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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
48/201

48 過去

「はい、弓矢だ!」


 火光の言葉の通り、弓矢を出した紫月(しづき)は炎夏にそれを渡した。


「どこから……」

「私の神通力は具現化なのだ。便利だろう」

「神通力に種類があるみたいな言い方だな」

「あるに決まっておろう。そんななんでも出来る神通力など……」


 皆が月火を指さすと、黒葉は今にも落ちそうなほど身を乗り出す月火を止めた。


「え、なんですか?」


 話を聞いておらず、首を傾げると皆が呆れる。


「……弓矢ぐらいなら出せますよ」

「月火も具現化か。……え、雷はなんの力だ?」

「神通力ですけど」

「弓矢は?」

「神通力」


 二人が首を傾げていると黒葉が月火の傍に戻ってきた。


『主様の神通力は万物に通ずるものなの』

「万物に通ずるそうです」

「まことか!? 神の力か!?」


 月火が首を横に振ると紫月はさらに首を傾げた。


「不思議なものだ……」

「本当に」


 月火が弓矢を消そうとすると火音がそれを止めた。


「千里眼使えるだろ。炎夏と一緒に狙えばいい」

「確かにそうだな。そうしよう」


 月火はわけが分からぬまま奥の門番が見えるところまで移動する。


 かなり離れたが問題はないだろう。


 炎夏が前にいる月火に合わせてくれるようなので月火は弓道の射法八節で構え、狙いを定めると()()()


