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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
22/201

22 頼み事

 皆に褒めれてまだ耳が赤い水月は立ち上がるとまたどこからか先程、火音が握りしめていた資料と水月が今の話し合いの合間にまとめた資料を出す。


「何か起こったのか?」

「何か起こる前に対処したいんだよ」

「なんだ?」


 月火は水月から資料を受け取ると麗蘭にそれを見せた。


「六月頃に神々社の家電店で計四十個の小型カメラが購入されました。それのうち十六個が火音先生の寮内、二十二個が私の寮内と廊下、ベランダに、二個が火光先生の寮内で見つかりました」


 神々の店では転売と意匠権に関する問題等を防ぐために署名と身分証明書提示をお願いしていることを説明すると涙目で感動された。


「しかしそれは困ったな。どうやって寮に入ったのか分からないなら対策のしようがない」

「犯人が分かってるんだから謹慎か停学処分にしろ」

「分かったのか?」


 だから身分証明書提示をしていると何度言えば分かるのか。

 寝不足で飛んだネジは寝ただねでは見つからなかったようだ。


 火音が呆れて諦めると水月が月火に言われる前に調べた内容を麗蘭に渡した。


「い……犬鳴(いぬなき)……」

「購入者は犬鳴だが俺の監視カメラを見ているのは娘の方だ。たぶん月火の奴は兄。火光のは妹が好奇心でやったんだろうな」

「……明日の放課後、二人の寮に行く。とりあえず寮は安全に戻ったんだな?」


 三人は顔を見合わせると肩を竦めた。


 もしかしたら合鍵を作られているかもしれないしピッキング技術があるかもしれない。


 ピッキングはそう簡単には出来ないはずだが妹の方は医療コースにいたはずだ。

 手先が器用でもおかしくない。


「……神々兄妹はまとまっておけ。火音は怖いなら寝るな」

「別に怖いわけじゃない。気持ち悪いだけだ」


 もし襲われたとしてもだいたいは組み伏せることが出来るし確実に現行犯なのでその場で通報だ。


「とりあえず何かあったらすぐに通報しろ。その後に私への連絡も忘れるな」

「分かってる」

「はい」

「じゃ、今日はかいさーん」


 麗蘭は手を振り上げると資料をまとめて机に置いた。

 ふと思い出して月火を引き止める。


「月火、こっちに来い。残りは帰れ」

「ストーカーがいるのに一人にするわけないじゃん。……扉の前で待ってるよ」


 月火は頷くと麗蘭の向かいに座った。


「両親が離婚したと聞いた。稜稀(いづき)様も水哉(すいや)様も三人も喜んでいるだろう」

「はい。ようやく解放されたので」


 月火が頷くと麗蘭は先程とは違う真剣な顔になった。

 年に一度、見れるか見れないかの至極真剣な顔だ。


「月火が特級に上がらない理由は父親にあると聞いた。水月もそうだ。この離縁を機に特級の試験を受けてみないか?」

「……火音先生も晦先生もそうですが何故そこまで特級に上げたがるのですか」


 月火がいなくとも特級が出現する率は極わずかなはずだ。


 今年になってから三件しか報告されていない。


 月火が聞くと麗蘭は少し俯いた。


「本当は上層部の内密の話なんだが……」


 そう言って麗蘭が話したのはこれからの未来の事。


 妖輩者の血が薄まる中、ストレスを抱えやすい現代日本で怪異は年々強くなっている。


 だからこそ、今の中等部、高等部を育てて経過を見ながらそれを繰り返す。

 血が薄まるなら濃い血を少しでも残していかなければならない。


 それが御三家だが御三家の中でも最も血の濃い神々の二人は一級だ。

 金額的な面もあるがその任務の量的にも一級は最も危険とされる。


 そんな中で二人が死、もしくは再起不能になればこれからの未来がどうなるか分からない。


 それともう一つ。


 火光が火神の血筋で特級なのはよく知れたことだ。

