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妖神学園  作者: 織優幸灔
二年生
61/201

十一 夜中のパーティー

「可愛いぃ!」

「写真撮っていい!? いい!?」

「うるっさ……」


 夏休み初日の夜中。パーティー当日。


 水月、火光、火音はスーツで月火はドレスだ。


 純白のフィッシュテールドレスには、黒のレースと青いラメがアクセントとして使われ、月火の白い肌が映えるようになっている。


 肩出しホルターネックで、背中は大きく空いている。

 肘までの手袋と黒いタイツが余計にその美しさを引き立てるのだろう。


 珍しく髪も複雑に結い上げられ、メイクもいつもとは違う雰囲気になっている。


「……結月! 早く出てきて下さい」

「無理ぃ! こんなの着たことないもん!」

「今日のために淑女教育をしたでしょう!」


 今日のパーティーのために二週間、必死で礼儀作法を叩き込んだのだ。

 月火の自室にしがみつき、一切出てこないので困った。


「……その格好玄智さんに送ってあげます」

「やめて!?」

「ほら可愛いじゃないですか」


 月火は慌てて出てきた結月を廊下まで迎えに行くとリビングに連れてきた。


 結月はスタイルがいいので水色のワンショルダー、スレンダーラインのドレスだ。


 腰の辺りにビーズやチェーンといった細かな装飾が付いている。


「わぁ可愛い!」


 水月は目を輝かせ、火光は無言で連写した。

 月火は反射的に顔を隠す。


「全部消すまで一生話しませんよ」

「えぇ!? せっかくなんだしいいじゃん!」

「せめて声をかけてください」


 結月と月火のツーショットを撮った後、火音が面倒臭がって動かないので火音の周りに集まって五人で自撮りをした。


 後に残るものだけには完璧に笑うこの男は本当にやり手だ。


「よし、じゃあ行こうか」

「あー面倒臭い……」


 月火はそう呟くと深く頷いてくる火音と恥ずかしがる結月の手を引いて玄関に向かった。


 今日だけは校内で外靴が許されており、月火はハイヒール、結月は危ないので普通のヒールだ。


 月火は白のハイヒールを履くと皆の刺さるほど見られる視線に耐えながら校庭に出た。


 夜なので日差しがなく、星空が綺麗だ。

 月光が飾られた校庭を照らす。


 無数の証明、大きな四つの机、大量の生徒、埋もれる教師。


 既に暒夏、炎夏と玄智、澪菜は出てきていたようで端の席に座って神々社との取引を狙う社長やら副社長から挨拶ついでに娘息子を結婚相手にと勧められている。


「こんなところに来てまでがめつい奴らめ」

「それが社長でしょう。取引は全て断って下さい。後で気になった方に伝えますから」

「了解」


 月火と水月は頬を押さえると貼り付けた笑みを浮かべた。


 先に麗蘭のところに声をかけに行く。


「園長、本日はお招きいただきありがとうございます」


 月火は生徒としてではなく社長として出席する事になるのであくまで他人目線の挨拶だ。


 麗蘭の教育に関しては水月が徹底してくたので上手く出来ることを願う。


「月火様、ようこそいらっしゃいました。水月様もようこそ」

「とても豪華なパーティーですね。最近は物騒な事が続いていたのでこういったパーティーがあると気持ちが明るくなります」


 あくまでもお祝い雰囲気でにこやかに、だ。

 内心面倒臭いので早く帰りたいと思っているのは言わない。


「これも神々社、月火社の多額の資金のおかげです。いつも学園がお世話になっています」

「いえ、(わたくし)自身も通わせていただき、兄の火光も教師として勤めさせていただいている大切な学園ですから。何より、これほど多くの子供達から大人まで、多くの方を受け入れている学園にはいつも感心させられます。我々に出来ることがあるならいつでも頼って下さいませ」


 あくまで穏やかに、落ち着いて。


 他の社長がジリジリと近付いてきたので水月を下がらせて相手をしてもらう。

 もう少し、学園には何があっても手を差し伸べるという姿勢を見せなければ簡単に手を切られてしまう。


 月火と麗蘭が話していると双葉五つ子姉妹の長子である麗凪(りな)がやって来た。


「お久しぶりです月火様。本日はお越しいただきありがとうございます」

「お久しぶりです麗凪様。上層部の噂はいつも聞いておりますよ」


 それから数十分話した後、いい加減疲れてきたので話を切った。


 皆はどうしているかと思えば暒夏と婚約者の幸陽(こうよう)は教師と話し、炎夏は火光と、玄智は結月と、火音は澪菜と絶えることのない話をし続けて他人の声掛けから身を守っていた。


