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妖神学園  作者: 織優幸灔
二年生
64/201

十四 問題児の問題行動

 寝ている火音に月火から違和感が伝わり、月火より数秒早く起きた。



 瞬間、月火の悲鳴が寮に響き渡る。



「ななななんですか!? なんでいるの!? 意味不明なんですけど!?」


 月火はソファに飛び乗って火音に飛び付き、火音も思わず月火を守るように腕を回した。



 床で月火を抱くように寝ていた時空(ときあ)は起き上がると力なく笑う。


「可愛い寝顔だね」


 月火の中で何かが切れ、ソファに座ったまま時空の頭を蹴り飛ばした。


「気持ち悪い……」

「トラウマだな」

「うぅ……」



 火音が月火を慰めていると水月が呆れた目で見てきた。


「イチャつくなら他でやってくれる?」


 苛立たしそうにパソコンを膝に乗せ、肘掛に頬杖を突いている。




 昨日のうちに炎夏は帰り、向かいには玄智が眠たそうに欠伸をしている。


「兄さんの信用がなくなりました」

「……ごめんて。眠いんだよ」

「もういいです」



 月火が睨むと水月は眉尻を下げた。



 月火は眉を寄せると黒葉を出して時空の両腕と両足を噛ませた。

 すると狐火が現れ、鎖で縛られる。


「はぁ……黒葉、持ってきて下さい」

『はーい』


 月火は立ち上がると髪を整えながら口に時空を咥える黒葉を連れて寮を出て行った。



 少ししてまだ眠そうな澪菜と焦った顔をした結月が出てくる。


「どうしたの? 月火ちゃんが出て行ったみたいだけど……」


 火音に説明された結月は身を震わせ、澪菜に何もなかったか確認する。


 たぶん狙われたのは月火だけだろう。

 気持ち悪い野郎だ。



 昨日、水月が眠った後に炎夏が帰って見送った月火が鍵をかけていたはずだ。

 何故鍵を持っているのか。



 玄智と澪菜が同じソファで眠り始め、結月も床で眠り、水月も眠って火音が絵を描いていると月火が戻ってきた。



 呑気に寝ている水月を睨んで舌打ちする。


「最悪……」



 月火は朝食と昼食を作り始め、火音に言伝を残すとアトリエに篭った。




 その日の昼間、意気消沈する水月が検査入院から帰ってきた火光によって慰められる。


 火音と結月と澪菜は部活に行き、月火はアトリエから出てこない。


「それは水月が悪いよ。月火は怖い思いしたのに」

「分かってるよぅ……! このまま嫌われたらどうしよう……」

「自業自得としか言えないね」

「……火音に相談しようっと」


 水月が火音にメールをすると月火から一生話し掛けるなときた。

 火音からは月火の言う通りにしろと。


「死ぬかもしれない」

「葬式には行ってあげる」



 火光が水月の頭を撫でていると月火がアトリエから出てきた。


 玄智と火光に昼食は作ってあるとだけ伝えるとそのまま寮を出て行く。

 火音に暇なら手伝えと呼び出されたのだ。



「来ましたよ。夏休みまで人をこき使って」

「来たんだ」

「呼び出したでしょう」


 月火は火音に新しいタオルを渡した。

 頼まれてはいないがどうせ取られるだろうと思って持ってきたのだ。



 真夏に長袖は暑い。



「今度の大会に補欠として出てほしくて」

「いいですけど……いつですか?」

「明日」

「明日!?」



 あまりにも急すぎる。

 美術部といい陸上部といい月火への連絡が遅すぎないだろうか。

 いや美術部の時は全面的に玄智が悪いがそれでも部員の一人や二人、月火に連絡することは出来たはずだ。



「まぁ無理ならいいけど。一応候補はいるし」

「なら無理です。流石に急すぎます」

「言うと思った。辞退したのが今日の今朝だからな」


 それは仕方がない。が、急なものは急なので断らせてもらった。




 月火は火音に言われてまた大学生と四百メートルを走り、午後はリレーをすると言われた。

