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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
24/201

24 調査 妹

 管狐で遊んでいると突然火音に肩を掴まれた。


 驚いて振り返ると目の据わって生気が感じられない火音と火音の手を握る神崎かんざきがいた。


 瞬間、月火が神崎を蹴り飛ばした。

 火音は逃げるように火光の後ろに回る。


「朝から元気だねー」

「あんまりはしゃぎすぎないでよ。この後六時間体育なんだから」


 振り返って敬礼のポーズをした月火が可愛すぎて悶えていると火音に頬をつねられた。


「写真」

「そうだ」


 火光と水月はスマホを出すと月火にポーズを頼んで連写した。


「撮りすぎです。消してください」

「百枚まではセーフ」

「五枚でアウトです」


 仕方なく、中間の五枚を残してあとを消した。


 せき込みながら起き上がった神崎は月火を睨む。


「いった~い! 何するんですかぁ? 火音様とお喋りしてたのにぃ、舞鈴まりと火音様がお似合いだからって嫉妬しないでくださいぃ。しかも飛び蹴りなんて……痣が出来たらどうしてくれるんですかぁ?」

「慰謝料でも整形代でも出してあげますよ。社長なので貴方が一生かかっても稼げない額の貯金はあるので」


 火音への返済は月火が終わらせたし盗人からは一括で支払ってもらったので問題ない。

 新商品も売れ行き絶好調なので収入減は無限にあるのだ。


「むぅ」


 神崎がお得意の膨れっ面になると玄智と結月が寄ってきた。


「月火、そろそろ授業始まるけどその勘違いさんは誰? 火音先生は月火に釣り合うぐらいかと思ってたんだけど」

「玄智、言い過ぎ」

「何故私なんですか。結月の方が美人でしょう」

「まっさかぁ! 月火ちゃんの方が数十倍美人だよ!」


 結月の言葉に玄智が頬を突いて肌が綺麗と言っていると炎夏が急いで戻ってきた。


「セーフ?」

「アウト」

「火光に聞いたんじゃねぇ」

「アウト」


 皆がいつも通りの会話をしていると授業のチャイムが鳴った。



 その日の放課後、制服に着替えた月火たちは麗凪の元に向かった。


 月火と火音と火光の部屋に監視カメラが仕掛けられた件で今から犬鳴いぬなりの子供のところに行かなければならない。


 先に妹の部屋に行く。

 インターホンを鳴らすとすぐに応答された。


「話がある」

『学園長さん、少し待ってください』


 それから二、三十秒すると部屋の扉が開いて少しつり目だが優しそうな女の子が出てきた。

 麗蘭の後ろにいた皆を見て驚くがすぐに嬉しそうに顔を綻ばせた。


「先生方に水月様と月火様。どうかなさいましたか?」

「実は私たちの部屋に監視カメラが仕掛けられていまして。何かご存じないか皆さんに聞いて回っているんです。教師の娘さんなら何か知っているのではないかと思いまして」

「監視カメラ……? そ、それって大丈夫なんですか? 他の部屋には……」


 あくまでも知らない人を装うつもりらしい。


 月火は火光に説明を任せると寮の中を少し覗き込んだ。

 玄関から続く一本道に自室とトイレ、その奥にダイニングがあり、廊下とダイニングの間には扉が一枚ある。


 扉と言っても中心部分がすりガラスの扉だ。


 それが閉められ、自室の扉も閉められている。

 月火の寮と似たような閉塞空間だ。


「……と言うことでこのあたりから電波の発信があってね」

「そ、そうなんですね……」

「中に入らせてもらいますよ」


 月火は娘の制止を無視して中に入ると先に自室の扉を開けた。


「ぅわぁ……」


 壁一面にコルクボードが掛けられ、赤と紫で統一された部屋だった。

 コルクボードには友人からの手紙や自分や友人の写真、学校の書類などが貼られている。


「もう、こんなことなら片付けておくんでした……」

「私の部屋よりは数倍綺麗ですよ」


 月火の部屋は商品サンプルや試供品で溢れかえっている。たとえ女友達であっても兄であっても部屋に入れないのはそれを見せたくないからだ。


「ではダイニングも」

「あ、ダイニングは……!」


 月火は扉を開ける直前にハッとして火光たちを部屋の外に指さした。


「私と園長で見るので出て行ってください。さすがに中学生の寮に見知らぬ男性を入れるわけにもいかないので」


 月火は他の部屋でも聞いとけと言って男性陣を放り出すとダイニングの扉を開けた。

 そこも案の定、赤と紫で統一された部屋でソファや椅子、棚の上には大量のぬいぐるみがあった。


「わぁ可愛い。寮の一人って寂しいですよね」

「うぅ……昔から好きなんです……」

「それはそれは。一途でいいではありませんか。屋敷にある赤と紫の人形を機会があればあげます。私はもう一人には慣れたので」


 本家の一室には月火が幼い頃に溜めに溜めたぬいぐるみがすし詰めにされて残っている。


 月火は嬉しそうにする娘の頭を撫でるとそのまま頬に手を回し、顔の高さを合わせた。


「で、盗撮用のカメラのデータはどこにあるんですか? あのカメラはライブ中継が出来るので今はどこかに隠しているのでしょう。場所的に自室ですよね。棚の中? ベットの下? 愛しの火音先生に聞かれたら喋りますか?」