 火音も火神の血筋ながら特級か、それ以上の強さを持っている。


 月火も水月もまた、神々の血の力と本人の努力によって異常な強さを持っている。

 そして周囲はその二人が一級にいることに疑問を抱く。


 何故、火光が特級なのに三人は一級なのか、と。

 火光には隠れた何かがあるのか、特級はそれほど強いのか、三人はたかがその程度なのか。


 ならば、ならば、ならば。


 火光を利用して何が出来ないか。

 学園の勢力は落ちつつある。上層部も神々の成長についていけていない。


 それなら神々当主の兄で特級で火音の加護を受ける火光を使い、自分達の立場を上げることが出来るのではないか。


「少なからずだが学園の教育に不満を抱く者もいる。それは私の実力不足で月火達に頼っていいことではないと分かっている。だがだからこそ、火光の安全のためにも、暴動を起こさないためにも、特級の試験を受けてはくれないだろうか。落ちたければ落ちたらいいし本気でやらなくても暇潰しでもいい。頼む、これまで生きてきた中でも滅多にない有望な人材達なんだ。月火も水月も火光も火音も。だから、頼む」


 麗蘭は立ち上がると深く頭を下げた。


 月火は正直、一生特級に上がる気はないでいた。


 それは血が繋がらないという事を知られている火光を養子と思うものも多い。

 それで火光の立場を特級と月火の兄というもので固めていたのだ。


 だが今となってはそれでは駄目だ。

 下から支えるのではなく、隣に並んで囲わなければ。


「分かりました。文化体育祭の後になるかもしれませんが受けてみます」

「本当か!?」

「ただし、兄や火音先生が受けるかは本人の意思を尊重します。神々の当主だからと言って無理やり受けさせる気はありませんので」


 月火の言葉に麗蘭は何度も頷いた。

 緊張が解けて目に溜まった涙を拭う。


「寝不足で涙腺が緩くなった……」

「元々緩いので大丈夫です」

「普段は泣かないからな!」

「普段は、ね」


 月火は小さく笑うと挨拶をしてから部屋を出た。



「何話してたの?」


 四人で月火の寮に戻り、簡単な夕食が終わった後。

 火音もここで寝ることになったので火音と火光がソファに眠り、月火は約束のクッキーを作っている。


 水月はカウンター越しに見学だ。


「特級に上がってほしい、と」

「皆上げたがるね。別にもういいけど」

「一番は火光兄さんの身の安全でした。御三家の中で一番立場が弱いですから」


 養子と実子では立場はずいぶんと変わるものだ。


 本当は病弱だからと言って神の子から人の子になる七歳まで隠し通し、実子とすることも出来た。


 しかし火音とあまりにも似ており、火音まで引き抜くと火神派の派閥が反乱を起こす可能性があったので仕方なく全てをさらけだしたのだ。


 それでも水月にとっては双子の可愛い弟だし月火にとっても頼り甲斐のあるいい兄兼担任だ。


 火音ではないが火光を身の危険に晒すぐらいなら自分が身代わりになった方がいい。


「でもまぁ……特級に上がったら母さんとおじい様が楽になるだけだよね。たいして強くなるわけでもないし」

「……ですね。火光兄さんが特級と戦っているなら私達も呑気なことは言ってられませんから」

「月火は呑気にしてていいんだよ。僕が火光と一緒に守ってあげるから」


 水月が少し眠たそうな声でそう言うと月火は困ったように薄く微笑んだ。


「守られすぎては自立出来ませんから」

「偉いなぁ……。あんまり離れすぎないでね?」

「もちろん」


 月火はオーブンにクッキーを入れると髪を解いた。

 後は明日の朝に開けて袋に移すだけだ。


 月火は火光と火音にブランケットをかけると水月にもブランケットを渡した。


「それじゃあおやすみなさい」

「おやすみ」


 水月は一人用のソファに座ると足を抱えた。


「……二人とももっと甘えてくれたらいいのになぁ……」


 そんな呟きをして、水月も眠りに落ちた。

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