 一対三の三週。月火は一キロ二百メートル走れ、と。


「地獄ですよ」

「いっつも五週は余裕だろ」

「最近は六週までなら頑張れます」

「じゃあ大丈夫」



 火音は月火が朝から作った弁当を頬張りながら話す。



 明日、火音の水筒と箸が届く予定だ。

 箸は今まで割り箸だったのだが、誰も触れないなら大丈夫と言うことで箸も買うことになった。



「見られてんなぁ」



 火音が誰かとご飯を食べることは滅多にないので月火と隣で食べていると刺さるほど視線が集まる。


「お前は?」

「お腹空いてないんですよね」

「太れない原因」

「一食分抜かした方が吸収がよくなるらしいですよ」



 まぁそれでも太れないのが現状なのだが。



 今日は今朝から感情が荒ぶったので元気がない。


「水月との喧嘩が原因?」

「誰ですかそれ」

「ひっど」


 月火も火音も嫌いな人は徹底的に突き放すタイプなので記憶から抹消することなどしょっちゅうだ。

 抹消したとして素直に消えてくれる方が少ないのもまた事実。



「思春期だなぁ」

「高校生ですよ? て言うか思春期じゃなくても嫌いになります」


 あれだけの恐怖と嫌悪感で揉まれている中、イチャつくなら他でやれなどと言われては嫌いになるのは分からなくもない。



 火音もそうして決別してきた。

 が、今回は一方的なものなので殺伐とした火音の周りにはなかったものだ。

 少し羨ましく感じてしまう。




 火音がそんなことを考えていると校庭がざわめいた。


 昨日のパーティーの飾りは全て片付けられ、いつもの校庭より少し平らな校庭が広がっている。

 暇は昼休憩中の部活が多いのでほとんど誰もいない。


「あ、お客さん」

「最悪……!」


 火音は空になった弁当を月火に渡すと校庭に逃げて行った。


 校舎に逃げればいいものを馬鹿だと思えばネズミを追いかける猫をに引き連れて校舎に逃げ込んで行った。



 それから数十分してもう昼休みが終わるという頃、上から火音が降ってきた。


「危ないですね」

「二階からだったから大丈夫」



 下駄箱まで降りる時間がないかもしれないと思って中靴に履き替える時に外靴を持って行ったのだ。


 校庭は外靴、校舎は中靴、体育館は体育館シューズ(綺麗な外靴)、寮と屋内プールは裸足だ。



「はぁ疲れた」

「鈍ってたんでしょう」


 月火は火音から中靴を受け取ると火音の下駄箱に片付けに行った。

 火音が行くと逃げた意味がない。



 月火が人気者は大変だなと呑気な事を考えながら火音の所に戻ると、神崎(かんざき)に抱き着かれ、抱き着いた神崎は暒夏(せいか)と口喧嘩をし、火音は波南(はなみ)にからかわれていた。



 月火は既に集まっている部員に各自で柔軟をしたあとに練習しておくよう伝えると四人の元に行く。

 するといきなり三人に指をさされた。


「月火ちゃんを罵倒しないでくれる?」

「なんで火音様はこんな女を頼るの?」

「この女とはいつも話しているだろう」

「そんなことはどうでもいいので火音先生から離れてくれますか。その方は色々と複雑なんです」



 月火が火音の手を引くと月火の後ろに逃げた。


 三人は腕を組んで月火を見下ろす。


「月火ちゃんが甘やかすからサボり魔になっちゃったんだよ。もっと厳しくしてあげてもいいよ」

「あんたがいるせいで火音様は誰とも話せないの。束縛強すぎるんじゃない? どうせ不味いご飯を無理矢理食べさせてるんでしょ!」

「やっぱりそいつには触れるだろう! お前がプールに入れないのも人の飯を食えないのも好き嫌い、我儘だ!」



 この三人をまとめて呼ぶとすればお馬鹿組か、理解出来ない組か、ウザトリオか。



 月火は火音の背を撫でると生徒の前では取り繕えと言って送り出した。


「はぁ……。いつも火音先生を思っているお二人と暒夏さんがそんなに理解のない方だとは思いませんでした。案外心が冷たいんですね。それとも熱すぎて頭まで沸きましたか?」


