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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
6/201

6 デート

「ねぇ、妹になんか用?」


 週末の出先で月火(げっか)玄智(げんち)炎夏(えんか)が他校の高校生に絡まれていると人影が男の一人の肩を掴んだ。


「あ、水月(すいげつ)兄さん」

「やっほ〜、偶然だね〜」


 水月は男の頬を指で突くとにこにこと笑う。


「で、妹になんか用?」

「な、なんっ……!」

「え、何? もしかして言えない用事?」

「ひぃっ……!」


 男の一人は逃げ出し、月火は腕を掴んでいた男の力が緩んだ隙に腕を抜いて水月の方に蹴り飛ばした。


 水月はそのまま男たちを片付ける。


 周りから拍手が上がり、女子達が少しずつ近付いてきていると水月を呼ぶ声が聞こえた。


「水月さん! 油売ってないでって……あ、月火ちゃん!」

暒夏(せいか)さん? と……火音(ひおと)さんも。珍しい組み合わせですね」


 炎夏は顔をしかめ、玄智とともに距離を取った。


 思春期男子と言ったところか。


「お前も珍しいな」

「私は買い物ですよ。お二人は?」

「僕はたまたま会ったから一緒にいただけだよ。友達と来てたんだけどはぐれちゃって。先生は水月さんの付き添いだって。火光(かこう)先生に押し付けられたらしい」


 暒夏は月火に嬉々として状況を説明し、火音は女子に囲まれて面倒臭そうにする水月から視線を逸らすと常備の黒マスクをつけた。


 今は人の視線だけになったので外していたのだが先程までは水月と一緒に歩いていると目立っていたので付けていたのだ。


 学園から駅まで十五分のところを四十分近くかかった。


「火光先生は職員会議だって。泣きながら(つごもり)先生に連れて行かれた」

「愉快ですねぇ」


 月火は完全に他人と化している二人に視線をやると女子達を見た。


「それじゃあまた学園で」


 月火は手を振ると玄智と炎夏の背を叩いてその場を離れた。


「やっぱり絡まれるよね」

「今回は俺らのミスだな」

「ヤクザじゃなくて良かったです」


 月火が中等部の頃、玄智と二人で買い物に行っているとヤクザに絡まれたのだ。


 月火が誘拐されかけていたところたまたま通りかかった当時大学一年生と書類上はなっていた火光が助けてくれた。


 慰謝料がどうやらと言われていたのだが名前を伝えて煽りに煽ったところ逃げて行った。


 あの時のことはいつになっても忘れない。忘れられない。


「あ、ここ売ってそう」

「見てみましょうか」


 三人は気を取り直してまた買い物を始めた。


 その日は明日が任務の玄智もいるということもあり、日が暮れる前には学園に帰った。


 寮に帰った月火は着替えて吸収具を外し、適当に机に置いてソファに寝転がる。


 出てきた九尾二体は嬉しそうに月火にすり寄る。


 普段の九尾は白色の珍しい狐だが新しく生まれた方は黒い毛並みの狐だ。


 天狐は親近感が湧くのか知らないが黒い方にばかり寄っていくので白い方が拗ねている。


 本来、妖心は一人一体なのだが月火は色々と変わっているので妖力さえあれば三体までは出すことが出来る。


 ちゃんと自我を持った妖心だ。


 月火は三体に癒されるともう一度やる気を出して掃除を始めた。


 狐の毛もそうだが月火自身、髪が長いのでこまめに掃除しないとかなり気になる。


 人は一日に百本の髪が抜けるのが普通らしいので二日以上は放置出来ない。


 掃除が終わったので先に風呂に入り、ソファで寝掛けていると誰かが入ってくる気配があった。


 時間を見ればもう七時だ。


 案の定、顔を出したのは火音と水月だった。


「あれ、寝てる?」

「起きてますよ。昼間は助かりました」

「気にしないで〜。大丈夫だった?」

「はい。なんとも」


 月火は体を起こすとまだ濡れている髪を手で整えた。


 もう疲れて髪は乾かしていない。


「……大量に買ったねぇ」

「袋が多いだけで中は一着か二着程度ですよ。まとめる時間がなくて」

「楽しそうでなによりだよ」


 月火は濡れた髪を軽く束ねると夕食を作り始めた。


 今日は放置で出来るカレーだ。

 火光がいないので辛口にしておく。


 水月によれば学食で食べさせて半分引きずりながら寮に返したらしい。

 疲れて歩きたがらなかったようだ。


 兄兼担任のそんな姿知りたくなかった。


「辛いなぁ」

「辛いねぇ」

「カレーですから」


 月火はターメリックライスが好きなのでいつもカレーはターメリックライスだ。


 三人ともカレーの辛口や激辛ラーメン程度なら食べられるので火光がいない時はいつもこんな感じだ。