「な……何のことか……」

「いいんですよ、隠さなくても。どうせすぐにバレますから」


 月火は麗蘭に呼ばれて入ってきた水月を見上げた。


「管狐を。過去を現します」

「ん?」


 月火は意味の分かっていない水月から管狐を受け取ると指に絡めた。


「五分前の彼女を」


 すると管狐が月火の指から滑り落ち、宙で姿を変えると娘そっくりの容姿になった。

 しかしその色は白く半透明だ。


 管狐はソファに寝転がると人形で遊ぶふりをする。

 そのあとすぐに起き上がるとインターホンの前に行き、同じ声で同じことを言う。


『きっと火音様だよね。楽しみだなぁ、兄様も上手くやるといいけど』


 管狐はそんなことを言いながら扉を開ける直前に部屋に入った。


『あの九尾使い、早くいなくなってくれないかな。そしたら火光様が悲しむから火音様も悲しむか。本当に邪魔くさい』


 管狐は電気の側で何か引っ張り下ろすような動作をした後、玄関の方に向かった。

 月火が肩を掴んで引き留めると管狐は月火の腕をクルクルと上がり、首に巻き付いた。


 月火は電気の側を観察する。

 眩しくて見えにくいが薄い紫の天井にはわずかに線があった。


「水月兄さん、届きますか?」

「どこ?」

「電気から一センチほどの正方形。押してみてください」


 水月が言われたまま押すと何かの紐が降ってきた。


 娘は顔を真っ青にして、月火はそんなことに興味はなく好奇心のままにその紐を引っ張る。

 電気の紐的な感じかと思ったがそうではなく、無限に糸が出てきて少々戸惑う。


「月火、そのまま引っ張って」

「はーい」


 完全に楽しんでいる月火が紐を引っ張り続けるといきなり、部屋のコルクボードが回転し始めた。


 下側が裏に回り、上下が逆になると同時に紐は勢いよく天井に戻って蓋が閉じる。

 皆が部屋の壁に愕然としている中、月火はベットの上に乗って天井に手を伸ばしたり、背伸びで開けようとする。


 しかし、当然ながら月火では届くはずがない。それなのにこの娘は一人で開け閉めしていたのだろうか。

 それに管狐はそんな動作をすることなく、入って普通に紐を引いていた。

 となると。


「兄さん、もう一度」

「遊んでない?」

「気になることがあります」


 仕方のなさそうにまた紐を下ろしてくれた水月に礼を言うと今度は割かし強めに引いてみた。

 下からガタンっという何かが外れたような、開いたような音がする。


 月火は机の下の棚に飛びつき、中を開けた。

 下の段が鍵付きだったので中段を開けたのだが中は底のないただの枠組みだった。

 代わりに下の機械と目が合う。


「あ、兄さんこれ改造されてます」

「……本当だ。からくり部屋を作るだけあるなぁ」


 月火は機械の回収を水月に任せるとようやく部屋の壁に目をやった。


 全面に火音の顔写真や学生時代の写真が何重にも重ねられて貼られ、棚のあらゆるところから火音推しグッズが出てきた。


「あ、面白いもの発見」


 月火は棚の奥深くから、集合写真で月火の顔だけマジックで塗りつぶされた写真を部屋中に放り投げる。


「……悪趣味すぎる」

「大体こんなものですよ。さすがにここまで多いのは久しぶりに見ましたけど」

「気持ち悪い……」


 出来れば本人の前で本音を言うのはやめてあげてほしい。


 娘の一菜かずなは膝から崩れ落ちると涙を地面に落とした。


「なんで……なんでいっつも邪魔するのよ……好きなものを好きでいるのは悪いことなの? 一途でいいって言ってくれたのに……。あんたのせいで私の父親は鬱病になったのよ!? あんな根暗といるぐらいなら一生この部屋に閉じこもってた方がマシなのに!」


 大粒の涙を流す一菜に皆戸惑い、顔を見合わせる。

 しかし月火はそんなことは気にせず、一菜の前にしゃがんだ。


「別に火音先生が好きなのはいいと思いますよ。顔面国宝級で強さも家柄も十二分。性格さえ治せば文句なしの超優良物件ですから。好きになっても仕方ないと思います」


 火音はこめかみを引きつらせ、火光苦笑いをこぼした。

 けれど、と月火は続けると片手で一菜の頬を挟み込んだ。


「貴方の愛がどんなものか私には関係ありませんし知る気もありませんけどね? 私の会社、私が経営する会社の商品を悪用するのはやめろ。作ってる側だってお前みたいな餓鬼に悪用されたくて作ってんじゃねぇよ。私の会社の商品を穢すな。あとお前の父親が辞めた件に関しては、貴方とお兄様が責めたせいで精神を病んだと貴方の愛しの火音様が聞いたそうですよ。どうせ私を呼び出したことと火音先生に迷惑をかけたことに関して責め立てたんでしょう。自分の過ちを他人に押し付けないでください」


 月火は一菜を床に投げるように離すと立ち上がって涙で濡れた手を少し体から離した。

 火音の嫌悪感が伝わってくる。


「罪を犯しながらファンをやっていても本人は喜びませんよ。火音先生も今回のことが起こるまでは我関せずだったでしょう。自業自得です」


 月火の言葉でハッとした一菜は火音を見上げた。

 火音は薄く微笑むと一菜の側にしゃがんだ。


「カメラのデータは?」

「火音さ……」

「データは?」

「……機械の中と向こうにあるUSBの中に」


 それを聞いた火音はそれ以上言葉をかけることなくダイニングに向かった。


 絶対にカメラの中には抑鬱状態が映っているはずだ。

 あれだけは絶対に阻止しなければ。


 火音がUSBを探す間、月火は人形で遊んでいる。


「……あった。月火、修復不可能まで壊しとけ」

「自分でやればいいものを」


 あんなもの、触りたくない。


 火音は拒否すると月火が持っている二体の人形を見下ろした。


「中にカメラが仕込まれています。中に入った火音先生を盗撮する気だったんでしょう」

「どこまでも懲りない奴め」


 月火は水月にぬいぐるみのカメラ摘出と処分を頼むと次の部屋へと向かった。

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