 月火が三人を睨むと眉を釣り上げた。


「あんたが火音様に無理させてるの! 火音様に付きまとうから無理してるって分かんないの!?」

「なんで作ってもらった料理を吐くんだよ! 失礼にも程があるだろ!」

「そうやって月火ちゃんが甘やかすからダメ男になるんだよ! それじゃあいつになっても月火ちゃんに依存する!」


 神崎は月火が火音に付きまとっていると思っている。

 暒夏はその逆。

 波南に関しては単なる馬鹿。



 火音が心配でそれどころではない月火は綾奈に連絡した。

 すぐに行くと返信が来たのでそれまでの辛抱だ。

 月火も手を出す前にやめたい。



「ですから、病気なんですってば。火音先生が休んでいるのは怠けでも甘えでもありません。私が付きまとっているわけでも火音先生が依存しているわけでもありません。お二人は誤解しています。で、えぇと波南さんでしたっけ?」



 月火が真ん中にいる波南を見上げると波南は小さく頷いた。


「じゃあ聞きますけど。貴方はアレルギーやトラウマがあるものを口に詰め込まれておとなしく噛んで飲み込めますか? 火音先生のはその類、それ以上のものなんです」

「で、でも、人に作ってもらって悪い人なんて……」

「貴方一人の世界観で他人を否定しないで貰えます? それを言うなら私だって小麦は食べれるんですから貴方だって食べられますよね? アレルギーなんですから無理でしょう? それと同じです」

「でも……」



 これは永遠にループするやつではないだろうか。



 今の間に火音の元に行こうとする二人の首根っこを掴み、波南に永遠に説明し続ける。


 周囲から見れば奇っ怪なその光景に救世主となったのは綾奈だ。



「月火、これが馬鹿トリオか?」

「そうです」

「私のところで引き取って説明しよう。助かった」


 精神病患者は理解者が一人いるのといないのでは全く違う。

 長年隠していたせいで嘘つき呼ばわりするものが多いならそれはなおのこと。



 月火は綾奈に三人を引き渡すと火音の火音の元に行こうとした。途端、また後ろから抱き着かれた。



 頬に何かが触れる。

 何かは分かるが理解したくない。



 背中に悪寒が走ると火音が振り返って助けてくれた。



「時空、やめろ」

「怒った?」

「顔蹴るぞ」

「蹴ったら唇にするから」


 軽く唇を舐めて見せれば火音は顔をしかめ、月火は怯えたように火音の後ろに隠れた。



 可愛い。

 この可愛い子を自分のものに出来て火音の絶望の顔も見れるなら一石二鳥だ。



 時空は目を輝かせると姿を消してから月火の後ろに回った。


「遊ぼうよ」

「気持ち悪い!」


 すぐに火音の後ろに隠れてしまう。

 つまらない。

 もっとしゃがみ込んだり顔を真っ青にしたりしてその顔を見せてくれないだろうか。



 時空は顎に人差し指を当てると軽く首を傾げた。


「火音兄のことが好きなの?」

「貴方が嫌いなだけです」

「でも頼りにしてる?」

「頼りには……」



 理由が増えた。


 月火の泣き姿が見れてそれが自分のものになる。それに火音が絶望する。

 一石三鳥だ。



「今ね〜、日本語を勉強してるんだよ。話すのは大丈夫だけど書けないし読めないからさ。今度教えて?」

「嫌です」

「そう言わずにさ。火音兄……火音先生に迷惑かけたくないもん」

「話せるなら一人でも大丈夫です」


 ガードが硬い。



 時空は頬を膨らませると火音を見上げた。



「その子ちょうだい? 好きになっちゃった」

「無理。どうやって寮に入った?」

「なんかね〜、元々学園に通ってて月火のこと大好きな子がくれたんだよね。退学になったけどまだ好きなんだって!」


 月火のストーカーで退学になったのは月火が知る限り一人だけだ。


珀藍(はくあ)か……」

「たぶんその人! 月火のこと沢山教えてくれたよ」



 火音が顔をしかめるとどこからか麗蘭と晦が走ってきた。


 時空を連れて行く。




 その日、月火は火音に頼んで早めに抜けさせてもらった。

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