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妖神学園  作者: 織優幸灔
二年生
62/201

十二 パーティーの騒ぎ

 月火が火音から少し離れると火音の手が頬に伸びてきた。


 暒夏のせいで火音のお豆腐メンタルがやられ、月火が作り直したばかりだ。


「珍しく温かいですね。暑いですか?」

「ちょっと」

「リビングで冷房をつけましょう」


 月火は立ち上がると火音に手を伸ばして二人でリビングに戻った。


 エアコンを付けて加湿器を回し、月火が火音の隣に座ると火音は月火の膝にクッションを置いてそこに寝転がった。


 床に落ちている六号をギリギリ掴むと火音に持たせる。


「……このシリーズがあったら全種類そろえる」

「特注で作ってあげましょうか」

「いいの」

「社長ですからね」


 月火は嬉しそうにする火音の頭を撫で、水筒の相談をする。


「前の奴は開きにくかった」

「ワンプッシュがいいですよね」


 前は回すタイプだったので開きにくかったし何より閉めにくかった。

 一々斜めになるのだ。


「私も買い替えようかな……」

「色違い?」

「いいのがあったらそれが分かりやすいですね」


 月火は火音に色々な種類の水筒を見せる。


「……あ、これ」

「……私のですねぇ」


 月火社のコラボ商品だ。


 メイク用品がアニメとコラボしたのでその記念に、口紅を気にせず飲めるストロー水筒とブラシ各種、メイクポーチも出したのだ。

 火音が見付けたのはそれの水筒。


「……メイク落としてない」

「まだですよ」

「落としてきて」

「え? 分かりました……」


 月火は立ち上がると言われたままメイクを落とし、保湿をして火音の元に戻った。

 また膝クッション枕だ。


「やっぱりこの顔の方がいい」

「そうですか? メイクする意味ありませんね」


 元をさらに良くするためのメイクなのに素顔の方がいいと言われてしまってはやる意味がなくなってしまう。


 月火が頬を押さえていると火音が月火の頬に手を伸ばした。

 しかし何も言わずに下ろすと寝返りを打ち、クッションに顔を埋める。


 髪を編み込んでいる火音も貴重だったな、などと朧気な記憶を思い出しながら火音の髪を整えていると会場の方から大きな悲鳴が聞こえてきた。

 それと同時に膨大な妖力が消えては現れを繰り返す。


「……行く?」

「兄さん達がいますからねぇ……」


 あの二人がいるなら問題ない気はするがずっと転々としているのが気になる。


 それも実体化した怪異に近い妖力だ。


「動けますか」

「うん」


 火音は起き上がると軽く頭を振って髪を整えた。

 ジャージなのでこのままでいい。


 何かあっても飛び出せるように部屋着をジャージにしているのだ。


 二人が校庭に降りると中心の男の周りには妖輩コース生がほとんどやられ、補佐コース生がお客さんを守り、医療コース生と晦姉妹が倒れた生徒の手当をしていた。


「来てよかったな」

「本当に」


 刀は持ってきていないが問題はないだろう。


 月火が指を組み、腕を伸ばしていると火音が足を止めた。


「どうしましたか」


 やはり連れてくるべきではなかっただろうか。

 月火が不安になっていると火音は眉を寄せた。


「あいつ……」

「え?」


 月火が目を瞬くと男は振り返った瞬間、姿を消した。

 月火がハッとすると後ろから抱き着かれる。


「見付けた」


 甘く熱の篭った声が耳元で囁かれ、背中に悪寒が走った。

 強烈な吐き気で気分が悪くなる。


 月火が離れようとしていると火音が引き離してくれた。


「おい」

「久しぶり〜、火音兄(ひおとにい)