 ちなみに激辛ラーメンは月火が味を再現したものとなっている。


「二人とも明日はどうしますか?」

「僕は屋敷に帰るよ。夕食はこっちで食べようかなぁ」

「俺は特になし」

「では昼間は入って食べて下さいね。私はいないので」


 明日は暒夏と友人の顔合わせの日だ。

 月火も仲介人として立ち会うことになっている。


「なにか用事があるの?」

「友人と少し」



 翌日、月火は昨日買った服に着替えると暒夏とともに出掛けた。


「髪切りたいなぁ。肩に掛からないぐらいの高さが好きなんだよね」

「その髪型がチャームポイントですもんね」

「たまにハーフアップにしたりするんだけど何せ面倒臭いんだよね。でも襟足が短いと顔と合わないし」


 暒夏は炎夏とは違って少したれ目の気弱そうな顔をしているのでガッツリ男系の髪型は似合わない。


 十五歳まで色々な髪型にしたがどれも納得せず、髪型を悩んでいるうちに勝手に伸びてふとした瞬間これに納得したのでこの髪型になった。


 親に髪を切れと言われたことはあるがさらに伸ばして色々な髪型にしているうちに黙ってくれた。


「あ、いました」

「美人だ〜」


 月火が手を振ると友人は深くお辞儀をした。


 二人で駆け寄る。


「お久しぶりです月火様」

「久しぶりです。……自己紹介は自分でした方がいいですね」


「だね。……えぇと、水神(みずかみ)暒夏です。よろしくね」

神宮寺(じんぐうじ)幸陽(こうよう)です。月火様信仰会の副会長を務めています」

「何それ入りたい」

「是非!」


 やはり相性は良さそうだ。


 月火が間を取らなくても迫りすぎず躊躇いすぎず会話出来ている。


 月火が少し後ろを歩き、二人を眺める。


 ずっと月火のことを話し続けているが何が楽しいのだろうか。

 もっとお互いの趣味の事や普段の生活を話せばいいものを、人の関心は分からないものだ。


 そして和やかな時間を終えて月火は二人の間に立った。

 西日が目に染みる。


「それでは……今日一日過ごしてみてどうでしたか? 事前にもお伝えした通り暒夏さんの婚約者候補として選んだわけですが……」

「僕は楽しかったし凄く過ごしやすかったよ。共通の話題もあるし何より月火ちゃん信者なのがいい」

「私もとっても楽しかったです。礼儀正しい方ですし月火様の紹介通りとても面白かったので……その……」

「婚約を前提に付き合ってもいい、ということで?」


 月火が確認すると二人は頷いた。

 軽く合掌するとその場を締めくくる。


「では暒夏さんのお相手は幸陽という事で。また困ったことがあれば私に言ってくだされば仲は取り持ちますので」

「よろしくお願いします」



 二人から頭を下げられた数日後、今日はプール開きの日だ。


 新調した水着を着てプールサイド──と言っても屋内だが──に出ると雨水が流れるガラス張りの天井を見上げた。


 今日は気温が低いが温水らしいので少し安心する。


 それと何故か知らないが教育コースの中等部二年がきている。


「なんで観衆がいるの?」

「火光の見学らしい。全員、妖輩コース担任志望だって」

「悪いことは言わないので今すぐやめたほうがいい気がします」


 月火の言葉に二人が頷いているとジャージ姿の火光がやって来た。

 足は裸足だ。


「ちょっと先生! なんでジャージなの!?」

「入らないもん。昨日の任務で怪我したんだよね」

「ずるい!」

「ここにハサミありますよ?」


 月火がプールサイドの机に置かれた筆箱を持ってみせると玄智は勢いよく首を横に振った。


 準備運動をしているうちにチャイムが鳴ったので挨拶をして三人とも入水する。


 九尾はプールサイドに座っており、指輪は落ちたら困るので専用のアジャスターで止めている。


 手袋でもしとけと言われたので玄智に相談したところ貸してくれたのだ。


 赤城(あかぎ)兄によれば中心部が触れていればいいらしいので中心部とは反対にアジャスターを付けて輪の大きさを小さくしている。


「じゃあ準備運動でバタ足クロールで百メートルね。よーい!」


 三人は慌てて準備をすると開始と同時に壁を蹴って泳ぎ始めた。


 月火が五十八秒、炎夏が一分五秒、玄智が一分六秒だった。


「早すぎるだろ」

「中学の頃よりは落ちたんですけどねぇ」


 月火はプールサイドに腰掛けると火光を見上げた。


 火光は月火と二人の違いを解説する。


 一番の違いはクロールの手だ。


「……先生も怪我治ったら泳いでね」

「治ったらね」

「じゃあ次! バタフライやろう」

「えぇ!?」


 その後、バタフライや背泳ぎ、平泳ぎと最後に月火対玄智と炎夏で勝負し、月火が勝ってその日の水泳の授業は終わった。

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