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妖神学園  作者: 織優幸灔
二年生
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七 休日の茶会

「それじゃあレッツケーキ作り!」

「タルト〜!」


 玄智と結月が拳を突き上げ、月火は材料を出す。炎夏はカウンターで課題だ。


 月火が退院した数日後。


 週末なのでクッキー作りの予定が結月の提案によりチーズタルトに変更になったのだ。


 一番広いので月火の寮でやっている。


 ソファには水月と火光。

 火音はダイニングテーブルで中間テストを作っている。否、作り終わってタブレットで絵を描いている。


 何故アトリエにいかないのかと問えばアトリエは花粉が酷いらしい。

 ここは年中加湿器になったので花粉や埃は基本下に落ちているし月火が毎日掃除しているので花粉どころか空気清浄機が二個も回されている始末だ。


 アトリエも掃除しているがものが多いので隙間が出来て埃や花粉は取り切れない。

 加湿器を回そうにもスケッチブックもマーカーもあるので湿度が高いと質が落ちてしまうので下手なことは出来ないのだ。


「……月火、ここは?」

「七代目水神家当主の名前です」

「あぁ……えぇと……」


 月火は玄智と結月にタルトの作り方を教えながら炎夏に勉強を教えながら火音と話す。


 火音には仕事絵を頼んだので概ねそれの相談だ。

 皆には専門用語すぎて分からない。


「……で、焼く」

「タルト焼いてる間に……レアチーズケーキの生地?」

「ですね。冷やしている間に昼食を食べましょう」

「はーい!」


 炎夏の教える担当はいつの間にかカウンターに来た火音に取られ、火光は床で寝ている。水月は仕事中だ。


「なんか火音先生と並んでるって違和感」

「前までは有り得なかったからな」

「先生って変わったよね〜」

「前はどんな感じだったの?」


 玄智と月火が火音の性格を罵詈雑言を混じえて説明し、炎夏は静かに水月の隣に移動した。

 机はないが水月が仕事の合間に教えてくれるのでいい環境だ。


「……月火! 会社行ってくる」

「分かりました。昼食どうします?」

「までには戻ってくるかな。社内のネットが落ちただけみたいだから。ついでに試作品十四号も取ってくるよ」

「……散らかるなぁ……。お気を付けて」


 月火は水月を見送ると生クリームを手動で泡立てる。

 ハンドミキサーは飛び散るのでスポンジケーキ以外はなるべく使わない。


「水月さんってかっこいいよね」

「え!?」

「面白いこと言いますね」


 結月の何気ない呟きに玄智は顔をはね上げ、月火は興味深そうな目を向けた。

 二人とも恋に興味があるのは変わらないらしい。


「え? かっこいいじゃん」

「そうだけど……火音先生は……?」

「あんまりタイプじゃない」

「そう言ってもらえる方が楽」


 ここで「火音先生もいいけど〜」と言われるよりは「水月さんの方がいい」と断言される方が変な尾を引かなくて済むので気が楽だ。


「恋愛対象……?」

「え!? ちちち違う! そうじゃなくって、ほら! 仕事出来る人ってかっこいいじゃん! 火音先生は顔がちょっとってだけで真面目な姿はかっこいいでしょ!?」

「あ、あぁ! そういう事ね!」


 玄智は安堵し、月火はつまらなさそうに生クリームに砂糖を入れた。


 月火のところはお菓子作りはグラニュー糖、料理はきび砂糖だ。

 一応上白糖やてんさい糖、はちみつやメープルと言った甘味類は揃えている。


 料理が趣味になりつつあるため、調味料は同じ種類でもある程度は揃えているので棚から溢れそうだが気にしない。


 ちなみにスパイス類も概ね揃っている。


「タルト焼けた〜。出していい?」

「はい。熱いのでオーブンの蓋の上に乗せてください」

「はーい」


 結月はミトンをはめてオーブンからタルトが三つ乗った鉄板を引っ張り出した。


 澪菜(みおな)に持っていきたいのと水泳部の友人に差し入れしたいらしいので小さなタルトを人数分焼いたのだ。


 炎夏は甘いものが嫌いなので食べないし火音は他人の手が加わったものは食べれないのでこの大きさでも足りる。火光が我慢さえすれば。


「これってもう一回焼くんだよね?」