 御三家は一匹狼好きが多い。


 月火はバイトのウェイターからワイングラスに入ったドリンクを受け取ると水月の方に寄ってドリンクを渡した。

 もちろんソフトドリンク。


 二人が少し慌てながら色々な会社と話し、皆が小腹が減ったので少し散ると小さな会社の社長が話しかけてきた。


「は、初めまして……」

「初めまして。ノンアレルゲン製菓の社長様ですよね」


 ノンアレルゲンは小さな製菓会社だ。

 しかしそのお菓子は全てにアレルゲンが使われておらず、本当に誰でも食べられるようになっている。


 月火が製菓会社を提案し、一番に提案したが既にあると水月に却下された案でもある。


「わ、私なんかが知ってもらえているんですね。月火様は知識が広い……」

「まさかまさか。誰でも食べれるの意味を証明して下さった素晴らしい会社でしょう。謙遜なさらないで下さい」


 この人と話していると気が楽になる。

 先程の人たちはどさくさに紛れて無理矢理にでも契約を取ろうとしてきたので鬱陶しかったのだ。


 月火が水月も巻き込み、三人で話していると誰だっただろうか。

 どこかの社長か副社長が話しかけてきた。


 初めは分かったのにいきなり挨拶もされず商談を持ちかけられたので興味がなくなって記憶が飛んだ。


「月火様、我社の菓子に関してもご感想を頂けますかな」


 月火がゆっくりと振り返ると水月が変わってくれた。

 本当に有能だ。


 月火は少し場所を移して生徒の方が多い場所で談笑をする。


 後日、連絡してみてもいいかもしれない。

 水月に頼んで調査してもらおう。


 とりあえず今日のところはこちらの情報は出さず、相手の情報を芋づる式に引っ張り出す。


 本当になんでも話してくれるので後は確認だけで良さそうだ。


「月火、お友達が待ってるよ」

「はい。それでは失礼します」


 月火は軽く会釈をすると水月と歩く。


「あそこの会社を軽くまとめて下さい。上手く取り込めるかもしれません」

「了解。後で情報送っといて」

「頼みました」


 二人はまた別れると色々な人と話して取引の目星を付けていく。


 それから少しして全員に対して興味がなくなったので皆の元へ戻った。


「お疲れ様」

「本当につまらない話しか聞けませんでした。ノンアレルゲンの社長は少し調べる気です」

「あそこのグミ美味しいよ」

「常備してますもんね……」


 火光が頻繁に来るようになってから、月火のお菓子棚がお菓子だらけになっていたのだ。

 ナッツしかなかったはずなのに。


「すごい勢いだったね」

「お久しぶりです暒夏さん。幸陽も」

「久しぶり」

「お久しぶりです月火様」


 暒夏は仕事かストレスか両方かで少しやつれていた。

 幸陽も心配しているようで今は栄養満点ご飯を目指しているらしい。

 目標が高いのはいいことだ。途中で挫折しない限りは。


 三人が話していると火音がやって来た。


「お久しぶりです火音先生。月火ちゃんの寮に住み着いているそうですね」

「まぁな」

「なんで火音先生ばっかり……」

「婚約者いるだろ」


 去年の体育祭の時もそうだがまだ月火を狙っているのか。


 月火を諦めて当主になったと聞いたが恋焦がれる頭の思考は分からない。


 月火はもし幸陽を傷付けたら縁を切る気だと言っていたのであまり心配はないが、それでもこれが何を考えているか分からないので安心は出来ない。


「……火音さん、大丈夫ですか」

「うん……」

「戻った方が良さそうですね。……挨拶してくるので火光兄さんに声を掛けておいてください」


 たぶん疲れたのだろう。

 ストレスが切り替わりの原因になるとは言いきれないが間接的に関わっている可能性が大きいそうなので無理させないことが大切だ。


 知衣にも綾奈にも晦にも会えていないがどこにいるかすら分からないのでもういい。


「麗凪様、麗蘭様、本日はこの辺で失礼致します。友人の体調が優れないようで」

「そうでしたか。短い時間でしたが楽しんで頂けたら幸いです。また後日に」

「失礼します」


 月火が友人に絡まれている水月を引っ張って火音の所に戻るとまだ暒夏と話していた。

 と言うより暒夏が一方的に話して火音が黙って聞いている。


 幸陽が少し焦っているので余計なことを言ったのかもしれない。


「火音さん、行きましょう。火光兄さんを」


 月火は水月に火光を頼むと暒夏を冷たい目で睨んで先に寮に帰った。


 寮に帰り、二人はさっさと着替える。


 火音は髪を少し編み込んでいたのでそれを解き、月火もピンを抜いてほどいた。

 こうなるかもしれないと思って二人とも整髪料は付けなかったのだ。


 くるくると髪がウェーブする。


 邪魔なので一つでまとめ、湯を沸かすと珈琲を淹れた。

 最近、火音が気に入っている珈琲だ。


 月火は火音に珈琲を渡すと隣に座って落ち着くまで待つ。


 その間に水筒検索だ。

 水筒が使えなくなったのは半月ほど前だが忙しすぎて見る暇がなかったので火音が月火の水筒を使い、月火はペットボトルを持って行っていた。


 この夏場で飲み物なしは確実に干からびる。


 月火はふとソファの間にも机が欲しいと思ってそれも検索する。