 弓道の矢は離すのではなく勝手に離れるのを待つというものだ。


 矢が飛ぶ速度は百四十キロメートル程度だ。


 弓の重さによって変わるので月火の矢と炎夏の矢で少し()たるタイミングがズレたがそれでもこめかみに当たった。

 流石に殺すと道徳心が疑われるのであくまでも気絶させるだけ。


「上手いな」

「月火は文武両道だし炎夏は運動神経抜群どころの話じゃないからねぇ」


 炎夏は妖力関係なしの競技で言えば月火と火音に張り合うことは難しくないだろう。

 水虎(すいこ)もそうだが水神は武に優れているものが多い。


「炎夏、月火、矢の先に火を付けて放てるか」

「火……?」

「火傷どころの話ではありませんよ」


 矢を(つが)えて構えた時に、矢先は弓を持つ手である弓手(ゆんで)の傍に来る。

 燃えていたら火傷どころかただれて皮膚がずるむけになるだろう。


「やはり無理か……」

「ねぇ月火。飛んだ矢は操れないの?」

「どうでしょう」


 月火は玄智の問に目を瞬いた。

 矢を下に置くと少し離れていつもと感覚を変えていじってみる。


「……少し時間はかかりますけど出来そうです」

「なら普通の矢を村に射ってから燃やしたらいいんじゃない?」


 月火は手を打つと作った矢を炎夏に渡した。


「俺?」

「構えている途中から集中します。燃えたら許してください。治すので」

「不安だなぁ……」


 炎夏は皆が見る中で少しやりにくさを感じながら弓を引いた。


 狙いが定まらないので静かに息を吐いてから少し矢を上に傾けると矢が離れた。


 しばらくすると矢が落ちたであろう周辺から煙が上がり、紫月は炎夏に後三本ほど射たせた。


「すっげぇ罪悪感」

「英雄だよ」

「それはそれで嫌」


 炎夏は火光の手を払うと弓を紫月に返した。


 少しして考えもなしに火をつけた紫月がどうしようかと考えていると門が開き、見た事のある餓鬼が出てきた。


 勢いよくこちらを見るとたぶん村に声をかけたのだろう。

 何人かの子供が塀に飛び上がり、こちらまで走ってきた。


『主様、気を付けて』

「分かっています。黒葉は紫月と一緒に戦いなさい」


 月火は黒葉を撫でた。

 瞬間、黒葉は美しい女性へと姿を変える。


「て言うか奇襲するなら袴の必要なかったろ」

「作戦などないからな」

「本当に月火の先祖か?」


 月火は未来が見えない行動はしない派だがこれは突っ走るらしい。

 全く同じよりはいいか。


 三人は刀を鞘から抜いた。

 月火と火音は集中するうちに共鳴したようで、五感が研ぎ澄まされる。


 月火の目が半分ほど紫に変わり、瞬きをした次には全てが紫に染まっていた。


「合わせる」

「先に餓鬼を」


 二人は崖から飛び降りると一番にあの狐の元へ行った。


『妖刀術 白黒魅刀』

『妖刀術 妖楼紫刀』


 二人が素早く構え、刀を振ろうとしたその瞬間。

 大きな怒声が響いた。


「何をしておるこの大馬鹿者が! 月火様に何かあってからでは遅いのだぞ!? 紫月様もいらっしゃると言うのに!」


 大きな怒声とともに姿を現したのは黒の面に赤い模様が入った中年とも高齢とも言えないような歳の男性で、月火の前にいた狐の子供の髪を掴んだ。


「お前は本当に……!」

「い、痛い……ごめんなさい……! 奥様が……」

「あいつよりも俺の方が……」


 男性がさらに髪を引っ張り、狐の面から涙が溢れた時、男性の喉元に刀が突き付けられた。


 切れないはずの白黒魅刀の刃先を喉に押し当てれば鮮やかな血が首から流れる。


 文化祭の時に月火たちを襲った狐とは似て非なる色だ。


 どうせ子供を働かせて大人は遊んでいるのだろう。

 これだから嫌いなのだ。


「そちらの事情は関係ありません。彼女を頂いても?」

「げ、月火様……」

「私の名を穢れた口で呼ぶな」


 月火が睨むと男性は少女から手を離し、頷いた。


 周りの子供が駆け寄って手当をしようとするが一人以外は拒まれているようだ。

 受け入れられている子は嫌そうだが。


 月火は刀をしまうと頭を抱えて泣いている少女の傍にしゃがんだ。


「髪を引っ張られたら痛いですよねぇ」

「ご、ごめんな……さ……やれって……言われ……て……」


 火音は嗚咽を飲み込みながら必死に頭を抱える少女を見ていると幼い頃の火光を思い出した。

 毎日躾と言って折檻されていたので火音も怯えられていた。


「何もしませんから大丈夫ですよ〜」

「月火」


 火音が声をかけると月火は白黒魅刀の柄の後ろで少女の首を殴って気絶させた。


 倒れる前に支え、水月に託すと髪を整えてやる。


 紫の綺麗な髪だが切り方が雑すぎる。


「あの狐は喋らないのでしょう。これに喋らせます。後は普通に気に入りました」


 月火が少女の頭を撫でると少女の気絶しても震えていた手が止まった。


「どこに置く気だ」

「学園でいいでしょう。刃向かった時点で封じます」


 気がついても暴れないよう黒葉に拘束を頼むと水月から黒葉に頼んだ。


