するといきなり殴られた。


 あまりにも突然のことなので反応が遅れた。


「え、何?」

「邪魔だから出てってくんない?」

「授業中なんですけど」

「だから? 教師なら歳上に楯突いてもいいわけ? 火神(ひがみ)の落ちこぼれはいつからそんなに偉くなったんだ〜?」


 明らかに煽ってきている四年は六人が嘲笑い、火光を見下す。


 別に気にするわけではないが何故ここにいるのだろうか。


「講義は?」

「んなもんサボったに決まってんだろ。毎日怪異の情報を繰り返し打ち込むだけって飽きるんだよな」

「へぇ。じゃあ帰ってゲームでもしといたら?」


 火光も譲る気はない。


 火光が薄く笑うと四年は煽り返してきた。

 煽らないと死ぬのだろうか。


「泳ぎたいからここにいるんだよ。そんな事も分からないのかな?」

「泳ぎたいならどうぞ〜。今すぐ退けって言うなら準備運動ぐらい済んでるんですよね。ほら」


 見兼ねた月火は四年の手を引っ張るとそのままプールに突き落とした。


 四年の残り五人が慌てる。


「ちょ、おい!」

「いきなり突き落とすとかどういう神経してんの!?」

「あ、ごめんなさーい。妖輩コースじゃないから突き落とされても対応出来ませんよねぇ! 私は妖輩コースなんでぇ、これくらい当たり前って言うかぁ」


 月火が煽り返すとプールから上がってきた四年が大きく手を振り上げた。


 あれほど隙があるなら月火も大丈夫だ。

 何より月火を殴った相手に壁際にいる九尾がただで済ますはずがない。


「このクソガキがッ……!」

「おっそーい」


 月火はしゃがんで手を避けた。


 そのついでに膝を横に押してまたプールに落としておく。

 慌てて覗き込んだ五人も火光と玄智(げんち)炎夏(えんか)で突き落としておいた。


 すると何かを思いついた玄智がプールに妖心を出した。


 玄智の妖心は人魚だ。

 童話の美女というわけではなく、茶目っ気たっぷりの玄智によく似た人魚だ。


「死なない程度に遊んであげて」

「はぁい!」


 人魚は愛らしい声で大きく返事をすると上がろうとする六人を水中に引き込んで遊び始めた。


 火光は口の中が切れていたことに気付くと手洗い場に血を吐いて口をすすいだ。


「さて、予定変更。外行こう」


 幸いにも今日は晴れの予報だ。

 雨でも三人だけなので体育館の隅か道場を使わせてもらえるだろう。


 それでも無理なら雨の中やるしかない。

 どんな状況にも慣れは必要だ。


 三人は着替えると軽く髪を乾かしてから外に出た。


 補佐コースの初等部がスーツ姿で受け身の練習をしているのでトラックから少しズレて走り出す。

 気分転換に火光も走るらしい。


 兄妹で競争している。


火音(ひおと)先生来なくて良かったな」

水月(すいげつ)さんも。あの六人が死んじゃう」

「学園で死人とかしゃれになんねぇし」


 玄智は走り終わったところで人魚を消すと、珍しく息切れして膝に手を突いているいる火光と月火を見下ろした。


「はしゃぎすぎ」

「二人とも負けず嫌いだもんな〜」

「あっつ……。疲れた……」

「ちょっと……休憩……」


 火光は黒九尾にもたれ掛かり、月火は水筒に口を付ける。


 しかし飲む前に窓越しに目が合った人物を睨んだ。

 睨み返されたのでおとなしく水を飲む。


 火光は初等部の教師に事情を説明しているのでその間、少し息を整えた。


「三人とも、初等部の子に受身を教えてほしいって」

「初等部の受け身って何してたっけ」

「高所から落ちた時の対処法かな」

「地面に叩き付けられた時の持ち直し方では?」


 色々と違うので教えてほしい受身を説明すると実践を見せてもらった。


 月火と炎夏の技術が高すぎて見本にならず、玄智と火光に叩かれたのはもう少し後の話。




 その日の夕食はラザニアを作った。


 取り分け式だと火音が食べられないので個人の皿に皆が食べる量だけ作る。


「なぁ火光」

「何?」

「お前のクラス、二時間目から水泳だったろ? なんで校庭で初等部と遊んでたんだ?」


 向かいのソファでスマホをいじっている火光は指を止めると隣で戯れている天狐と黒九尾を見た。

 水月は仕事でいない。


「可愛い〜」

「おい」

「プールの水が抜けてた」

「嘘つけ」


 その時、ちょうどラザニアが焼けた。


 月火が器を運びながら説明する。


「……で、玄智さんの人魚が遊んでいました」

「名前は?」

「知りませんけど情報コースの四年生でしたよ」

「連絡してみるか」


 どうやらやる気らしい。

 火光は半目で火音を睨む。


「過保護すぎない?」

「お前が月火にくっ付くのと同じ理由だ」

「あー……うーん……なんか嫌」

「はぁ!?」


 火光は逃げるように席につくと先に食べ始めた。

 火音も不服そうに食べ始める。


 月火も水を用意してから食べ始めた。




 翌日の放課後、月火に任務の連絡が来た。


 来週末から任務で学校に転校するらしい。

 (つごもり)と共同のようだ。


 行先は私立海依女学院(しりつうみよりじょがくいん)

 お嬢様が通うと言われるお嬢様高校だ。


 教師か生徒かは分からないが学院内に妖力反応があり、妖輩者がいる可能性があるので調査してこいとのこと。


 原因を突き止めるまで帰ってくるなと書かれている。

 そんな無茶な。


「先生、来週末から任務が入りました」

「はいはーい。からってことは長期だね。いつまで?」

「無期限です。終わるまで帰ってくるな、と」

「そんな無茶な」


 月火は深く溜め息を吐くとメールを開いたスマホを火光に見せて自分は肉じゃがを作り始めた。




 来週末、月火は晦とともに海依に向かう。


 月火は神々社の社長で晦は院長の妹と言う十分に立場のある役職なので書類偽装はなしでいいらしい。

 担任にだけ目的を伝えているので帰りたければ終わらせろと連絡が来た。


「初めまして、神々月火です」


 クラスに入り、月火が薄く微笑んで挨拶をすると教室から感嘆の息が漏れた。


 糸絹のような艶やかで傷みや絡まりを知らない漆黒の髪、髪とは対照的な白いまつ毛、まつげと同じ色の大きな瞳はくっきりとした二重と立体的な涙袋に縁どられ、花弁のようにきめ細やかな白い肌、人形のような理想の体付き。


 どんな鳥の歌も敵わないような愛らしい声は聞けばふわふわとした不思議な感覚になる。


「では神々さん、あちらの席に」


 用意された窓際の一番後ろに座ると教科書や筆箱を用意していつも通りの授業を始めた。


 聞くところによると明日、期末試験があるらしい。

 来週から妖神学園もテストなので一応勉強はしている。


 それでなくとも長居する気はなので成績などどうでもいい。

 九尾を消しているせいで体の負担も大きい。知衣からは一ヵ月以上はやめろと言われたのでどうにかして見つけなければならない。



 火神の血を引くかもしれないと言う妖輩を

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