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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
5/201

5 買い物

 その日の休み時間、月火げっかは左手の薬指に付けられた指輪をくるくると回す。

 サイズを測らなかったせいでゆるゆるなのだ。


 こんな状態で本当に測れるのだろうか。


 月火が指輪をいじっていると火光かこうが入ってきた。


 月火の指輪を見て目を丸くする。


 昨日は学食に行ったようで夕食は火音と二人だったのだ。

 寮があるので学食やランドリー設備はある。


「え……?」

「妖力の計測器らしいです」

「あ、なんだ。水月が暴走したのかと思った」

「ちょっと」


 火光は安心した笑顔で窓辺に手を突く水月を見た。


「なんでいるの」

「暇になったからね」


 授業の邪魔をしなければそれでいいが暇になったからという理由で遊びに来ないでほしい。

 火光は息を吐くと月火に計測器の話を聞く。


「心臓に繋がってる薬指に嵌めたら妖力の回復速度が分かるみたいです」

「へぇ」


 火光が興味深そうに話を聞いていると珍しく一緒にいたつごもり火音ひおとがやってきた。


「あ、ほら」

「本当だ……」


 二人は水月を見ると小声で会話する。


「何?」

「水月を探してたんだよ。絶対火光のところにいるからって」

「火音先生じゃないですしそんな入り浸ってるかなと不安だったんですけど……」

「俺を入り浸ってるみたいに言うなよ!」


 水月はけらけらと笑い、火光は時間を見て授業の準備を始めた。

 次は学活なので用意するものは特にない。


「三人とも、邪魔になるから扉閉めて」

「えぇ?」


 嫌がる水月の代わりに月火が扉と窓を閉めた。


 今も九尾は教室の後ろで待っているが自室にもいる。

 もう一体の方は天狐とお留守番だ。


「じゃ、今年の水泳授業だけど」

「やだー!」

「水嫌い~!」

「おぉ妖心が泣くぞ」


 月火が静かに三人の会話を眺めていると玄智げんちが月火に話を振った。


「月火って泳ぎ上手いの?」

「全国大会で二位になった程度です」

「任務明けの徹夜でしょ? 十分だって」


 この学園にも中等部からだが部活はある。

 妖輩コースの者は任務等で忙しいのでほとんど帰宅部になることが多いが他のコースの者は部活に所属して大会やコンクールに出ることもある。


 ちなみに火音は陸上部顧問、晦は卓球部顧問だ。

 火光は妖輩の担任なので緊急が多いとして顧問にはなっていない。


「よく溺れなかったね。僕水泳大っ嫌い」

「同感」

「特級試験に水泳ありますけど? お二人さん」


 火光がにやけ面でそう言うと二人は破顔した。

 月火は首を傾げる。


「二人とも運動神経抜群でしょう?」

「出来ると好き嫌いは違うんだよ?」

「そもそも嫌いだから練習してないし」


 火光が二人の我儘な悩みに苦笑していると火音が窓を少し開けた。


「火光、三時間目暇?」

「授業入ってるけど……」

「ほらな?」


 また窓を閉めて三人で話し合う。

 火光は読唇術が使えるので分かるが突然休みになった犬鳴いぬなきの講義の時間をどうするか問題になっているようだ。

 火音と晦は大学部の講義にも入っているので人材を探しているのだろう。


 水月は博士号は取っていない。頼まれたときに断りやすいようにだ。

 ただでさえ忙しいのだからこれ以上仕事は増やしたくないと嘆いていた。


 月火の補佐に加えて妖輩の仕事や上層部からの無茶ぶりで補佐を始めた時は寝る暇も惜しんで仕事をしていたのだ。

 火光も手伝いたいが何せ仕事を振ってくれないので一人で抱え込んでいる。


 火光が生徒を放置して廊下を見ていると火音に睨まれ、死角に移動されてしまった。