「そうですよ。タルトストーンを取って卵黄塗って二度焼きです」

「はーい。余熱は?」

「先程と同じで〜……」


 玄智は月火のオリジナルレシピ通り生地を作り、月火と結月はオーブンの準備をしたりタルトストーンを取ったりと各々の事をする。


 少しすると眠りから起きた火光が活動し始めた。

 まだ眠いのか少し不機嫌そうだが甘い匂いに目を輝かせた。


「もうすぐ出来る?」

「まだですよ。先に昼食です」

「はぁい。……水月は?」


 火光は火音と中間テストの答えについて質問したり月火に専門用語を聞く。

 その後は炎夏と勉強タイムだ。


「焼けた!」

「……今度は大丈夫そうですね。えぇと」


 月火は棚から紙コップを出すと鉄板の上に置き、紙コップの上にタルトを置いた。

 三つのうち、二つは底が外れるものなので取るとは簡単だ。


 側面を外してからタルトと底板の間に包丁を入れ、テコの原理を使うとすぐに外れる。


 ただ、上手く入れないとすぐにひび割れるタルトなのでここは月火が任された。


「これは底が取れないね」

「これはクッキングシートを敷いたので大丈夫ですよ」


 月火が十字に敷かれたクッキングシートを順に持ち上げるとすぐに取れた。

 落ちないうちに皿に乗せる。


「凄い!」

「生地出来たよ〜?」

「タルトが冷めるまで待ちましょう。その間に昼食作ります」


 月火は手早く片付けると昼食の鶏ももの照り焼きを作り始めた。

 照り焼きは焦げやすいので目が離せないが副菜も作りながらなのでいつもより少し慌ただしい。

 それでも手際良くなっているのは熟練の技だろう。


 火音はその姿をイラストに描く。


「……よし」

「あ」

「え?」


 火音は深く溜め息を吐くと頭を抱えた。

 月火は目を丸くすると火音のタブレットを覗き見た。


 画面が真っ暗だ。


「イラスト描いてたんじゃないんですか」

「充電切れた」

「ばっかだ〜」


 せっかく背景まで行けたのに最悪だ。


 火音は意気消沈するとおとなしく充電して奇跡的に自動保存されていることを願った。


「あそうだ月火! 美術部の顧問から展覧会に一枚描いてって言われてたの忘れてた……」

「いいですけど。いつですか?」

「し、七月七日の……」

「はぁ!?」


 今はもう五月終盤だ。

 二ヶ月で一枚描けと言うのか。


「え、油絵ですよね……?」

「うん。えっと、五十から八十で……」

「……いつ言われました?」

「……春休み」


 月火は玄智の肩を持つと爪を立てて力を込めた。


「痛い痛い!」

「お前が描けよ」

「月火に頼まれたんだって! 痛い〜!」

「……まぁいいや。やってみよーっと」


 月火は玄智を追い払うと手を洗って続きを始めた。

 結月と玄智が仲良さげに話しているのでチーズケーキ生地を温めて冷めたタルトに流し込み、冷蔵庫に入れた。


「ご飯出来ましたよ〜」

「ただいま〜」


 ちょうど水月も帰ってきたので火光と水月に頼んで月火の勉強机を移動させてもらった。

 一人か二人なら座れるダイニングテーブル並に大きいのでそこに三人を詰め込む。

 これで四と三でちょうどいい。


 少し狭いので月火と結月と玄智の小さい組が三人で座る。


「月火って本当に料理上手いよね〜」

「母の教えです」

「あ、月火、十四号持ってきたよ。なんか十四点五号もあった」


 いつも通り五分で食べ終わってそれを受け取ればかなり改良されていた。


 中に高反発クッションを入れて羽毛でサンドしたらしい。

 ずいぶん理想に近付いてきた。


「いいですねぇ。羽毛をウールとか極小ビーズにした試作を作ってもいいかもしれません。その辺りは任せます」

「はーい。後、もう一つの方に魔法のタオルの性質使いたいって」

「今度話を通して持っていきましょう」


 同じ会社なのでアイデア盗作の問題は極わずかだ。

 こうして水月か月火に通してくれれば面会の時間を設けて話し合うことが出来る。


「新入社員の研修はどんな様子でしたか」

「今日はネットどころかブレーカーごと落ちてて阿鼻叫喚だったよ」

「……後で私の資料を持って行ってください」


 いい加減会社のパソコンをノートパソコンに替えてログインメールアドレスとIDでどこパソコンからでも同じユーザーにログイン出来るようにしたいのだが発注したパソコンが作るのに夏までかかるというのだ。


