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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
26/201

26 診察

「はぁ……」


 週末の夜中、もう消灯時間も過ぎたころだ。

 と言っても消えるのは学園内の灯りであって寮は普通に点くのだが。


 月火は火音とともに園内を歩く。

 今向かっているのは五階にある医療棟だ。

 火音の鬱検査と月火も色々と検査してもらわなければならない。


 妖力の件もそうだが最近、また悪夢障害が再発した気がしているのだ。


 先日の森で追いかけられている夢と言い、神社で参拝したら喰われる夢と言い、まともに眠れていないのだ。

 だから火音にいつ寝たと聞かれてもはぐらかしていたし怖いものは何だと聞かれたときも悪夢とは言えずに話を逸らした。

 あのアリスの絵もあの日に見た夢だ。


 スマホは絶賛抑鬱状態の火音に取られ、真っ暗な道を歩く。


「なんでお前までついてきたんだよ。昨日も一昨日も寝てないだろ」

「寝てません。寝たいです」

「不眠症?」

「の一種」


 昨日、昼間の時間に行ったら問題児二人はこの時間に来いと言われたのだ。

 二人の精神面のこともあるので知衣と綾奈には共鳴のことは話した。

 園長にも言った方が情報が集まると言われたのだが変に広がってはやし立てられても嫌なので黙っておくことになったのだ。


 それから階段で病棟に行くと一室だけ灯りが付いていた。


 診察室を覗き込むと綾奈と知衣が共鳴のことについて話し合っている。


「こんばんは」

「来たわね、問題児二人組」


 その呼び方はどうにかならないだろうか。


「四徹の高校生と大鬱になってる教師は十分問題児よ。先に座って」


 月火は火音からスマホを取り返すと並べられた椅子の片方に座った。

 火音は机に近い方に座る。


「まず、二人の心的状態の話ね」


 十一年前に治ったはずの鬱病が再発するのはそう珍しいことではない。ストレスの抱え込みや社会的不安でなるものはなる。


 しかし一番気になるのは月火の悪夢障害再発。

 極度のストレスや不安、心身への負担があったわけではないのに突如として再発した。

 しかも火音と心の繋がりである共鳴を果たし、その火音が鬱を再発したのとまったくと言っていいほど同時期。


「つまり、お互いに鬱的な状態や負のオーラがあったら永遠に治らないってこと」

「私の再発原因がないのであれば火音さんにの鬱さえ治せば大丈夫なのでは」

「いくら繋がりやすくなったからとはいえ火音が原因だけではない。月火にも少なからず負担になるストレスがかかっていたんだろう。思い当たる節は?」

「頭の中に浮かんだものだけで五つ六つはありますけどどれもたいしてストレスにはなってないです。自業自得なので」


 月火が断言すると知衣は緩く首を振った。


「ストレスは他人にかけられてばかりが原因になるわけじゃない。自責の念や自分への嫌悪感でストレスをかけすぎた結果がこれだ」


 火音の方を見ると生気を吸い取られ人形のような顔になっていた。


「こうなると返事すらしなくなる」

「どうやって話すか……」


 月火が火光の新しい写真を見せると火音はそれを受け取った。

 姉妹は合掌すると月火に拍手を送った。


「そんなことはどうでもいいのでせめて悪夢を視ても起きないようにしてください。一度起きたら眠れないんです」

「まぁどっちにしても薬は安定剤になるよ。体重は?」


 知衣があまりにも直で聞くので綾奈は慌てたがこの二人の御前、不必要な心配だった。


「五十四」

「四十六」

「かる!? ちゃんと食べてる!?」

「火音も月火の手料理なのよね。月火のなら問題ない。稜稀が仕込んだ技だから」


 知衣はそれを書き込むと綾奈に渡した。

