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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
192/201

91.今すぐ逃げろ、と。

 現在、月火は火音に抱かれたまま痙攣している。




 決して不純なことではない。

 ただ、神通力の影響で激痛が走りもがき苦しんでいると言うだけ。




「痛い……! 痛い痛い!」


 背中の傷もそうだが、左半身が全体的に軽度ではあるが麻痺しているので痛いのだ。




 激痛で全身が痙攣し、月火は倒れ込んだ。

 火音はたださすってやることしか出来ず、それでも月火は右手で火音の手を掴んでいる。



 痛みから涙が溢れ、発狂していると寮に炎夏と水月がやって来た。




「月火!?」

「何してんの……?」

「神通力で麻痺治し中」


 火音が左腕だけで暴れたのだから半身の月火はそれはもう生きた心地がしないだろう。




「大丈夫なの?」

「大丈夫ではない」

「火音先生っていっつも冷静よな」

「俺が慌てても意味ないじゃん」


 この論理馬鹿が。




 炎夏は呆れると先に荷物を下ろした。

 先程まで水虎に弓道を見てもらっていたので弓矢持ちだ。



「なんか出来ることある?」

「ない」

「あったらやってるだろ」



 妙に冷静な炎夏がそんなことを言っていると、火音を掴んでいた手の力が抜けた。

 見下ろせば月火が倒れ、半身が痙攣している。



「気絶した?」

「いや、放心してる」

「放心……」


 水月と炎夏は月火の顔を覗き込み、虚ろな目を見て心配そうに眉尻を下げる。





「月火、もう終わるから」

「痛い……」



 それから十秒か、二十も経たないうちに半身の痙攣が収まった。

 月火は深く息を吐き、涙を拭う。



「いった……」

「背中も治った?」

「たぶん」



 まだ痺れているのでよく分からないが、たぶん大丈夫だ。

 背中の傷に関しては治っていなくても放置しておけば治る。



「月火って泣くんだ」

「泣く時は泣くよ」

「兄さん退いてください」



 月火は覆いかぶさってくる水月を退かすと、正座していた火音によって膝に座らせられた。


 もう疲れたのでおとなしく従っておく。




「午後から訓練だろ。行けんの?」

「あぁ忘れてた……。大丈夫だと思います。普通に動けるので」

「じゃあ玄智も誘うか」

「ですねぇ」



 月火と炎夏が御三家同い年グループに連絡するとすぐに返信が来て、一人でずっとやってるよと返ってきた。

 今は休憩中だと。



「……行きましょうか」

「無理すんなよ」



 月火は心配する火音を落ち着かせ、着替えると火音とともに校庭に降りた。





 校庭には珍しい人物が数人おり、皆がこちらを向いた。


 夢和(ゆめな)夢望(ゆめみ)緋紗寧(ひさね)と綾奈。


「お久しぶりです夢和さん、夢望さん」

「お久しぶりです月火様」

「お久しぶりです」


 火光は玄智と戦っており、こちらには見向きもしていない。



 夢和は火光の元婚約者で、月火たちと同じ共鳴体現者だ。

 妹の夢望と共鳴したらしい。


「共鳴について少し話し合っておきたくて……」

「同意見です。分からないことも多いですし」



 月火は緋紗寧と話している火音の手を掴むと誰もいない校庭の端に移動した。



「まず……お二人はどこまで?」

「えぇと、思考は伝わります」

「目の色は?」

「夢望が変わります」


 つまり月火と夢望が色持ち。火音と夢和が無色透明ということか。



「妖心は繋がりますか」

「私たち、共鳴した状態じゃないと妖心が出せないんです。でも、ほとんど共鳴してしまうので……。一応、妖心同士で顔は合わせていますが特にこれといったことは……」

「あれは私たちの妖心特有かもしれませんね。と言うかそもそもの相性な気がします」


 そんな全妖心が会った途端いがみ合うようなことはしないか。




