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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
196/201

95.「さ、血祭りを始めよう」

「来ましたね」



 いつもの真剣な顔とはまるで違う、殺意の見え隠れする表情に御三家の皆は顔を切り替えた。


 袴姿の月火は腰の刀に触れ、震える手に力を入れた。



「行こう」


 火音の手が背中に触れ、小さく頷いてから校庭の中心部に足を向けた。




 狐の白葉と黒葉は歯を剥き出しで警戒し、雷神もかなり警戒している。



 特級怪異に座った暒夏と珀藍と一菜、その後ろには時空と、暒夏の隣には稜稀も立っている。 




「お出迎えご苦労様。袴姿も可愛いねぇ」

「こちら側としては早期引き取りを願いたいのですが」

「君とそれが一菜を攻撃した時点で無理だよ。珀藍(はくあ)だけにしときゃ良かったのに」

「つまり殺すしかない、と」




 以前、月火と火音の元に一菜と珀藍が変装でやってきた。


 その時に二人の脊椎を切断したので二人とも怪異に座り、生活しているようだ。


 床にでも這いつくばっとけばいいものを。





「まぁこちらも半身不随にされたんですからおあいこでしょう。にんず……」


 月火が刀に手をかけた時、暒夏の後ろ、怪異に立っていた稜稀が眉を寄せ、眉間にシワを刻んだ。



「半身不随って誰が?」

「貴方の血しか繋がってない娘ですけど?」

「本当に……?」

「貴方が作った黒縄(こくじょう)のせいで左半身が麻痺したんですよ。酷いですね、腐っても実の娘なのに。あぁ貴方が興味あるのは当主だけですっけ?」




 火音は月火の背をさすり、自分を奮い立たせている月火を落ち着かせる。



「私は月火の……!」

「稜稀、お喋りはいつ終わる?」


 足を組んだ暒夏は動揺して顔面蒼白の稜稀を見上げた。




 稜稀は暒夏と月火を交互に何度も見下ろし、目を泳がせ動揺する。



「月火……私……」




 稜稀は月火を殺したかったわけではない。


 月火も水月も火光も自分の子供で、大切に育ててきたのだ。

 それを自分の手で、なんということを。



「月火は……なんで……」

「ねぇもういい?」

「最後に貴女方の目的を聞いても?」



 刀を抜いた月火は暒夏を見上げ、半歩下がった。


 少し前の優しい目とは違い、冷たく、死を纏った目だ。





「目的はバラバラかな。僕はそいつを殺すこと。あわよくば月火ちゃんも手に入れたい」


 暒夏は火音を指さし、にこりと笑った。



「そいつ殺して月火ちゃんが来れば被害は出ないよ?」

「言葉が違うでしょう。被害を出して解決出来る、の間違いですよ」

「最小限に抑えられるんだよ? 当主として……」

「当主として最善。人間として最悪。私は当主である前に一人の人間なので」




 暒夏は頬杖を突くと満足そうに笑う。


「言うと思った。だからこれをやったんだよ」

「では言わないで下さい。気分が悪い」

「まぁ何を言われようとそいつは殺すし月火ちゃんは連れて行くから。……あぁ、殺す気はないから安心してね」



 暒夏はにこにこと笑うと稜稀を見上げ、喋れなさそうだなと悟ると前に聞いた事を伝えた。


「稜稀はね、月火ちゃんが当主に上がって自分の評判がガタ落ちしたのが気に食わなかったんだよ。なんて言ってたかなぁ。えぇと……えぇとねぇ……確か……」


 確か、月火を当主の座から降りざるを得なくしてから自分が当主に戻る。

 そうすれば仕事は月火のまま、稜稀は右肩上がりの評判を維持した神々当主になれるらしい。




 実に馬鹿で滑稽な考えだ。


 そもそも当主が変わった時点で仕事も移行される。

 だから水神も火神も仕事が止まり、月火に迷惑をかけたと言うのに。


 仕事が移行されたとして、稜稀は月火のような奇想天外な発想力とそれを実現する技術を持ち合わせていないので、たとえ返上されたとしてただの恥晒しになるだけだ。




「黒縄の時もね、そんな事したら死ぬなんて分かりきったことだったのに後先考えず行動した結果がこれだよ。馬鹿でそそっかしいよねぇ。月火ちゃんとは正反対」




 自分の好きなように動き、やりたい事を行い、結果後悔する。

 無能で馬鹿なクズだ。



「御三家は馬鹿が多いよね。稜稀もそんな事するんだったら譲らなきゃ良かったのに。月火ちゃんには一度も言ってないんでしょ? プライドが高いだけ、迷惑千万。御三家の恥晒しだね」

「貴方も恥というか汚点ですよ」

「そうだよ。水神の名を持って一級にも上がれない。弟と比較されるただの恥晒しさ」


 ただの恥晒しなら、自分の性格や理論をねじ曲げてでも汚点となり、史上最悪という名を冠した方がそういう性格なのだと思われる。



 下手に努力して出来ない何かを行うよりも、悪に走って出来る最高の事をした方が自分的にも世間的にも心地よい。



「ただ正義を語って生き恥晒すぐらいなら死んだ方がマシさ。月火ちゃんも思うでしょ?」

「私は正義を語って生き恥晒すのも名家の汚点として高笑いするのも同等だと思いますけどね」



 だが人間とは努力を見せ、注目を集め、同情されたがる。そういう生き物なのだ。


 だから共感の言語が多く、仲間意識が強く、束にならないと生きられない。



「まぁ束になって押し寄せたら一気に切れるので楽なんですけどね」

「あはは、そういう考え方好きだよ?」

「そうですか。で?」


 だからなんだ。



「貴方は死にますし私は生き残ります。これから死ぬ人間に同情されても興味がないと言いますか」

「冷たいねぇ。でも僕は死ぬ気ないからさ。ちょっとは興味持ってよ」

「そもそも人間に興味がないので。どうでもいい貴方に興味が湧くことは死んでもありませんよ」

「ざーんねん」




 暒夏は口を尖らせると、月火の周りにいる御三家の中、その中でも水神の方に目を向けた。



「……少ないね。三人か……」

「あぁそう、水神前当主夫妻知りません?」

「知ってるよ〜。僕がさらって実験に使ったもん。やっぱり血が大事なのかなー。特級の血を入れても死ななかったの。いやーびっくり!」

「普通は死ぬんですか」

「そう。妖輩じゃない奴に入れたら一滴で即死。難しいね!」



 つまり今までの異型は全て妖輩という事だろうか。

 色々と分かりそうだ。



「面白そうな実験してますね」

「あ、興味湧いた? 月火ちゃんなら大歓迎だよ」

「歓迎される気はありませんけど」




 月火は小さく震えた溜め息を吐くと刀をしっかりと握り、顔付きを変えた。




「今日が貴方達の命日です。血の繋がった家族に言い残すことは?」

「ないね。死なないもん」

「いつまで強気でいられるんでしょうね」



「一生勝ち続けるさ」








 通告通り、特級が五体。

 猫が一体、異型が二体、スライムのようなものが一体と半分骸骨が一体。





「さ、血祭りを始めよう」

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