 たぶん年頃なので水月よりも黒葉の方が安心するだろう。


「月火、妾に喋らせろ」

「えぇ」


 少し怯えたように申し出てきた紫月に快く頷くと少し安心したのかあからさまに肩の力を抜き、胸を撫で下ろした。


 完全に怯えられたようだ。


「し、紫月様……」

菊地(きくづち)だな? 麗凪(りな)の父親で間違いはないな?」


 麗凪は園長である麗蘭の五つ子の長子だ。

 親子揃って千年単位で生きているのだろうか。


 紫月は紅揚秘刀太を菊地の首元に突き付ける。


「何故兄上を殺した。何故兄上の恩恵を仇で返した。答えよ!」


 紫月の兄を殺したのは紫月ではないのか。

 色々と食い違いが出てきたが今は黙っておく。


「あ、貴方は共鳴の体現者です。あんな兄よりも……」

「妾は! 神々の当主などよりも兄上と過ごしたかったのだ! それをお前が!」


 紫月は怒りを露わにして刀を握る手に力を込めた。


 周りの子供が紫月に駆け寄るが月火と火音が刀を抜いてそれを止める。


「お願い……殺さないで……! 村長様がいなかったら食べていけないの……!」

「断る」


 子供たちの必死の懇願を紫月は冷たい一言で一蹴した。


「この男は。飢えで倒れているところを兄上が拾ってやったのだ。お前たちと同じような子供だった。兄上は! お前を弟のように育ててくれただろう!? それを自覚しておきながら膳に毒を盛るなど! 万死に値する!」


 紫月が睨み下ろすと誰かが紫月の肩に触れた。


 菊地の顎に刀を食い込ませて振り返ると薄い青の髪の女性が立っていた。


 上質な着物に整えられた髪。

 黒に金の狐の面。


「その方の罪はよく分かっております。我が村伝統のやり方で死よりも苦しい罰を課しましょう」


 女性が少しくぐもった声でそう言うと紫月は眉を寄せた。

 しかし火音が言い返すのを止める。


「命は十個あっても足りないと言ったのはお前だろ。一個しかないんだから十二分に苦しめる方がいい」

「……最後は毒で殺すと約束しろ」

「約束致します」


 女性は静かにお辞儀をすると袖から縄を取り出して紫月が刀を突き付けている間に手と足を縛り、身動きが取れないようにした。


「座敷牢に入れておきなさい」


 女性に言われた子供たちは怯えながら菊地に近付いた。


 しかし威嚇するようにうなり睨んだので月火が頭を踏み付けて気絶させる。


「あら、あの子は……」

「一人は貰いますよ。気に入りました」

「……最後に弟妹にだけ会わせてあげてください」

「弟妹ですか」


 五月蝿くなかったら学園で監視してもいいかもしれない。

 気分が良くなってきた。


「皆様、どうぞこちらへ。火事も一通りは落ち着きましたので無事だった家に案内します。説明はそれからさせていただきます」


 火音が月火を見ると月火は紫月を見下ろした。紫月は火音を見上げている。


「……分かりました。もちろん全員行きますよ」

「はい。ご案内致します」


 ずいぶん丁寧な女性だ。

 今までの戦闘狂と同類とは思えないがこういう人に限って裏表が激しかったりとても強かったりする。

 前者は完全に月火だ。



 先頭を行く女性の後ろを紫月と月火、その後ろに炎夏と玄智が並び、水月と火光、黒葉と火音と並んでついて行く。


 一応どこから襲撃されてもすぐに対戦できる陣形だ。


「こちらへ。茶はいかがですか」

「結構です」

「かしこまりました」


 紫月の兄のように毒でも盛られたらたまったものでなない。

 ここに毒の耐性があるのは火音だけだ。

 本人が軽い毒なら症状が出る前に気付くと言っていた。


 畳の和室に一対八で座る。

 月火、紫月、火音、黒葉が前でその間から残りの四人が顔を出すような形だ。


「まずどこから話しましょうか……」

「貴方たちの正体を」

「かしこまりました」


 女性はこの際だからと言って狐の面を外した。

 吸い込まれそうなほど黒い目をした綺麗な人だ。


「一つ言っておきますと、私は十三年前に連れてこられた元妖神学園の生徒です。知っているでしょうか……知紗(ちさ)の従姉妹に当たるのですが……」

「晦ですか。今は教職員になって兄が毎日怒鳴られていますよ」


 月火が薄く微笑むと皆に呆れた目で見られた火光は顔を逸らした。

 女性は初めて頬を緩める。


「とても知紗らしいです。私は朱寧(あかね)と言います。よろしくお願いいたします」

「こちらは人数が多いのでその都度紹介させていただきます。ご存知かもしれませんが一応。神々月火です」


 二人は丁寧にお辞儀をするとさっそく本題に入った。


 分かるのは朱寧が誘拐されてから暇な時に読み漁っていた文献から分かることだけ。


 この村は九狐(くこ)村と言い、この村の人々は自らを九狐の子と言う。



 村の始まりは千年以上前。

 紫月がまだ存命していた時だ。


 菊地は孤児(みなしご)で行く宛てもなく日本をさまよっていた。

 その時に出会ったのが紫月の兄、紫水(しすい)