 四人が共鳴について色々と情報をすり合わせていると玄智と引きずられた火光がやってきた。


「お話中のところ失礼」

「大丈夫ですよ」

「月火、低学年に戦いみせてあげて。麻痺治ったらしいね。おめでと……」

「治ったの!? いつ!?」


 いきなり火光が顔をはね上げ、月火に顔を寄せた。




 月火が離れる前に火音が引き剥がし、火光はハッとする。


「さっきです。死ぬ気で頑張りました」

「炎夏が壮絶だったって言ってた。泣い……」


 玄智の腹を蹴り上げ、ふと夢和たちを見た。


「ちょうどいいですね。やりましょうか」

「え!? 私たちですか!」

「ただの実力査定ですよ。行きましょう」





 月火は久しぶりに無意識に歩ける左足に歓喜しながら火音と共鳴した。


 体温と脈の上昇で耳鳴りが響き、目の色が紫に染る。






「……了解」

「臨機応変に」


 脳内で作戦を組み立てた後、火音に確認してから軽く頷いた。





 共鳴ペアがそれぞれ立ち位置につき、火光のホイッスルで戦闘が開始される。



 玄智と炎夏の前には大人数の小中大学生が立っており、皆が目を凝視している。


 さすがの炎夏でもほとんどの動きを捉えきれず、見えるのは着地や踏み込みで降りた一瞬と妖心術を出す時だけ。




 圧倒的力差で圧倒され、最後は月火が夢和を地面に叩き付けて終わった。


 夢望も火音も傷だらけなのに対し、絶好調の月火はほぼ無傷の満面の笑みだ。


「わーい!」

「いたた……」

「絶好調だね月火」

「私は常に絶好調ですよ」

「今まで絶不調だっただろ」


 月火は炎夏と玄智と話しながら朝礼台に座った火音の手当をする。

 夢和と夢望は火光と綾奈に手当を受けている。



「やっぱり共鳴の方がいいんだね。共鳴って限られた人しか出来ないのかな……」

「さぁ。世界中を探せばペアがいるかもしれませんよ。ですが共鳴体現者ということは妖輩という事になりますし妖輩なら既に死んでいてもおかしくありません。もしかしたら怪異になっているかもしれませんし妖輩が嫌で普通に働いてるかも」

「お前よく喋るなぁ」

「えへへ」


 月火は包帯を縛ると体の向きを返した。




「瑛斗! やりますよ」

「はい」

「目隠しして斬り合います。はい布」

「目隠し……」


 瑛斗が布を受け取り、付けようとしているのを横目に月火が刀を抜くとすぐにそれをやめた。



「剥き出しでですか!? 先輩目隠しは!?」

「あ、つい癖で」

「それ前も言ってましたよ」

「どうせ切れませんし」

「それも言ってました」



 月火はおとなしく刀を収めると布で目を縛り、瑛斗の腕を掴んで歩き始めた。



 瑛斗も気配はある程度察知出来るが、まだ視界が塞がれた状態で歩くとなれば危険なので月火が手を掴む。


 火音が荒ぶらない内に済ませよう。



「先輩、爪刺さってます」

「ご愁傷様」

「調子は大丈夫なんですか」

「治りましたから」

「えっ!?」



 あぁ、綾奈に杖を返さなければならない。

 麻痺を治したことも言っていないし言ったらたぶん絞られるので病院に直接返そう。




 瑛斗をその場に置き、自分はいつもより少し近い辺りに立つ。


「玄智さん! 声掛けお願いします」

「はーい。…………開始!」



 一時になった瞬間、玄智の掛け声とともに月火が切りかかった。



 音と妖力の動きでそれを防ぎ、腰や脛など痛いところばかり狙ってくる月火の刀を防ぎながら、その流れで自分も反撃する。





 しかしふと違和感に気付く。


 月火の刀のスピードが尋常ではない。

 目で見えないので当たり前だが、考えずに反射神経でしか動けない。


 必死に防ぎ、反撃する余裕もないまま押されていると、ふと脳が警戒を鳴らした。



 今すぐ逃げろ、と。




「あっ……」

「月火!」

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