 月火が検索していると火音が珈琲を飲み干し、水月と火光が帰ってきた。


 火音はクッション一号を肘掛けに置くとそこに顔を埋める。


 いつも通り呻き始めたので月火は二人の分の珈琲も淹れた。


「火音大丈夫?」

「暒夏になんか言われたんでしょ。幸陽ちゃん? が後で月火に送るって言ってたよ」


 一瞬で着替えてきた火光は火音の向かいに座った。


 火音は髪を編み込んでいたので横髪が少しうねっている。

 月火はコテで巻いたような感じだ。


「どうぞ」


 月火が火音の隣に座ると火音は寝返りを打って水月達に背を向けた。

 月火が六号を渡せばそれに抱き着き、さらに丸くなる。


 抑鬱というより躁状態の後の自己嫌悪中に罵倒され精神が弱った時に似ている。


「……もしかして躁状態が来てたんですか?」

「……違う、来てない。普通だった」


 本人の自覚がないだけか嘘を吐いているのか事実か。


 思考は自分を罵倒する内容でいっぱいだし気持ち的にも自己嫌悪感が強いので分かりにくい。


 月火が火音をさすっていると月火のスマホに連絡が来た。


「幸陽からです」


 月火が内容を読もうとすると火音にスマホを取られた。

 初めての行動に少し戸惑うが無理矢理取り返すわけにもいかないので座って待つ。


 それから少しして読み終わると返してきた。

 火音は一号を持って部屋に帰って行く。いよいよ心配になってきた。


「月火、内容見せて」


 三人は幸陽から送られてきた内容を見て絶句した。


 話し方的には少し小馬鹿と言うか煽るような口調で、精神病は甘え、同じ環境で育った火光はまとも、月火のお荷物、社会不適合者、等々。


 三人の額に青筋が浮かび、真夏の暑い部屋の中が冬の如く凍り付いた。


「……火音頼んだ。火光、行くよ」

「待って着替えさせて」


 二人が早足に出て行ってから月火は少し躊躇いながらノックをした。


「入りますよ……?」


 鍵は開いており、火音はベッドではなく床に倒れるように寝転がっていた。

 意地でも一号を離す気はないらしい。


「火音さん」


 月火がそばにしゃがんで火音に触れると火音はさらに力強く顔を埋めた。

 月火が頬を触れれば少し濡れた気がする。


「火音さん、大丈夫……ではありませんよね」


 月火は上から下に突き落とすのは得意だが下から上に上げるのは苦手、と言うか慣れていない。

 慣れていないものは全て嫌いだ。


 月火がどうやればいいのか分からないまま心配していると火音が月火の手を掴んだ。


「……邪魔だって」

「邪魔じゃありませんよ。一緒にいて楽しいですし」

「甘えだって」

「火音さんが甘えられないのは皆知っています。全てを完璧にこなすので崩せないのでしょう。甘えなわけありません」


 火音の罵倒が少し薄れ、月火の言葉が何度も反響される。


「……社会不適合者だって。んなの知ってるし……」

「違うのに知っているわけがないでしょう。毎日生徒を育てて学園を回しています」


 火音は少しの間の後、泣き腫らした顔を上げて月火の方を見た。


「いつも帰れって言ってる」

「お酒が飲みたいと言うからでしょう。もうすぐ本家に帰るんですから一緒に飲めますよ。私は水ですけど」


 いくら優しくすると言っても月火は飲めないので水だ。


 火音の両頬に手を触れ、涙を拭ってやる。


「もう関係ないし。……行かない気でいた」

「母様が寂しがりますよ? 子供の頃から一緒にいたんです。我が子のように可愛いでしょう」

「でも……繋がりない」

「苗字は違えど神々と同じ血筋です。それに火光兄さんと兄弟として生きてきたんでしょう。私を妹のようだと言ってくれたではありませんか」


 月火が薄く微笑むと火音はまた一筋、涙を流した。


 きっと小瓶に入れて顔のラベルを貼ったら特殊な趣味を持つ人に売れるんだろうな。


「売るの」

「売りません。……売りたくありません」


 月火はまた涙を拭った。

 火音の思考が疑問でいっぱいになるが無視だ。


「落ち着きましたか」

「……また迷惑かけた」

「大丈夫ですよぉ。気にしすぎです〜」


 にこやかに笑うと火音は安心したように薄く微笑んだ。


「メンタル強くしたい」

「今のままが好きですよ。変に頑張る必要はありません」

「また迷惑かけるかも」

「お互い様ですよ。いつも相談や愚痴を聞いてもらっているお礼です」


 月火は裏表が激しいため他人に対する愚痴が溜まりやすい。


 それを定期的に聞いてもらえるだけで内の毒が流れ出た気がして気が楽になるのだ。


 火音が思っているよりもずっと役に立ってもらっている。


「なら良かった」

「最近は思考が筒抜けですねぇ」


 月火は火音を起こすと手で髪を軽く整えてやる。

 火音は本当に好きなのか、ずっとクッションの面を撫でてているので一見すると子供のようだ。


 幼少期に甘えられなかった分が出てきたのだろうか。

 それで少しでも楽になるのなら──


「……もっと甘えて下さいね」

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