 道の端にうずくまる菊地を皆が邪魔そうに、鬱陶しそうに見る中、紫水だけが手を差し伸べてくれたそうだ。


 まだ十何歳かの紫水だったが、屋敷に向かう道中には自分より遥かに幼い小さな妹のことを楽しげに話してくれた。


 まだ生まれて二年も経たないのに読み書きが出来て琴が弾ける。

 自分よりも頭が良く、とても可愛い子だと。

 菊地はどんなに可愛い子だろうと期待を胸に屋敷に向かった。


 しかし屋敷では思っていたような待遇は得られなかった。


 紫水の両親は菊地を孤児だと蔑み、屋敷に入れまいと拒否していたのだ。


 その時、進言したのがまだ二歳で神の子と呼ばれていた紫月。


 育ててあげればいい。

 仏の恩恵を受けられなかった子が導くべきして紫水と出会い、紫水はそれを見逃さずに手を伸ばした。

 仏が試験を課したのだと。


 しぶしぶだったが屋敷に入れてもらえた菊地は美味しいご飯と今まで着たこともないほど上質な着物、暖かい寝床を貰い、二十歳になるまで屋敷を手伝いながら住まわせてもらった。


 異常になったのは紫月が九つの時。

 幼馴染の男子と共鳴したのだ。


 純白だったはずの紫月の目が青く輝き、皆がその目の虜になった。


 やがて紫水の両親が体調を崩すようになり、紫水が家督を継ごうとした時。

 彼は膳に盛られた毒で若くして亡くなった。


 目の前にいたのは紫月だけ。

 皆が紫月が犯人だと決め、家督を継ぐためだけに兄を殺したと非難した。


 その後、菊地は恩人を殺した娘のいる屋敷にはいたくないと建前を述べ、その屋敷を去った。


 その後、菊地は日本全国を回り、他にも共鳴体現者を数人見つけては周囲を殺し、共鳴体現者をトップに押しやった。

 否、体現者を上に置くしかない状態を作り出した。


 それから数年が経った頃だ。

 屋敷の近くに戻ってきたら紫月が四人目の子を孕んでいた。


 上の子二人は不吉にも双子。

 その下に一人の男の子。

 四人目が発覚したのは最近のことだ。


 紫月の子ならまた共鳴するかもしれないと思った。

 またあの純白の瞳が、他の色に染る瞬間が見れるかもしれないと思った。


 しかし紫月は紫水の件を全て見抜き、幼馴染だった男に全てを話していたのだ。


 まだ若かった紫月を守ろうと立ちはだかったところを殺された。

 紫月は怒り狂い、古くから神々と取引をしていた商人から貰った妖刀で立ち向かったのだ。


 菊地の胸にはその傷が今も深く残っている。


 しかし紫月は突き飛ばされ、階段の上から落ちた。

 その隙に双子の妹を連れ去り、自ら育てて自ら孕ませた。


 菊地の血を引いた姉妹が麗蘭含む五つ子姉妹。


 そして無事だった双子の長女から栄えたのが神々の家系。

 弟から栄えたのが双子の妹と同じ姓の双葉の血筋だ。


「ここにいる子のほとんどは孤児で誘拐された子です。何人か、菊地に便乗して子供たちを抑えている者もいますが……。親が生きている子も親に会いたいという子もおります。菊地が死んだ後、彼らを元の世界に戻してあげてもらえませんか」