「ねぇ先生、水泳ってやる必要なくない? 妖心に頼めば……」

「妖心を怪異と戦わせてる間はどうするの? 月火じゃないんだから一体出すので精一杯でしょ」

「うっ……」

 玄智が言い返せなくなると火光は呆れながらプリントを配った。


「一番喜ぶのは玄智の妖心なのに主が渋ってどうするの」

「そうだけどぉ……」


 玄智は机に突っ伏すとプリントを揺らす。


 この学園は水着が派手なものでなければ自由なのだが全員、火光も含めて長袖長ズボンの水着だ。


 首から手首に白のラインが入っているがそれ以外は黒のなんとも学生らしい水着となっている。


「高校生にもなってやることないじゃん……」

「夏休みはあんだけ海って叫ぶくせにプールは嫌なんだ」

「プール狭いもん」

「五十メートルプールを狭いと言うか」


 炎夏(えんか)が突っ伏す玄智を見ると玄智は口を尖らせた。


 室内五十メートルプールに文句を言っていては満足出来るプールなどない気がする。

 ウォータースライダーを付けろと言うのだろうか。


 もう学校の範囲ではない。


「まぁ将来のためだって。どんな任務に当たるか分からないしね」

「……はぁい」


 玄智がおとなしくなったので毎年お馴染みの説明をして二時間目を終わらせた。


 まだ三十分ほどあるので適当な雑談をする。


 廊下の三人はまだ話し合っているようで帰ってこないのだ。


 生徒は生徒で盛り上がっているので火光は黙ってそれを眺める。


「今週末遊びに行こう」

「どこに?」

「ショッピングで月火の夏服買おうよ」

「私限定ですか」


 学生の本分は勉強と言うが勉強が十分なので青春を謳歌する。


 玄智は見た目からしてオシャレオタクなのでいつも月火を被験者にして流行りのコーデを合わせるのだ。


 月火はそういった事に興味が無いので勝手に選んでくれるのは助かるが毎回水月と火光が見にやってくるので情報をばら撒くのはやめてほしい。


 幼い頃から言われ続けてきたが月火は美人らしいので顔と立場に色々と寄ってくるのだ。

 それらに変な情報を与えていることを少しは自重してくれないだろうか。



 その週末、月火の夏服ついでに三人の水着も買うことになった。


「普通の高校って水泳ないところもあるんだってさ」

「そうなんだ。高校生は海行って泳げってか」

「義務教育で基礎水泳は出来るからでしょう。泳ぎたければ水泳教室に行けってことですよ」


 三人が揃って出掛けると必ず誰かしら声を掛けられる。

 だいたいは紅一点の月火だが月火が話しているうちに炎夏や玄智にも寄ってくるのだ。


 そのためどうでもいいことでもいいので会話を絶やさないようにしている。


 それでも信号に止まれば向こうにいる人も皆が見てくるのだ。


「なんで高校生になってまで水着買わなきゃいけないんだろ」

「授業があるから」

「そうだけどさぁ……」

「もういいでしょう。去年欲しい水着があるって言ってたじゃないですか」


 月火はいつまでも駄々をこねる玄智を諦めさせながら信号を確認して歩き出した。


 わざわざ電車に二時間乗って都心にやってきたのだ。

 いつまでも嘆き悔やんでいてはこっちが鬱陶しくなる。


「月火はどんな服欲しい?」

「ん〜、でもワンピと肩出しは一着ずつは欲しいですね。スカートは何着かあるんですけど」

「月火ってスカートかワンピしか着ないよね」

「なんか抵抗感あるんですよね」


 ガウチョ系は着ることがあるのだがジーパンなどは履かない。


 単に鍛えすぎて足が太いのも嫌なのだが何故か抵抗感があるのだ。

 ズボンはジャージしか履かない。


「モデル体型だから絶対似合うのに」

「何するにも足の露出嫌うもんなぁ」

「傷だらけですし」


 月火は足技が多いので今も普段もタイツで隠している。

 普段は膝丈や膝上スカートに黒タイツが常だ。


 後は足首までのロングスカート。


