表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
47/201

47 再会

「月火!」


 水月と火光が駆け寄り、月火の無事を確認する。


 火音は遠目で嫌そうだなと眺めるだけだ。


「行かぬのか火緖(かつぐ)

「あれの本性知ってるからな」

「本性? 女狐か」

「それは……」


 自分の方だろう。


 罵倒やそういう意味ではない。

 普通に雌の狐の体に入っているのだから女狐。


「なんだ」

「別に」


 言ったら怒られるだろうなと思い、顔を逸らした。


「月火! 早くしろ」

「はぁい」

「終わったら全部言ってもらうからな」


 火音が白黒魅刀を渡しながらそう言うと月火は刀を取る前に真顔で火音を見上げた。


「……あ、初めまして」

「うむ。紫月(しづき)だ。今は九尾の体を借りておる」

「そうなんですね。黒葉から聞いた時は驚きました。神々月火です」


 月火が紫月に微笑んで白黒魅刀を受け取ると紫月は火音を見上げた。


「見たか!? 木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)にも劣らぬこの微笑み!」

「見慣れた」

「で、どうすればいいんですか」

火緖(かつぐ)と同じで切り替えが早いの」


 お前が言うか。

 内心で突っ込むと紫月は火音を見上げた。


 しかし真顔で月火を見る。


「火緖呼びなんですね」

「名乗ったら嘘つき呼ばわりされた」

「真実の名って戸籍上の名前なんですか。現代っぽい」


 それか母親が火緖と思い続けているからだろうか。


 人の想いとはどれほど強力なものか。


 月火は白黒魅刀の紐を解くと少し刀を見てからまた戻した。


「やっぱり丸いですよねぇ」

「そういう刀だろ」

「その刀は好かん。切れんのだ」

「切らないためでしょう」


 月火は自分と似た顔に違和感を覚えながら鞘を右手で握った。


「左利きか」

「何故?」

「右手で持っただろう。この怪異が多い中ですぐに抜けないような持ち方をするほど神々の血は馬鹿じゃないと信じたい」

「色々な血が混じってますからねぇ」


 月火は一番に出てきた元家族の顔を消すと火音を見上げた。


「大丈夫なんですか」

「早く帰りたい」

「来なけりゃ良かったのに。白葉に飛びつきましたね」


 図星を突かれた火音は視線を逸らすと話を変えた。


「見つかったが次は?」

「この際だ。神々の管轄に収めてしまおう」

「それを管理するのは誰だと」


 月火が睨むと紫月は月火の肩に刀を置いた。


「お前だ」

「似てんな」

「自分の性格の原因がよく分かりました」


 月火は肩をすくめるとまた近寄ってきた怪異を切り祓った。


「私がいた場所は真っ白で何もない場所だったんですけど。落ちたからかな……」

「落ちた? 氷があるだろ」


 白葉と会話が出来なくなった直後、苛立っていたので雷を落としたら下に突き抜けたのだ。

 覗き込もうとしたらそのまま落ちた。


 白すぎて崖の端が分からなかったのだが怪異に囲まれたのはそれからだ。

 怪異を祓った後にまた広さを知ろうと凍らせた。



 月火がなんだったのかと腕を組むと紫月は大きく笑った。


「あははは! あはは! はぁはぁ……あはは……! その性格は好きだぞ!」

「どうも」

「苛立って雷落とすなよ」

「不可抗力です」


 紫月は笑い転げ、火音は呆れ、月火は仕方がないと言い張る。


 緊張感のきの字もない。


「……ここって時間軸どうなってます?」

「知らん」

「ここと向こうは全く別の世界だ。時間などない」

「ここにいる間、向こうの世界は進んでいるんですか?」

「どうだろうな」


 話にならない。


 月火は黙ると火音にスマホを見させた。


「……つかない」

「はぁ……。もういいです。適当に従います」


 月火のスマホは壊されたしパソコンもタブレットも教室だ。


 外と連絡を取る手段はない。

 いっそ、また雷でも落としてみようか。


 月火が妖力を確認していると火音に睨まれた。


「やめろよ」

「まだ何もしてませんよ……」


 必要な時には分からないのにこういう時には分かるのか。

 距離か空間が関係しているのかもしれない。



 紫月が皆に声をかけに行ったので月火と火音は少し声を抑えて会話する。


「もう少し隠れて行動出来ないんですか。こうならないように隠してきたのに」

「どっちにしろいつかバレる。諦めろ」

「説明して下さいよ、火緖さん」

「違和感しかない」


 月火はにこにこと笑うと皆の方に歩いて行った。


 少しして、火音が集まってきた怪異を切ろうとしていると紫月が怪異を蹴り倒した。


 危うく切るところだったので少し冷や汗をかく。

 怪異に入った霊だが実体化しているので感覚的には生身の人間を切ったのと変わらないはずだ。


 紫月は兎が巨大化したような怪異の上に乗り、首を絞めながら何かを呟く。


 低く小さな声なので何を言っているかは分からないが相手が首を振っているので何かを問いかけているのだろう。


「この空間のどこかに狐の村があるそうです」


 話しかけてきた月火を見下ろすと酷く苛立った様子だった。


 向こうの会話は聞こえなかったので無視していたが何を話していたのか。