 綾奈は立ち上がると診察室を出て行った。


「ただし、本当に軽すぎる。一般人より筋力があるんだから重くて普通。間食を増やすかカロリーの高いものを食べなさい」


 知衣の言葉で二人は俯いていた視線を少し通わせると知衣を見上げた。


「面倒臭い」



 その翌日、月火はまだ少し痛む頭を押さえながらも久しぶりに眠れたことに安堵しながら教室に向かった。


 今日、火音は抑鬱が改善しなかったので休みだ。


「今日から文化体育祭の準備が始まるから先に今回の方針を説明するよ」

「いつも通りじゃないの?」

「今年はちょっと違うんだよね」


 火光が試験のことを含めて説明すると知らなかった三人は目を輝かせた。


「面白そう!」

「今日はその話し合いってこと?」

「楽しみ~!」


 そしてその日の放課後、火光が生徒たちと第一会議室に行くとすでに初等部一年から大学部四年までが揃っており、月火たちが最後だった。


「けっ、英雄様は遅れて到着かよ」

「うるさいぞ波南はなみ


 火光はホワイトボードに今日の内容を書いた。


「じゃあ司会やってくれる人。……はいないよね、月火でいいや。頑張れ神々当主」


 いきなりペンを投げられた月火は反射神経で受け取った。


「ちょっと先生」

「早く早く。誰でも指名していいから」

「月火ちゃんが司会やるなら書記やろうかな。書くのは得意だし」


 暒夏は挙手すると女子の悲鳴を聞きながら前に行く。


「副司会は……もういいや。これから第一回文化体育祭の妖輩コースの催し決めをやります。昼間のうちに内容は聞いていいると思うので……」

「聞いてませーん」

「うるさい波南」


 自分が寝ていて聞いていなかっただけだろう。

 火光は波南を黙らせると月火に続けるよう促す。


 暒夏に火光が書いた文字を全て消されて新しく書き直されたのは納得いかないがここは黙っておく。


 最近、月火と火音の様子がおかしいので心配しているのだが二人とも秘密主義なので話してくれない。

 なのに二人の時は話すのだ。


 昨日の夜に水月と愚痴っていたが愚痴よりも先に心配が出てくる。

 火音は火光が神々に行ってから数年間で別人のように変わったし月火も大怪我の傷がまだ完全に治ったというわけではないようなので不安なのだ。


 もし、二人があの夜のように勝てたならいい。

 しかし相打ちや死んでから勝っても意味がないのだ。


 早く火光が信頼出来る人間にならなければ。

 火光になら話しても大丈夫だと、火光ならきっと解決してくれると思ってもらえるように。


 火光がどうしたものかと悩みながら挙げられていく案を見ているとふと視界に何かが写った。

 見下ろすと火音が窓辺に腕を突いていた。

 通りで向かいの女子の頬が染るわけだ。


 月火は一瞬視線を向けたが興味無さそうに視線を逸らして暒夏に指示をした。


 暒夏は指が長いのでペンを書きやすい握り方で持てる。

 それに加えて空間把握能力が異常なほど発達しているのでどこに何を書いているか分かっている。

 なので紙や振り返りながら文字を描き続けることが出来る。


「有能だな」

「休みなんじゃなかったの」

「頑張った」


 月火はこれの前に火光の写真を大量に送ってきたのでそれで回復したのだ。

 可愛い弟を持つとこういう時に助かる。


 綾奈には躁鬱二型ではなく大鬱だと言われたので無理やり上げ続けるしかない。

 だいたい三ヶ月ほどで薬の効果が現れるのでそれまで誤魔化さなければならない。


「……では生徒の意見はこれでいい締め切ります。次に先生方。先生方も参加するんですから何か意見はあるんですよね……?」


 この話し合いに出された案は水泳四百メートルリレーとマラソン大会、模擬戦だけだ。あまりにも少なすぎる。


 月火が首を傾げると教師陣はそれぞれ視線を通わせ、月火の方を見た。


「面倒臭いことすんなぁ」