「あ、見て可愛い」

「似合いそう」


 適当に街を練り歩いて可愛い店に入っては何着か購入する。


 玄智が本気で気に入ったものは買ってくれるので気が引けるが本人のあのやる気を止められる気がしないのでおとなしくお礼を言って代わりに昼食は奢った。


 カフェでお茶をしながら今度はメイクについて話し合う。


「月火ってメイク滅多にしないよね。するとしてもナチュラルメイク」

「派手なのは似合わねぇだろ。色にもよるだろうけど」

「たまに地雷メイクとか量産型ならやりますよ。涙袋ガッツリの」

「そーなの!?」


 月火が先日、友人と撮った写真を見せると二人は驚いた顔をした。


 生粋の清純派月火は滅多に派手な服やメイクをしないがたまに気分でやるらしい。

 新しい一面だ。


「玄智はいっつもメイクするよな」

「うん。でも面倒臭い時はアイメイクだけだよ」

「俺は絶不調の日だけだからなぁ」

「本当に絶不調の日は休んで引き篭もりますよね」


 そんな雑談をしながら店を出て水着を買いに店を探していると玄智が立ち止まった。


「美味しそう」

「食ったばっかじゃん!」

「太りますよ」

「僕明日は任務なの! だから大丈夫!」


 玄智が目を付けたのは店と店の間にある小さなドリンク屋だ。


 スムージーに好きなトッピングを付けて飲めるらしい。

 甘党の玄智には魅惑の飲み物だろう。


「太っても知らねぇからな」

「この前水月様にダイエット方法聞いたもーん」

「ずるっ! 俺も聞いとこ」


 月火は既に満腹なので玄智と炎夏だけ買う。

 そこで問題は起きた。


「ねぇ君一人?」


 月火が道端の看板側で待っていると見るからに素行の悪い男達に声を掛けられた。


 顔面偏差値は高い方なのだろうが月火の家族や友人はある意味での顔面凶器が多いのであまりなんとも思わない。


 そもそも顔面に興味がないのでのっぺらぼう以外は全員普通の顔に見える。


 さすがに片目が潰れていたり口が異形だったりしたら顔を覚えられるが他は全員髪と目の色で覚えた。


 幼い頃からいるものは慣れているが学園に入って関わった者たちはほとんど顔を忘れている。


「友人と遊んでいる最中ですが?」

「堅苦しい話し方じゃなくていいよ。俺らと遊ぼうぜ。カラオケとかさ」

「遠慮しときまーす」


 月火が断ると男達はプライドが高いのか、さらに近付いてきた。

 人が集まってくる。


「月火、大丈夫?」


 玄智と炎夏が月火に話し掛けると男達は二人を睨んだ。


「何? それが友達? たいした金もなさそうな餓鬼じゃん!」

「弱そ〜!」

「なんならお前らとも遊んでやろうか?」


 男四人が笑っていると三人は顔をしかめた。

 月火は肩を掴まれたので手を弾く。


 指輪が落ちそうだ。


 ちなみに今日は九尾はいない。その代わり吸収具を三つ付けている。片腕だけ重い。


「元気だねー。お兄さん達が楽しい遊び教えてあげるよ」

「結構です」

「真面目ちゃんだなぁ。何高? 中学生じゃないでしょ?」


 ここで妖神学園を出していいのだろうか。


 三人が視線で会話していると男が月火の手首を掴んだ。


「言えないぐらい馬鹿高なら何しても許されるって! 俺らも黙っててやるからさ」

「離して下さい」

「さっきみたいにやってみな? 俺結構鍛えてるからさ」


 笑う男達のせいでさらに人が集まってきて見世物のようになってしまった。


 三人が鬱陶しく感じているとふと見覚えのある顔が見えた気がした。

 滅多にいない顔なのでたぶん見間違えではないと思う。


 月火は息を吸うと少し大きな声を出した。


「離して下さい!」

「ひゅー、元気だね!」

「振り払ってごらん〜」

「ねぇ、妹になんか用?」

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