「紫月は狐の村を焼き払うつもりだそうで」

「水族館にいた餓鬼は殺したい」

「現代に似合わない言葉を」


 月火は怪異が首を横に振り続けるのを見て、怪異の上に乗ると紫月を引き剥がした。


「場所は分かったのでもういいでしょう。理由などどうでもいいのです」

「離せ。まだ聞くことが……」

「黙れ。たかが初代当主が現当主に指図するな」


 月火が冷たく睨み下ろすと紫月は何かを言おうと息を吸ったが言葉が出ず、そのまま黙り込んだ。


 前当主よりも次期当主を、次期当主よりも現当主を上に立たせると決めたのは初代である紫月だ。

 引退したものよりも未来のあるものを残せと、そう決めた。


 いくら紫月のおかげで今の月火があるとしても今、先代から神々を急成長させたのは月火の力と人脈があったからだ。

 神々のこの成長は会社にしても妖輩的に見ても過去最高と言われている。


 人々は問う。

 わずか幼い子供が何故これほどまで。

 兄を使っているのではないか。

 火神と水神を脅したのでは。


 兄が、双葉が、他社が、稜稀が。


 もう聞き慣れた言葉だ。

 月火とて馬鹿ではない。

 神々を僻む奴らが何を言ってきたとして、それはただの戯言で、神々が、月火が自分に有利な条件を出せばすぐに手のひらを返す。


 だから利用したに過ぎない。


 補佐として水月の力も借りた。

 園長には多少の融通をきかせてもらっている。

 他社との取引など商売の基本だ。

 稜稀にだって当主の仕事を教えてもらった。


 だが会社を多く立ち上げ、個人会社も持ってここまで成長させたのは月火がいたからこそだ。

 誰になんと言われようと月火は自分の行いを卑下する気はないし手柄を譲れと言われても拒否する。


 子供だからと侮られないよう、厳しい競争社会で飲み込まれないよう人が見ない裏で血の滲む努力をしてきたのだ。


 月火は古くから続いた神々が偉いとは思わない。

 同じような歴史ある火神は先日零落したばかりだ。水神も荒れ始めている。


 その一方で。

 火神の直系ではなかった火音は妖輩界最強とまで謳われる。

 落ちぶれた双葉家の麗蘭は日本最高峰の学園をまとめた。

 名も売れていなかった晦姉妹は天才医師と呼ばれる。


 全て本人たちの人生とともに積み重ねた努力の成果だ。


 誰かの手柄を横取りして刹那の栄光を手に入れたとして、それは自分が落ちぶれる第一歩だ。

 月火はそんな力を手に入れる気はない。



 火音の声で我に返り、紫月から手を離した。


「……失礼」

「早く行くぞ」

「我が子が怖い」

「子供じゃないんですけど」


 月火は少し距離をとる紫月を見下ろす。


 歴史の中で、年々平均身長が高くなっているのと水月と同じ血が流れているので月火の方がまだ身長は高い。


「むぅ……同じようなものだ」

「せめて曾孫以降で」

「どうでもいいから行くぞ」


 ふと考える。


 紫月に関してはほとんど記録が残っていない。

 ただし、三人の子供を産んだのは家系図から分かる。


 月火と歳差も見えない、体型もほとんど同じの体で子を三人も産んだのだろうか。


 江戸や平安は今よりも幼い出産が多いというのは知っているが相当な負担がかかっただろう。

 四人目の最後の一人は流れているはずだ。


 紫月の死因も書かれていなかった。


「何考えてる」

「紫月のことについて。ほとんど同い歳なのに何故子どもが三人もいるのか、と」

「世界には五歳で出産した奴もいる」

「うわぁ……」


 月火は顔を引きつらせると水月の隣に行った。


「初代の死因ってなんでしたっけ」

「僕は暗記が苦手だから……」

「分かってなかったんじゃない? 記録には載ってなかった気がする」


 水月も火光も書物に関しては一通り目を通しているがどこにもそんな文献はなかったはずだ。


「初代って謎に包まれてることが多いよね」

「かなり古いだろうからな」


 玄智と炎夏の話に月火は少し考え込む。


 何故残っていないのかと考えていると勢いよく肩を掴まれた。

 ハッとして立ち止まるとつま先が崖の先に出ていた。


 見上げると火光が心配そうな顔で見下ろしている。


「大丈夫?」

「はい。何故残っていないかと考え込みすぎました」

「そっか」


 紫月は目を細め、崖から身を乗り出す。


「何か見えないか?」

「村ですね。小さいですが……」

「見えるのか」


 紫月は驚いたように炎夏を見上げた。


 炎夏は軽く頷く。


「視力は六点零です」

「え!? じゃあ眼鏡は!?」

「ブルーライトカット」


 玄智は口を開閉させ、紫月は感心した。


「炎夏と言ったな。詳細を教えてくれ」

「はい」


 炎夏は少し歩きながら見えるものを教えていく。


 高い塀で囲まれ、右の側面に門がある。


 門の前には真っ白な狐の面を付けたものが一人と真っ黒な狐の面をつけたものが一人。

 白い方は若く、黒い方はかなりの年配者だ。


「塀の中には村が広がっています」

「門番がいるのか……一人が行くのは危険すぎるな……」

「弓矢があれば炎夏が()てるんだけどね」

「弓矢か」


 紫月は深く頷くとどこからか弓矢を出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