「それはいいのですが。いくつか質問しても?」

「分かる範囲でなら答えさせていただきます」


 一つ。

 何故千年も前の菊地が生きているのか。

 二つ。

 その娘が生きている理由も。

 三つ。

 妖輩界では双子の血筋は途絶えたとされているがここに子孫がいる。その説明が聞きたい。


 四つ。

 ここはどこなのか。

 五つ。

 ここからの帰り方。


「ざっとこんなものです」

「はい。一つ目から答えさせていただきます」


 一つ目と二つ目の何故生きているのか。


 これは妖心が関係している。

 五つ子姉妹は妖力はあれど妖心はない。

 それは既に死んだ菊地が姉妹の妖心をまとめて乗っ取ったからだ。


 今の白葉と紫月のような状態。


 片方が生きる限りは片方も生き続ける。

 妖心と主は唯一無二の存在であり、生と死を共にする怪異だ。


 紫月のような、子孫を見守れと命じてから逝く者など滅多にいないのでこの六人は生き続けている。


「あ、母親は亡くなってますからね」

「それは分かります。三つ目の子孫については?」


 十三年前なら朱寧も途絶えたと分かっているはずだ。

 神々の家系図には双子に婿入りしたとしか書かれていないので分からない。


「申し訳ありませんが、それに関してはどの文献にも……」

「それは妾が話そう」


 目を潤ませた紫月はそう言うと少し鼻をすすった。


 簡単な事だ。

 双葉は二つから栄えていた。


 一つの双子の妹と菊地の方はすぐに途絶えたがもう一方の弟の血筋はまだ栄えている。

 遠い子孫が隣にいる。


「俺か……」

「そう嫌そうな顔をするな。其方も妾の子孫なのだ」

「余計に嫌だ」


 本当に嫌だ。

 月火と血が繋がっていると分かればさらに自分が惨めに思えてくる。


 火音は顔を逸らすと続きを聞いた。


「四つ目のこの場所については少しあやふやなのですが……。たぶん、菊地の精神で出来た箱だと思います。あれは自由なので箱に区切りがなくて……」

「帰る方法についてはこの箱の壁を探して壊さなければならん」

「心の自由さや精神面で変わるのですか。それなら話が早い」

「お前の得意分野だもんな」


 月火は友人からアオリちゃんと呼ばれるほど煽り、馬鹿にし、蹴落とすのが上手い。

 その中で自分のこともきちんと棚に上げるのでストレス発散になるのだ。


 火音にぶつけたら火音が鬱になるようなことまで吐き出してしまおう。


「ここの下におります」

「皆さんは聞かない方が身のためですよ」

「私は念の為ついて行きます」

「……イヤホンいります?」


 月火に外の様子を見ておいてくれと言われたので皆は縁側から外の様子を眺める。


 しばらくは変化がなかったが突然、空間が赤黒く染った。

 玄智と水月は肩を震わせ、壁や天井がうねり、小さくなり始めたら炎夏と火光に引っ付いた。


 それから三十分ほどすると塀ギリギリまでうねった世界の壁が傍に来たので火音が声をかけに行く。


「出来たぞ」

「本当ですか? 上手くいってよかったぁ!」

「楽しそうだな」

「ストレス発散になりましたよ」


 両手を握って月火が楽しそうに笑う反面、側に立っていた朱寧は俯いて真っ青な顔をしている。


「……大丈夫ですか」

「……いえ、大丈夫ではありません」

「学園にいい医者がいますよ」


 火音がそう言うと朱寧はハッとして顔を上げた。


 すると話を聞いて面を取った子供たちに手を引かれる。


「お家に帰れるんだって! 早く行こう!」

「朱寧様! お友達が待ってるんでしょ? 私もママとパパに会うの!」


 楽しそうに笑う皆の姿に涙が滲み、少し視界が歪んだまま必死に足を動かしてついて行った。

Happy Birthday 波南

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