 今回のような状況にならないためにも早くワイヤレス化したい。


「設備の異常は大丈夫でしたか?」

「そうそれ。なんかねー」


 水月は社員から聞いた話を月火に伝える。

 ここのところ、エレベーターの調子が悪いらしい。


 超高層ビルなのでエレベーターがないと不便極まりないので一つのビルに四つ設置しているのだがそのうちの一つの扉からたまに異音が鳴るらしい。


 もし挟まれ事故でも起きたら大変なことになるので確認出来るまで封鎖してくれたようだ。


「一応、防犯カメラもチェックして様子見ようと思って」

「確認しておきます。業者への連絡を頼みました」

「了解」


 月火は十四号をソファに置くと十四点五号とやらも引っ張り出した。

 珍しく密封されていたのでカッターで軽く切ってから出せば素材は十四号と同じだったが大きさが倍大きい。


「でっか……」

「一応二つ繋げた大きさだって」


 月火はあまりの大きさに黙り込み、神妙な顔をした。

 確かに二つ繋げたような大きさとは言ったがこれほど大きいものを送ってくるとは。


 クッション自体が、腕を肩から指先まで伸ばした時とほぼ同じ長さ大きさの正方形なのでかなり大きいのだが、それが二つとなると月火が求めていた安心感より威圧感が出てくる。


「……ソファ課と協力させた方がいいんじゃない?」

「ですね。それの連絡も入れておきます」


 月火はクッションを叩くと火音を見た。

 食べ終わってデータの消えたタブレットで絵を描いている。


「いります?」

「邪魔だろ」

「ですよねぇ。……欲しい人!」

「はい!」

「欲しい!」

「俺も〜!」


 二年生トリオが挙手したのでジャンケンさせて負けた結月に慰め賞としてあげた。


「勝ったのに〜!」

「一と六以外いらない」

「ですって。えぇと……」


 月火はクッションの山から一号と六号を見つけ出すと他のクッションを床に置いて二人に選ばせた。

 今度晦姉妹に非売品だと言ってあげよう。


 三人は嬉しそうにクッションを抱え、火光はその姿に癒されている。


「さてと……悪いですが私は絵を描きます。誰かさんのせいで急ぎになったので」

「うっ……」

「頑張れ〜」


 油絵は乾かすのに時間がかかるので大変なのだ。


 月火の場合、中等部で八十号を半年かけて完成させた。

 六十号、八十号と言うのはキャンバスの大きさで八十号になると半身以上の大きさになってくる。


 もちろん横もそれに比例して大きくなるのでかなり大きい。


 今回は時間がないので六十号だ。

 五十号だと入れたい構図に入り切らず、細すぎてかえって汚く見えてしまう。


 月火はイーゼルを立てると六十号のキャンバスをセットした。


 一度リビングに戻ると火音に声を掛ける。


「しばらく油絵の臭いがつきますよ」

「慣れた」

「ならいいです」


 油絵はかなり匂いがキツイので人によって好き嫌いが別れる。


「三時前に声掛けて下さいね」

「はーい」


 自室から油絵用のジャージを引っ張り出す。


 中等部の頃、友人にふざけて白ジャージに黒絵の具を袖に付けられたのだ。

 油絵は付いたら最後、二度と落ちないと言うのに。


 白だったせいで余計に目立ち、弁償させた。

 もちろん他人に譲ったが。


 付けられたジャージは今も着れるので油絵用のエプロン代わりに回している。


 月火が昔の作品をスケッチブックを見ながら直接下塗りしているとアトリエにノックが鳴った。


「月火、三時前だよ。……わぁ、凄いねここ」

「火音さんの私物と私の私物です」


 月火は筆を洗うとイーゼルにキャンバスを置いたままジャージを脱いでリビングに戻った。

 いつの間にか皆でトランプをしている。どっから持ってきた。


「ケーキ切りますよ〜」

「はーい!」


 玄智の分は切らずに箱に入れ、結月の分は切ってから箱に入れた。


 今から食べるのは月火の分だ。


 少し小さいが等分して五つの皿に乗せる。


「切るときは包丁をコンロで軽く温めてから切って下さいね。ケーキ部分が溶けて綺麗に切れるので。一回切ったら必ず包丁を拭ってから軽く温めてまた切ること」

「ふむふむ……」


 二人はメモ帳にメモし、皆に運んでも貰っている間に珈琲を入れる。


 玄智と結月と炎夏は紅茶だ。


 そして本日の茶会はとても賑やかなまま終わった。

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