「教師に意見求めるなら自分出せ!」

「あれ、波南じゃん。相変わらずうるせぇな」


 火音が月火を指さす波南を見ると波南は顔を真っ青にして縮こまった。

 波南は火音の同期生だ。

 勝手に一人相撲をしては勝手に嘆いており、昔に火光に手を出しかけたので火音が虫の息になるまで殴り続けたら勝手に言うことを聞くようになった。


 火光に手を出さないならそれでいい。


「まぁその人の言うことにも一理あるので私から一つ。怪異と戦うトーナメント戦を」

「作れる?」

「あそこに怪異の化け物が御二方ほどおりますので……」


 月火が暒夏を見上げながら小声で火光と火音を指さすと暒夏は納得した。


「聞こえてんぞ」

「自覚症状ありです」

「おい」


 火光はともかく火音まで化け物扱いするのはやめてほしい。

 火音は単なるごく一般の一級妖輩だ。


 火音が不服そうな顔をしていると火光が目の前の寝ている玄智の頭を殴った。


「おい御三家」

「今はただの学生です」

「学生でも御三家なんだよ」


 玄智は口を尖らせるとホワイトボードを見て手を挙げた。


「これは全体で一つの事しかやっちゃいけないの? 学年ごとに出来ることは変わるんだし低学年の配慮が必要だと思うけど」

「あぁ……いくらでも大丈夫です」


 この文化体育祭の発案者は月火だ。

 発案者がいいと言うのだから問題ない。


 月火が頷くと暒夏は片隅に書き足した。


「低学年は低学年で決めた方がいいんじゃない? 僕らは普通が分かんないもん」

「優秀自慢かよ」

「黙れ波南」


 月火達の年は御三家勢揃いということもあり、運動神経も妖輩技術も三学年ほど上のものに取り組んでいたことに後から知らされたので自分達では普通が分からないのだろう。


 下手に考えようとするのではなくそれぞれに任せられるのはいい判断だ。


「では初等部の皆さん、中高等部、大学部と……」

「初等部と大学部をペアにして子供に引っ張ってもらうんもいいんじゃない? ほら、妖輩者は子供慣れしとかないと」


 火光の言葉に数人は目を輝かせ、数人は面倒臭そうな顔をした。


 月火は時間を見ると頷いて初等部大学部グループを暒夏に押し付け(もとい)預けると自分は中高等部のグループに混じった。


 全教師がそれを聞いていると月火が顔を上げる。


「大学部に混じった方が年齢的にはおかしくありませんよ?」

「馬鹿にしてんのか」

「まぁいいや。面白そうだし行ってみよ」


 火光は火音を引きずりながら大学部グループに入っていった。


 それから三十分ほど話し合い、初等部大学部グループでは親子リレーやミニ運動会など体力に問題のなさそうなものが提案された。

 中高等部グループはと言うと。


「トライアスロンに千メートルリレー、水泳八百メートルリレー自由型、マラソン大会、怪異を混じえた実践……」

「初等部と差がありすぎるね」


 暒夏と月火はどこをどうするか話し合う。


 トライアスロンを希望する声が多かったのでトライアスロンではないが陸上リレー、水泳リレー、最後はロードバイクの代わりに怪異と一戦交えるのでどうかという話になった。


「初等部って戦いありますよね?」

「普通はない。五、六年はついて行き始める頃だけど」


 火光の言葉に月火は目を丸くすると同じく驚いている暒夏を見上げた。


「私、小二で行ったんですけど」

「僕小一。……あれぇ?」

「立場を考えたらおかしくな事じゃないよ。小三で特級案件片付けた水月よりマシだって」

「それもそうですね」


 神々兄妹は、あははと笑いながら終わりのチャイムを聞いた。


「きりーつ。第一回文化体育祭の催し決めは終了します。礼」


 そして学生らしい魔法の言葉で本日最後の授業は終わりを迎えた。


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