「何やってんだ」

「月火さんが高等部に上がったから戻ってきたんだよ。去年の夏ぐらいかなぁ? 最近までゲームにハマってた。日本のゲームって面白いね!」


 そこら辺の女子より可愛い顔でピースを額に当てる姿は玄智をさらに女々しくしたような感じだろうか。


 月火が混乱しながらも軽蔑した目を向けるので、とりあえず水月のところに向かう。


「晦、水月は」

「起きてます。火光先生の所に」


 この校庭は広すぎて誰が誰だか分かりにくい。


 水月の元へ行くと警戒した目で月火を引き寄せ、後ろに庇うように立たせた。


「誰それ」

「単なる馬鹿。これは遊びのつもりだろうな」

「だってつまんないんだもーん。火音兄もやろう!?」

「いいぞ」


 火音は了承すると同時に少年の腹を蹴って気絶させた。


 水月は目を丸くする。


「え、弟……?」

「違う。……火光の従兄弟みたいなもん」


 母の姉の子供だ。

 今までイギリスに飛んで、いや飛ばされていた。母親によって。


「父親がイギリスにいるからそこで育てられてたんだよ。だから日本語がおかしいのと書けないし読めない」

「つまり英語で話せばいいわけね」

「イギリス英語じゃないと伝わりませんよ」


 火音が一ヶ月間イギリスに飛んでいたことがあった。

 その時にお世話になった家だ。

 料理が一般人でも食べられないほど壊滅的な、独創性な家となっている。


 火音は少年を起こす。

 名前はなんだっただろうか。


「痛い……殴らないで火音兄!」

「ほらな、馬鹿だ」


 火音は掴んでくる少年の手を振りほどくと火光の元にしゃがむ。

 打ちどころが悪かったのだろう。顔面蒼白で息が浅い。


「火光は」

「応急処置はしました。脳震盪が起きているようなら神通力は使えないんですよね」


 月火がペラペラと英語を話す水月の頭に手を置くと水月はそれを掴んだ。


 月火と水月が少年と話していると何故か空狐がやってくる。


「空狐! |My cute fox《僕の可愛い狐ちゃん》!」


 空狐は少年、火神(ひがみ)時空(ときあ)に抱き着き、頬擦りをした。


「Was it your youshin?」


 月火が貴方の妖心だったのかと聞けばイエスと返ってきた。


 どうやら幼い頃に実体化して離れ離れになったらしい。

 あの頃はただの善狐だったのに空狐に進化して驚いている。


「……つまり三千年も生きてないわけか」

「妖力の成長につれて成長したみたいですね。研究機関に連れて行ったら高値で買い取ってくれるかもしれません」


 月火がそんなことを冗談半分で言うと鋭い目で睨まれた。

 黙って睨み返すと空狐が逃げて行く。


「育てたのは誰だと」

「拾うんじゃなかった」


 これなら下級に見えなくても分かる。


 空狐が認めなかった妖輩には隠れ、一般人は主かと思って姿を現した。

 見えるのが子供だったのは主の最後の姿が幼かったからだろう。


 火音は薄くも神々の血を引くので現れたというところか。


 なんとも単純だった。


「……この人って何歳ですか?」

「お前と同い歳」

「……てことは」


 月火が時空を見下ろすと時空は立ち上がって敬礼をした。


「火神時空、明日から仲間だね!」

「嫌なんですが。なんで抱き着いてきたんですか」

「そう、聞いたよ! 火音兄と仲良いんでしょ!? 君を取ったら火音兄はどんな顔するかなって」


 歪んだ好奇心の持ち主だ。


 月火は真顔の火音を見上げ、火音は真顔の月火を見下ろす。


「どんな顔するかな」

「どんな顔もしないと思います」

「だろうな」


 二人が頷いて時空の方を見ると時空はムスッとした顔になった。


 すると向こうから麗蘭が麗凪を放置して全力で走ってくる。

 着物だと言うのに信じられない速度だ。

 同じ着物の麗凪は今にも転けそうだと言うのに。


「問題児コンビ! 今度は何やらかした!?」

「生徒に守らせて自分は後ろで怯えてるお前よりマシだろ」

「転校生ですって。明日から寮入りです」

「起きろ火光!」


 麗蘭が鬼の形相で火光を叩き起こそうとするので止めているとその声で起きた。


「気持ち悪い……」

「大丈夫ですか。兄さん、綾奈さんを」

「うん」


 水月が呼んできた綾奈とともに気が付いた玄智と炎夏もやって来た。


 二人とも水月達が戻ってくる前に一度帰っていたそうで、見慣れたジャージ姿だ。

 まだ未熟な澪菜は結月に守られている。


「脳震盪ね。一週間は安静よ」

「えぇー……。……月火、治して?」

「先に脳の損傷がないか姉さんに見てもらわないと。呼んでくる」


 火光は不服そうな顔をすると胡座をかいた。


「誰だっけそいつ。見た事ある気がする」

「火神時空。火里(ひさと)の従兄弟」

「あぁそうだ……。火神って馬鹿が多いんだね。火音が神々の理由もよく分かった」

「火光が神々で育って良かった」


 二人で安心納得していると時空が月火の手を引っ張って自分の膝に座らせ、こめかみにキスをした。


 兄二人から冷気が放たれる。それより先に助けてやれ。


「気持ち悪い! 無理!」


 月火は珍しく声を荒らげて時空を突き飛ばすと少し離れている炎夏と玄智の後ろに逃げた。


「逃げちゃった」

「お前、紫月と教育してもらった方がいいだろ」

「そうしましょう!?」


 これはしばらく荒ぶりそうだ。


 玄智と炎夏が獣の如く威嚇する月火を落ち着かせていると黒葉が出てきた。


『中が寒いわ。火音、主様はどうしたの』

「嫌いな奴が出来た」

『……空狐の飼い主じゃない』


 どうやら黒葉は知っていたらしい。

 この狐も隠し事が多い。


 黒葉は興味を示す時空の元に歩いた。


 尻尾に手を伸ばしてきたので手に噛み付く。


「黒葉、そんなもの食べないで下さい。汚い」

『この人間、怪異の血が混じってるわ。親が怪異なの?』

「普通の人間のはず」

『……後天的って言うのかしら。輸血みたいな感じ?』


 黒葉は時空の頭を何度も叩き、時空は不服そうにする。


「何この狐……」

『ただの狐と一緒にすんじゃないわよ!』


 黒葉も荒ぶっているらしい。


 黒葉は時空を蹴り倒すと上に乗って何度も踏み付ける。


 黒葉の逆鱗はそこか。

 月火だけではなかったようだ。


 黒葉が頭の上に両前足を乗せて憤慨しているとようやくやってきた知衣に火光は連れて行かれた。


 麗蘭は問題ないと判断したのか、パーティーを再開する。


「ねぇ。火音兄はまだ好き嫌いしてるの?」

「どうだろうな」

「なんだっけ、デプレッションみたいなやつも。そう言えば養子ってバレたらしいね。火神の子じゃないんでしょ」


 躊躇いなく精神をえぐってくる。


 火音が平静を装っていると視界の端で月火が頷いたのが分かった。

 瞬間、黒葉が人間になって時空の顔を踏み付けた。


「いっ……! 顔に傷出来たらどうすんの!?」

「いいじゃないですか。元教師に言わせれば女は欠点がある方が可愛いらしいですよ。見た目の欠点は致命的ですけど!」

「はぁ!? 僕、女じゃないし!」

「へぇ!? ならもっと男らしくなった方がいいんじゃないですかぁ!?」


 玄智は女とは言われたくないがお洒落な女の子が大好きなので開き直っている。


 時空は知られず可愛いと思われたいようだ。


 月火の意思を読み取った水月は火音を立たせて寮に帰った。

Happy Birthday 朝飛

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